上 下
156 / 229
マイケルの自空間編

第156話 大型の妖魔

しおりを挟む

都に妖魔が現れた日から数日、それからは平穏な毎日が続いていた。

トゥールは妖魔の討伐命令がない時は街に降りて民衆と交流し、困り事があれば手助けをした。

風の刃は民衆に恐れられていた。その力で妖魔を倒すことはもちろん、人を殺しても咎められることがなかったからである。

妖魔を倒すことで守られていると感じる一方で、腫れ物に触るように距離を保っていたのだ。

そんな心の距離をトゥールはいとも簡単に詰めていった。

民衆の中で、風の刃に対するイメージが確かに変わっていた。

そんなある日、花の城の廊下にてタケルと出会った。

トゥール「お疲れ様です」

タケル「久しぶりだな、獺祭は習得したか?」

妖魔が都に現れたあの日から、トゥールはタケルを避けていた。

トゥール「いや、まだです」

タケル「そういえば、街人達の間でお前は有名人になっているそうじゃないか。中には俺様にも気安く話しかけてくる輩もいる。これはお前の影響か?」

トゥール「有名人だなんてそんな。俺は一人の同じ人間として談話を楽しんでいるだけですよ。別に風の刃だからって皆と会話をしちゃいけないなんてルールはないですよね?」

タケル「確かにそうだな」

「おっと、こんなところでタケルさんに会えるとは」

廊下の曲がり角から長身のひとりの男が姿を現した。

タケル「カミヤか、西の討伐は順調か?」

カミヤ「ええ、都に妖魔が現れてからは比較的静かですね」

タケル「そうだ、カミヤ。こいつが例の男だ」

タケルはそう言ってトゥールを指差した。

カミヤ「ほう、あまり強そうには見えませんけどね。初めまして西風のカミヤです」

トゥール「トゥールです、初めまして」

カミヤは刀を腰に下げ、弓を背中に背負っていた。

トゥール「弓も使うんですか?」

カミヤ「ええ、遠距離で戦う際には弓の方が風の力が強いですからね」

タケル「カミヤは風の刃で唯一、刀と弓の両方を扱える者なんだ」

トゥール「そうなんですか」

カミヤ「刀は本来接近戦を行うための道具ですからね。無理して刀での遠距離攻撃を編み出すよりも遠距離戦用に作られた弓の扱いを覚える方が合理的じゃないですか?」

トゥール「確かに」

カミヤ「まぁ、弓は南風のコヘのお父様にあたるゴウセツ様が作り出した戦い方ですから、刀に比べて歴史が浅いですからね」

トゥール「そういえば、弓を使っている人を見たことがないです」

カミヤ「弓を教えられる人がいないからね、僕も独学で習得したんだ。コヘの見様見真似でね」

タケル「お前は真似しようとはするなよ?刀と弓の二刀流なんて職人技、こいつにしか出来ないからな」

トゥール「弓なんて扱える気がしないですよ」

その時、城内にドラの音が響き渡り、黒頭巾の者が姿を現した。

「タケル様、カミヤ様。南方向に大型の妖魔が出現。巫女様より討伐指令が出ています」

トゥール「大型、、、、、」

タケル「大型は東西南北の風にしか討伐出来ないとされる程の強力な妖魔のことだ。だが南となると、、、、」

カミヤ「僕らの出番はないですよ。大型の時にしか動かない、彼が重い腰を上げるはずですから」

トゥール「彼?」

タケル「南風のコヘだ。あいつは大型かつ南側の妖魔の時しか出撃しない。日々南側の指揮をとることもなく、一日中布団でゴロゴロしてやがる」

トゥール「そんなんで良いんですか。。。南風なのに」

カミヤ「それでも良いとされるほど、彼は強いからね。巫女様も何も言えないんですよ」

トゥール「それで、お二人は救援に行かないんですか?」

タケル「南風の仕事を奪うわけにはいかないからな」

トゥール「でも大型なんですよね?もしコヘさんが失敗したら、南側は甚大な被害が出るのでは?」

カミヤ「彼がやられるなんてことはあり得ないよ。でもそもそも彼が出撃するということは街の一つや二つは消えてなくなるだろうね」

トゥール「どういうことですか?」

タケル「大型の妖魔を一撃で消し去るようなバケモノだからだよ、あいつは」

トゥール「、、、、、また無意味に人が死ぬんですか」

トゥールの表情が曇る。
それを見たタケルがトゥールへと声をかけた。

タケル「お前の正義感は認めよう。だがな、躊躇すればもっと死人が出るぞ。南風はそれだけは分かっている」

トゥールは走り出した。
妖魔を倒すために人が死んでも良いなんて到底思えない。

せめて場所を移動するなり被害を最小限に抑える戦い方を考えるべきである。

タケルがそうであるように、おそらくその南風のコヘという男も簡単に人を殺すのだろうと推測出来た。

そうはさせない。

トゥールは城を飛び出し、南へ駆け出していた。










しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【文庫化】室長を懲らしめようとしたら、純愛になりました。

ひなの琴莉
恋愛
同棲中の恋人が親友と浮気をして、子供を作っちゃいました。結婚のために貯金していたのに、出産費用に当てると言われお金がないヒロイン。札幌で暮らしているのが辛すぎて、大好きな仕事をやめて、心機一転北海道から東京へやってきた。お金がないので、とりあえずボロボロの安いアパートに住んだが、隣からは甘い声が夜な夜な聞こえてくる。しかも、いつも違う女の人が出てきて、取っ替え引っ替えしているらしい……。チャンスがあれば、お隣さんを懲らしめたい!!! お隣さんは、なんと……! 浮気が絶対に許せないちょっぴり暴走気味のヒロインと、真面目な上司の不器用な恋模様をお楽しみください。 書籍化していただき、本当にありがとうございました。 応援してくださった皆様のおかげです。 この感謝の気持ちを忘れずに、これからも精進してまいります。 2022/9/7 『室長を懲らしめようとしたら、純愛になりました。』がタイトルも新たになって、 文庫化されました。 ★御曹司を懲らしめようとしたら、純愛になりました。 文庫には、番外編が付いているので ぜひ買って読んで頂けるとすごく嬉しいです。

婚約破棄されまして・裏

竹本 芳生
恋愛
婚約破棄されまして(笑)の主人公以外の視点での話。 主人公の見えない所での話になりますよ。多分。 基本的には本編に絡む、過去の話や裏側等を書いていこうと思ってます。 後は……後はノリで、ポロッと何か裏話とか何か書いちゃうかも( ´艸`)

我関せずな白蛇の亜人が恋に落ちる

伊織愁
恋愛
15歳の成人の儀式で、アンガスの手の甲に番の刻印が刻まれた。 15歳までに番に出会っていれば、儀式の時に現れるらしい。 期待もせず、我関せずな態度で儀式に参加していたが、アンガスの番は幼馴染のローラだった。 今まで友達以上に思ったことがない相手で、アンガスは困惑するばかりだった。 しかも、アンガスは15歳まで異性と触れ合って来なかった為、ローラにどう接すればいいか分からずにいた。 一方、ローラの方も思ってもいない相手で、同じように困惑していた。 周囲が盛り上がり、アンガスが周囲から置いてきぼりになっている中、ローラのいとこが番の話を聞きつけ乗り込んで来た。 自身の気持ちを自覚する前に、物事がもの凄い速さで進んで行く。 周囲に流されまいと足掻くアンガスだが……。 

妹に寝取られたら……婚約破棄、じゃなくて復讐!!!

tartan321
恋愛
いいえ、私は全て知っていますので……。 許しませんよ????????

ごめんなさい、全部聞こえてます! ~ 私を嫌う婚約者が『魔法の鏡』に恋愛相談をしていました

秦朱音@アルファポリス文庫より書籍発売中
恋愛
「鏡よ鏡、真実を教えてくれ。好いてもない相手と結婚させられたら、人は一体どうなってしまうのだろうか……」 『魔法の鏡』に向かって話しかけているのは、辺境伯ユラン・ジークリッド。 ユランが最愛の婚約者に逃げられて致し方なく私と婚約したのは重々承知だけど、私のことを「好いてもない相手」呼ばわりだなんて酷すぎる。 しかも貴方が恋愛相談しているその『魔法の鏡』。 裏で喋ってるの、私ですからーっ! *他サイトに投稿したものを改稿 *長編化するか迷ってますが、とりあえず短編でお楽しみください

ここは会社なので求愛禁止です!

森本イチカ
恋愛
中途採用で入社してきたのは喫茶店で女性に水をぶっかけられてたあの男性だった。 瞬く間に唇を奪われて!? ☆.・*・.☆.・*・.☆.・*・.☆ 真面目に仕事をしてたらいつの間にか三十歳。 恋の仕方を忘れました。 水野真紀 × 好きになると一途で重すぎる男。 俺、水野さんが好きです。 松田大雅 ☆.・*・.☆.・*・.☆.・*・.☆

もう一度人生をやり直し中のおばあちゃんの恋の物語

ももね いちご
恋愛
95歳で幸せに亡くなった木村多恵子は、天国に行く途中にブラックホールに巻き込まれて、小学生に転生しました。懐かしい人々と、多恵子のちょっと甘くて切ないラブストーリー 木村多恵子 95歳で亡くなり、もう一度人生を謳歌中 佐々木次郎丸 多恵子の前世の旦那で、幼馴染 花田美津子 多恵子の親友。次郎丸が好きで好きでたまらない

地味すぎる私は妹に婚約者を取られましたが、穏やかに過ごせるのでむしろ好都合でした

茜カナコ
恋愛
地味な令嬢が婚約破棄されたけれど、自分に合う男性と恋に落ちて幸せになる話。

処理中です...