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マイケルの自空間編
第152話 風の刃の規則
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歓楽街の立ち飲み屋へとやってきたキムキムとトゥール。
キムキム「生二つ」
「はいよ!」
気さくそうな店主が元気よく返事をした。
キムキム「あれ、生で良かった?」
トゥール「もちろん!普段は安っすい酒しか飲んでないからな~」
キムキム「今日は俺の奢りで」
トゥール「お、マジっすか。じゃあお言葉に甘えて」
「ヘイお待ち!!」
泡が並々と注がれたジョッキが二つテーブルに置かれた。
キムキム「とりあえず、乾杯」
トゥール「乾杯!!」
トゥールは生ビールをグビグビと一気飲みした。
トゥール「ぷはぁ!!うーんま!」
キムキム「凄い飲みっぷりだね」
トゥール「次、日本酒いって良いっすか?」
キムキム「好きに頼みな」
トゥール「あざす!」
トゥールは日本酒を注文した。
キムキム「お酒は強い方なのかい?」
トゥール「強くはないけど、好きですねぇ」
キムキム「そうかそうか、風の刃の皆もお酒が好きだから、上手くやっていけるかもしれないね」
キムキムはグッと眼鏡を上げた。
トゥール「風の刃かぁ~」
キムキム「君にとっては不思議な一日だったろうし、まだ理解が及ばないだろうから、風の刃という組織について説明しようか?」
トゥール「お、是非とも」
キムキム「昔々、あるところに、、、」
トゥール「ちょっと待って、歴史はいいや。具体的な説明を求むわ」
下がってきた眼鏡をグッと上げ、キムキムは目をパチパチとさせながら仕切り直した。
キムキム「そうだね、まだ会って間もないけれど君という人間がどういうタイプなのか分かってきたよ。風の刃を説明するにあたって、まずは予言の巫女様から説明しようか」
トゥール「ああ、あの女の人か。影しか見えなかったけど」
キムキム「あのお方はこの大陸で一番重要な人物でね。名前の通り予言をするんだ。未来を視て災いを回避する道筋を考えるのが仕事ってわけ」
トゥール「そんなことが可能なのか?」
キムキム「信じ難いだろうけど、これは本当の話。現に君の素性もお見通しだったろう?」
トゥール「確かに、、、」
かつてトゥールには幼馴染がいた。
サクラという名前の女の子である。
トゥールとサクラは両想いだった。
いつか二人で都に住もう。子供ながらにそんな約束をしていたが、サクラの両親が営む茶菓子屋の評判が広まり、サクラは家族と共に都へ引っ越すこととなったのだった。
貧しい村出身のトゥールにとって都に住める職業の選択肢など無く、唯一運動神経には自信があったため、都へと出入りすることが出来る足運びとして生計を立てていた。
トゥール「世界を救えだか何だか言ってたような」
キムキム「うん、言ってたね。巫女様は嘘をつくような人ではないから、きっと本当に君が世界を救う未来が見えたんだろうね」
トゥール「そんな力がありゃ、苦労しないわなぁ」
キムキム「そんな力があれば、君は世界を救いたいと思うかい?」
キムキムの問いかけに、トゥールは胸の内が締め付けられるような感覚があった。
トゥール「、、、、そりゃあ、救いたいさ。妖魔を全て倒して、いや、妖魔が湧く根本的な原因を突き止めて、平和をもたらしたい。そんでもって貧富の差なく、どこに住んでいても皆笑って生涯を終えられる、そんな世界にしたいもんだ」
キムキム「なるほどね」
キムキムはビールを一気に飲み干した。
キムキム「こう見えて、僕もそんな世界になることを望む一人だ。トゥール、これは僕からのお願いだ。風の刃になってくれ」
キムキムは真っ直ぐにトゥールを見て、ハッキリと言った。
キムキム「君なら、きっと強くなれる。巫女様は嘘をつかない、僕の目も嘘をつかないよ。タケルさんは君の運動神経や戦闘スキルを見込んだのかもしれないけど、僕は君の内面を高く評価している。松の翁に喧嘩を売ったときも、今こうして対話をしていても、君の内側から滲み出る光が僕には見えている」
トゥール「、、、、、」
キムキム「風の刃になって力を手に入れて、共に世界を救おう」
キムキムは本気だった。
その気迫は疑いようのないものだった。
トゥール「そこまで言われちゃ、断れないよなぁ」
キムキム「そう言うと思っていたよ。ありがとう、これからよろしく頼むよ」
キムキムが手を伸ばした。
トゥール「どこまでやれるか分からんけど、やれるだけやってみるか」
トゥールはキムキムと固い握手を交わした。
キムキム「ところで、風の刃の規則は理解してるかな?」
トゥールは北の村で男が言っていたことを思い出した。
トゥール「規則?あー、なんだっけ。結婚する相手が決まっているとか~なんとか」
キムキム「結婚に関してはそうだね。風の刃になった者はその生涯を巫女様のために捧げることとなる。それは子孫も同じことなんだ。風の刃になったら、同じく風の刃である女性と結婚することが義務付けられている。更に、各々の強さによって相手は決められる。強い男性には強い女性が結婚相手として選ばれる。そうやって強い遺伝子を受け継いで、力を発展させていくっていう仕組み」
トゥール「とんでもねぇ仕組みだな」
キムキム「何も珍しいものじゃないよ、都や近隣の村では似たようなことが起こっている。同じ職業の者同士がお見合いを通じて結婚することで、互いのノウハウが混ざり合って更に高みを目指せる。そうして技術を受け継いで、子供の代まで都に住み続けられるようになるんだ」
トゥール「なるほど、風の刃は戦闘スキルを受け継ぐことで可能にしてるってわけか」
キムキム「そんな感じだね。あと、風の刃は特殊な訓練によって圧倒的な力を手にする。だからその力が他に漏れないように、敵対勢力になり得ないように、歳をとり戦えなくなった風の刃は切腹により死ぬことが決められている」
トゥール「え?マジ?」
キムキム「マジだよ」
トゥール「戦えなくなるったって、お爺ちゃんになったって戦えるだろ?」
キムキム「いや、風の刃の高速の戦い方は運動神経に頼る部分が大きい。歳をとり衰えた身体では、その技を制御することは不可能なんだ。大体平均四十歳でその人生に幕を閉じる」
トゥール「本気で言ってるの?」
キムキム「うん、それまでに子孫を残し、力の全てを託すんだ」
トゥール「とんでもねぇ生き方だな」
キムキム「怖気付いたかい?」
トゥール「いや、足運びも似たようなもんだ。この身体が動かなくなったら、どちみち俺に職なんてないさ」
キムキム「確かに、足運びも体力と速度が要求される仕事だね」
トゥール「まぁ、とりあえずやってみるか。やってみないことには何とも言えないよな~」
正直、風の刃の規則には納得がいっていなかった。
でも、このまま足運びとして働き続ける毎日のその先には何も残っていないということも分かっていた。
どうして自分が選ばれたのか分からないが、せっかくの何者かになれるチャンスだ。それに巫女様が、タケルという人が、目の前にいるキムキムが自分を見込んでくれている。その期待に応えたいと思った。
キムキム「生二つ」
「はいよ!」
気さくそうな店主が元気よく返事をした。
キムキム「あれ、生で良かった?」
トゥール「もちろん!普段は安っすい酒しか飲んでないからな~」
キムキム「今日は俺の奢りで」
トゥール「お、マジっすか。じゃあお言葉に甘えて」
「ヘイお待ち!!」
泡が並々と注がれたジョッキが二つテーブルに置かれた。
キムキム「とりあえず、乾杯」
トゥール「乾杯!!」
トゥールは生ビールをグビグビと一気飲みした。
トゥール「ぷはぁ!!うーんま!」
キムキム「凄い飲みっぷりだね」
トゥール「次、日本酒いって良いっすか?」
キムキム「好きに頼みな」
トゥール「あざす!」
トゥールは日本酒を注文した。
キムキム「お酒は強い方なのかい?」
トゥール「強くはないけど、好きですねぇ」
キムキム「そうかそうか、風の刃の皆もお酒が好きだから、上手くやっていけるかもしれないね」
キムキムはグッと眼鏡を上げた。
トゥール「風の刃かぁ~」
キムキム「君にとっては不思議な一日だったろうし、まだ理解が及ばないだろうから、風の刃という組織について説明しようか?」
トゥール「お、是非とも」
キムキム「昔々、あるところに、、、」
トゥール「ちょっと待って、歴史はいいや。具体的な説明を求むわ」
下がってきた眼鏡をグッと上げ、キムキムは目をパチパチとさせながら仕切り直した。
キムキム「そうだね、まだ会って間もないけれど君という人間がどういうタイプなのか分かってきたよ。風の刃を説明するにあたって、まずは予言の巫女様から説明しようか」
トゥール「ああ、あの女の人か。影しか見えなかったけど」
キムキム「あのお方はこの大陸で一番重要な人物でね。名前の通り予言をするんだ。未来を視て災いを回避する道筋を考えるのが仕事ってわけ」
トゥール「そんなことが可能なのか?」
キムキム「信じ難いだろうけど、これは本当の話。現に君の素性もお見通しだったろう?」
トゥール「確かに、、、」
かつてトゥールには幼馴染がいた。
サクラという名前の女の子である。
トゥールとサクラは両想いだった。
いつか二人で都に住もう。子供ながらにそんな約束をしていたが、サクラの両親が営む茶菓子屋の評判が広まり、サクラは家族と共に都へ引っ越すこととなったのだった。
貧しい村出身のトゥールにとって都に住める職業の選択肢など無く、唯一運動神経には自信があったため、都へと出入りすることが出来る足運びとして生計を立てていた。
トゥール「世界を救えだか何だか言ってたような」
キムキム「うん、言ってたね。巫女様は嘘をつくような人ではないから、きっと本当に君が世界を救う未来が見えたんだろうね」
トゥール「そんな力がありゃ、苦労しないわなぁ」
キムキム「そんな力があれば、君は世界を救いたいと思うかい?」
キムキムの問いかけに、トゥールは胸の内が締め付けられるような感覚があった。
トゥール「、、、、そりゃあ、救いたいさ。妖魔を全て倒して、いや、妖魔が湧く根本的な原因を突き止めて、平和をもたらしたい。そんでもって貧富の差なく、どこに住んでいても皆笑って生涯を終えられる、そんな世界にしたいもんだ」
キムキム「なるほどね」
キムキムはビールを一気に飲み干した。
キムキム「こう見えて、僕もそんな世界になることを望む一人だ。トゥール、これは僕からのお願いだ。風の刃になってくれ」
キムキムは真っ直ぐにトゥールを見て、ハッキリと言った。
キムキム「君なら、きっと強くなれる。巫女様は嘘をつかない、僕の目も嘘をつかないよ。タケルさんは君の運動神経や戦闘スキルを見込んだのかもしれないけど、僕は君の内面を高く評価している。松の翁に喧嘩を売ったときも、今こうして対話をしていても、君の内側から滲み出る光が僕には見えている」
トゥール「、、、、、」
キムキム「風の刃になって力を手に入れて、共に世界を救おう」
キムキムは本気だった。
その気迫は疑いようのないものだった。
トゥール「そこまで言われちゃ、断れないよなぁ」
キムキム「そう言うと思っていたよ。ありがとう、これからよろしく頼むよ」
キムキムが手を伸ばした。
トゥール「どこまでやれるか分からんけど、やれるだけやってみるか」
トゥールはキムキムと固い握手を交わした。
キムキム「ところで、風の刃の規則は理解してるかな?」
トゥールは北の村で男が言っていたことを思い出した。
トゥール「規則?あー、なんだっけ。結婚する相手が決まっているとか~なんとか」
キムキム「結婚に関してはそうだね。風の刃になった者はその生涯を巫女様のために捧げることとなる。それは子孫も同じことなんだ。風の刃になったら、同じく風の刃である女性と結婚することが義務付けられている。更に、各々の強さによって相手は決められる。強い男性には強い女性が結婚相手として選ばれる。そうやって強い遺伝子を受け継いで、力を発展させていくっていう仕組み」
トゥール「とんでもねぇ仕組みだな」
キムキム「何も珍しいものじゃないよ、都や近隣の村では似たようなことが起こっている。同じ職業の者同士がお見合いを通じて結婚することで、互いのノウハウが混ざり合って更に高みを目指せる。そうして技術を受け継いで、子供の代まで都に住み続けられるようになるんだ」
トゥール「なるほど、風の刃は戦闘スキルを受け継ぐことで可能にしてるってわけか」
キムキム「そんな感じだね。あと、風の刃は特殊な訓練によって圧倒的な力を手にする。だからその力が他に漏れないように、敵対勢力になり得ないように、歳をとり戦えなくなった風の刃は切腹により死ぬことが決められている」
トゥール「え?マジ?」
キムキム「マジだよ」
トゥール「戦えなくなるったって、お爺ちゃんになったって戦えるだろ?」
キムキム「いや、風の刃の高速の戦い方は運動神経に頼る部分が大きい。歳をとり衰えた身体では、その技を制御することは不可能なんだ。大体平均四十歳でその人生に幕を閉じる」
トゥール「本気で言ってるの?」
キムキム「うん、それまでに子孫を残し、力の全てを託すんだ」
トゥール「とんでもねぇ生き方だな」
キムキム「怖気付いたかい?」
トゥール「いや、足運びも似たようなもんだ。この身体が動かなくなったら、どちみち俺に職なんてないさ」
キムキム「確かに、足運びも体力と速度が要求される仕事だね」
トゥール「まぁ、とりあえずやってみるか。やってみないことには何とも言えないよな~」
正直、風の刃の規則には納得がいっていなかった。
でも、このまま足運びとして働き続ける毎日のその先には何も残っていないということも分かっていた。
どうして自分が選ばれたのか分からないが、せっかくの何者かになれるチャンスだ。それに巫女様が、タケルという人が、目の前にいるキムキムが自分を見込んでくれている。その期待に応えたいと思った。
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