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マイケルの自空間編
第156話 大型の妖魔
しおりを挟む都に妖魔が現れた日から数日、それからは平穏な毎日が続いていた。
トゥールは妖魔の討伐命令がない時は街に降りて民衆と交流し、困り事があれば手助けをした。
風の刃は民衆に恐れられていた。その力で妖魔を倒すことはもちろん、人を殺しても咎められることがなかったからである。
妖魔を倒すことで守られていると感じる一方で、腫れ物に触るように距離を保っていたのだ。
そんな心の距離をトゥールはいとも簡単に詰めていった。
民衆の中で、風の刃に対するイメージが確かに変わっていた。
そんなある日、花の城の廊下にてタケルと出会った。
トゥール「お疲れ様です」
タケル「久しぶりだな、獺祭は習得したか?」
妖魔が都に現れたあの日から、トゥールはタケルを避けていた。
トゥール「いや、まだです」
タケル「そういえば、街人達の間でお前は有名人になっているそうじゃないか。中には俺様にも気安く話しかけてくる輩もいる。これはお前の影響か?」
トゥール「有名人だなんてそんな。俺は一人の同じ人間として談話を楽しんでいるだけですよ。別に風の刃だからって皆と会話をしちゃいけないなんてルールはないですよね?」
タケル「確かにそうだな」
「おっと、こんなところでタケルさんに会えるとは」
廊下の曲がり角から長身のひとりの男が姿を現した。
タケル「カミヤか、西の討伐は順調か?」
カミヤ「ええ、都に妖魔が現れてからは比較的静かですね」
タケル「そうだ、カミヤ。こいつが例の男だ」
タケルはそう言ってトゥールを指差した。
カミヤ「ほう、あまり強そうには見えませんけどね。初めまして西風のカミヤです」
トゥール「トゥールです、初めまして」
カミヤは刀を腰に下げ、弓を背中に背負っていた。
トゥール「弓も使うんですか?」
カミヤ「ええ、遠距離で戦う際には弓の方が風の力が強いですからね」
タケル「カミヤは風の刃で唯一、刀と弓の両方を扱える者なんだ」
トゥール「そうなんですか」
カミヤ「刀は本来接近戦を行うための道具ですからね。無理して刀での遠距離攻撃を編み出すよりも遠距離戦用に作られた弓の扱いを覚える方が合理的じゃないですか?」
トゥール「確かに」
カミヤ「まぁ、弓は南風のコヘのお父様にあたるゴウセツ様が作り出した戦い方ですから、刀に比べて歴史が浅いですからね」
トゥール「そういえば、弓を使っている人を見たことがないです」
カミヤ「弓を教えられる人がいないからね、僕も独学で習得したんだ。コヘの見様見真似でね」
タケル「お前は真似しようとはするなよ?刀と弓の二刀流なんて職人技、こいつにしか出来ないからな」
トゥール「弓なんて扱える気がしないですよ」
その時、城内にドラの音が響き渡り、黒頭巾の者が姿を現した。
「タケル様、カミヤ様。南方向に大型の妖魔が出現。巫女様より討伐指令が出ています」
トゥール「大型、、、、、」
タケル「大型は東西南北の風にしか討伐出来ないとされる程の強力な妖魔のことだ。だが南となると、、、、」
カミヤ「僕らの出番はないですよ。大型の時にしか動かない、彼が重い腰を上げるはずですから」
トゥール「彼?」
タケル「南風のコヘだ。あいつは大型かつ南側の妖魔の時しか出撃しない。日々南側の指揮をとることもなく、一日中布団でゴロゴロしてやがる」
トゥール「そんなんで良いんですか。。。南風なのに」
カミヤ「それでも良いとされるほど、彼は強いからね。巫女様も何も言えないんですよ」
トゥール「それで、お二人は救援に行かないんですか?」
タケル「南風の仕事を奪うわけにはいかないからな」
トゥール「でも大型なんですよね?もしコヘさんが失敗したら、南側は甚大な被害が出るのでは?」
カミヤ「彼がやられるなんてことはあり得ないよ。でもそもそも彼が出撃するということは街の一つや二つは消えてなくなるだろうね」
トゥール「どういうことですか?」
タケル「大型の妖魔を一撃で消し去るようなバケモノだからだよ、あいつは」
トゥール「、、、、、また無意味に人が死ぬんですか」
トゥールの表情が曇る。
それを見たタケルがトゥールへと声をかけた。
タケル「お前の正義感は認めよう。だがな、躊躇すればもっと死人が出るぞ。南風はそれだけは分かっている」
トゥールは走り出した。
妖魔を倒すために人が死んでも良いなんて到底思えない。
せめて場所を移動するなり被害を最小限に抑える戦い方を考えるべきである。
タケルがそうであるように、おそらくその南風のコヘという男も簡単に人を殺すのだろうと推測出来た。
そうはさせない。
トゥールは城を飛び出し、南へ駆け出していた。
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