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マイケルの自空間編

第142話 マイケルの自空間

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霧が晴れ、魔女が姿を現した。
しかしそこにツグルとカナメルの姿はなかった。

辺りを見回したがどこにも見当たらない。

リキッド「さて、これは困った」

リキッドはため息をつき、魔女に剣先を向ける。

リキッド「相当な手練れの魔術師とお見受けする。城に入った時からずっと感じていた視線は貴方のものだな?お姉さん」

BBは微笑みながら答えた。

BB「あら、お姉さんだなんて。優しいのねお兄さん。そうよ、あまりにもイケメンだから見惚れていたの」

魔女はフフっと悪戯に笑った。

リキッド「出来ればレディとは戦いたくないのだが標的を見失ってしまった以上、彷徨うことしか出来ないもんでね。居場所を教えてもらおうか」

リキッドは氷塊を手で砕くと、粉々になった細雪が空間に舞った。

BB「私はあなたと戦う理由がないわ。再生の女神を救出するというのであれば、一応ここで止めておかなければならないのだけれど」

それを聞いてリキッドは剣を下ろした。

リキッド「なら大人しく二人の居場所を教えてくれ」

BB「トルコネの闘技場よ。安全な場所に強制転移で飛ばしたわ」

リキッド「随分と遠いな、、、、さて、どうしたものか」

城の中へと突入したリキッドだったが目的はカナメルの殺害である。
また魔物の巣窟となっている外へと飛び出し、長い日数をかけてトルコネまで戻るべきか、リキッドは憂鬱になっていた。

リキッド「面倒だが、仕方ない。こんなときこそ勢いだ、勢い」

BBに背を向けて歩き出した、その時。

目の前に白い扉が現れた。

BB「あら、その魔法は少し前まで無の神が使っていたものよ?最近は魔力量が足りないそうで控えているみたいだけれど。だとしたら何者からの呼び出しなのかしら?」

リキッドはため息をついて答えた。

リキッド「さぁな、敵じゃないことを祈るよ」

この扉を出したのは、おそらくマイケルだろうということは分かっていた。

BB「このことは見なかったことにするわ。気をつけて行ってらっしゃい」

リキッド「お姉さんも、夜は冷えるから風邪を引きませんように」

リキッドは白い扉の中へと入っていった。

~~~~~~~~~~~~~~~

扉の中へ入ると、そこには真っ白な空間が広がっていた。
初めて訪れる場所だが、リキッドはこの空間のことを知っていた。
「白い扉の中に私はいる」
命の恩人がそう言っていたのをしっかりと覚えている。

ここはおそらく、マイケルの自空間の中だ。

「てめぇどういうつもりだ?」

懐かしい声が背後から聞こえ、リキッドは振り返った。

そこには黒いローブを羽織り、ユラユラと浮かぶ青年の姿があった。
リキッドはその姿を見て、ほんの少しだけ笑みをこぼした。

リキッド「やはり生きていたか、ムー」

ムー「僕の質問に答えろ、てめぇはどういうつもりでカナメルを殺そうとしていた?」

ムーは何故か怒っているように見える。
彼はユラユラと宙に浮いたまま詰め寄ってきた。

リキッド「どうもなにも、彼を殺して無の神の転生を防ぐつもりだったが?」

ムー「そんな極端な話があるか!!」

ムーは今にも魔法を放ちそうな勢いである。

リキッド「まぁ落ち着け。そもそもどうしてムーがここにいるんだ?ここはマイケルの自空間のはずだが?」

ムーは思い出すように言った。

ムー「僕は無の神と対峙した時、紫のオーラを使ってやつの身体を乗っ取ろうと試みた。結果は失敗だ、だが代わりに六つの棺桶が並ぶ空間へと入り込んだ」

リキッドは頷いている。

リキッド「なるほど、乗っ取ることは出来なかったものの、無の神の内部である無の空間へと入り込んだというわけだな。そして辿り着いた場所がたまたまマイケルの自空間だったというわけか」

ムー「たまたまも何も、マイケルは無の空間の一部を切り取って自分の空間として活用しているそうじゃないか。無の神にバレることなく。。。僕としては本当にバレていないのか疑わしいけどな」

ムーは何かを思い出したように言った。

ムー「そうだ、リキッド。テメェが漆黒の騎士から解放されたのは僕のおかげだぞ?トゥールの一撃によって棺桶の鎖が解かれた。そして僕がテメェの棺桶を開いた」

リキッド「そうだったのか、ならばそれはトゥールのおかげだな」

ムーはニヤリと笑った。

ムー「確かにトゥールの一撃がなければ開けることは不可能だったが、テメェの棺桶は物理的に開けることは不可能だったんだ。強烈な魔法が仕掛けてあってね。あんな複雑な術式は僕にしか解くことが出来なかっただろうなぁ」

リキッド「なるほど、ムーがその術式を解いたことで、デストロイヤーは俺と分離し、解き放たれたというわけか」

全く感謝の意を示さないリキッドに対して、ムーは苛立ちを隠せない。

ムー「そうだとしても今のテメェがいられるのは僕が術式を解いたからなんだ」

リキッド「、、、どうもありがとう。ところでマイケルはどこだ?」

ムーをさらりと躱し、リキッドは辺りを見回し始めた。

「私を探しているのかい?」

奥から歩いてきたのは、白衣を着た中年の男だった。

リキッドはその声を聞き、胸が熱くなった。

リキッド「、、、、初めまして、と言うべきか。その声、忘れるわけがない。マイケル!会えて嬉しいよ」

リキッドはムーの横を通り抜けてマイケルへと手を伸ばした。

マイケルはその手をがっしりと握った。

マイケル「よくぞ、、、よくぞ生きていてくれた。リキッド君」

リキッド「あなたのおかげだ」

この男こそがツグルの父であり、無の神への対抗策を練っているマイケルだ。

リキッドは漆黒の騎士として罪なき人々を虐殺し、精神が崩壊しかけていた。
しかし、マイケルの励ましによって長い時間、正気を保ったままでいることが出来た。

そして今こうして、初めて会うことが出来たのである。

二人はお互いを称え合っていた。

しかし、その光景を眺めていることが時間の無駄であると結論づけたムーが、ユラユラと間に割って入った。

ムー「悪いが、野郎共の再会を眺めている時間はない。テメェがいるからと安心していたが、ツグルの状況は実に良くない。クソ魔術師にまんまとハメられやがって」

リキッドは魔女にクソがついたことについて腹を立てたのか反論をした。

リキッド「あの美女は手練れの魔術師だ。細雪が反応しなかったということは姿を隠すだけではなく、完全に透明状態になっていたということだ。その状態で追跡をし、なんらかの理由でツグルとカナメルを助けた。その助け方も特殊だ。霧で姿を隠してからの超遠距離強制転移。やれることはやったつもりだが」

確かにあの一瞬であの距離を強制転移させるのはムーでも不可能である。何かトリックがあると踏んでいるムーだが、今は話を進めなければと思い、話題を変えた。

ムー「まぁ良い、どちみちテメェはカナメルを殺そうとしていたんだ。その美女魔術師とやらに感謝しなきゃな。ところでマイケル、リキッドがこちら側に来ちまったということはもう現実世界にいるのはトゥールだけということになる。そのトゥールはこいつの魔法で凍っちまってる。さてどうする?」

マイケルは上を見上げた。

そこには大きなスクリーンがあり、トルコネの闘技場が映し出されていた。

カナメルが氷塊を解かそうとしているようだ。

マイケル「ツグルとカナメル、二人でグレイス城を突破し、セリアを救出することが出来たとしても、無の神を完全に消滅させることは難しいだろう。仮に無の神を無力化することが出来たとしても、無の神のペットであるデストロイヤーが呼び出されたら、そこで全滅だ」

デストロイヤーとはリキッドと融合していたモンスターである。

リキッドの正義感や騎士としての誇りがその外見をとどめ、漆黒の騎士として存在していた。
北ゲートにて記憶を取り戻したトゥールの一撃により騎士の甲冑に亀裂が入り、それと連動している棺桶の鎖が断ち切られた。
デストロイヤーがリキッドの身体を手放さまいと抵抗していたが、ムーが術式を解いたことでリキッドは記憶と身体の自由を取り戻したのだった。

しかし、同時にデストロイヤーも自由の身となり、巨大なモンスターへと姿を変え、出現した。
そして記憶を取り戻したタクティスと戦い、その後BBに呼び出されてビッグブリッジにてリリと戦ったのである。

ムー「ほぅ、今のツグルでも無の神の無力化は可能だと言っているように聞こえるなぁ」

マイケル「セリアとツグルが共に戦えば不可能ではないよ。それほどまでに今の無の神は衰えている。それよりもデストロイヤーだ。奴は人間の倒せる相手ではない」

ムー「確かに、緑のオーラに包まれたタクティスを瀕死状態まで追いやったんだ。一筋縄ではいかないだろうな。だが無の神よりも脅威と言えるのかは疑問だ」

リキッドは辺りを見回した。

リキッド「そのタクティスはどこにいるんだ?」

マイケル「別の空間にいるよ」

マイケルは白い扉を指差した。

ムー「デストロイヤーと戦ったタクティス、覚醒したゼウスとタイマンしたタカは瀕死の状態だ。マイケルが助け舟として扉を出現させたから助かったものの、少しでも遅れていたら手遅れだっただろうな」

リキッド「タカもいるのか。リリはどうした?」

ムー「あいつは元気だ、タクティスとタカの看病をしてる。リリは戦闘になってすぐに救出したからな」

リキッド「そうか、皆無事か」

ムー「ああ、ギリギリだけどな」

マイケルは閃いたように言った。

マイケル「そうか、、、リキッドの棺桶だ」

ムー「ん?何か閃いたのか?クソ白衣」

マイケル「デストロイヤーを倒せるかもしれない」

そう言ったマイケルの目は輝いていた。
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