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分裂のトルコネ編

第117話 リキッドの10年間

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トルコネを訪れたあの日、寝泊まりをした宿屋は跡形もなく崩れ去っていた。

店主のおばさんは生きているのだろうか?
あの時食べたチンギスカンというフォールドーン帝国の家庭料理、美味しかったなぁ。

当時はうるさいと思っていたあのおばさんに、ツグルは会いたくなった。

瓦礫の中を進むと、地面に小さな扉があった。

梯子を降りると、寝泊まり出来る小さな部屋が姿を現した。

リキッド「ここはトゥール御用達の宿屋だったらしいな、地下室には最低限の生活用品と、食料となる缶詰が常備されている」

ツグル「皆、早く目覚めると良いな」

リキッドはリリをベッドに寝かせると、すぐに梯子を登り出した。

リキッド「ん?悪いが三人の目覚めを待っている時間はない。すぐに出発だ」

ツグル「出発って、どこに?」

リキッド「グレイス城だ、説明は道中に済ませる。ついて来い」

ツグルは言われるがまま、モモとダイスを寝かせるとすぐに梯子を登った。












トルコネを出て荒野を歩いていると、リキッドは突然立ち止まった。

リキッド「そういえば、、、リキッドだ、改めてよろしく頼むよ、怪物君」

リキッドは手を差し伸べた。

ツグルは躊躇しながら、その手を握った。

ツグル「、、、、ツグルだ、よろしく」

リキッド「凍らせられると思ったんだろ?まぁ無理もないか」

リキッドは微笑み、そして歩きながら説明を始めた。

リキッド「まずはツグルの父、マイケルに繋がる話をしよう」

ツグルは自分の高鳴る心臓を感じていた。

リキッド「俺はこの十年間、漆黒の騎士として沢山の人を殺した。ちゃんとこの目に焼き付いている」

ツグル「漆黒の騎士だった頃の記憶があるのか?」

リキッド「ああ、、、残念ながら、鮮明に全て覚えている。自我失せずに視界は良好だった、身体の自由だけが奪われていた。もちろん言葉を発することも出来ない」

ツグル「十年間も、そんな状態で生きていたのか」

リキッド「ああ、最初の三ヶ月で、気が狂いそうだったよ。老若男女、罪なき人々を惨殺し、グレイスの玉座へと帰る。その後は無の神の命令が下るまでは、永遠に立ったまま待機だ。その間も俺の意識は続いているんだ」

リキッドは頭を抱え、大きな溜息をついた。

ツグル「どうして意識があったんだ?トゥールの話だと、無の神に捕らわれると自我失という現象が起こり、記憶が抜け落ちると聞いていたが」

リキッド「それはな、マイケルのせい。いや、今となってはおかげと言うべきか」

ツグル「父さんが?」

リキッド「ああ、お前の父だ」

ツグル「教えてくれ、リキッドは父さんに会ったのか?」

リキッド「いや、会ってはいない。ただ話したことはある」

ツグル「父さんは生きているのか!?」

リキッド「まぁ急ぐな。マイケルは、今も生きている」

ツグル「父さんが、生きている、、、、」

ツグルは心から嬉しかった、そして父に会いたかった。

ツグル「父さんは、何をしているんだ?」

リキッド「無の神を倒すチャンスを、ずっと狙ってるんだ」

父さんが生きていて、無の神を倒そうとしている。

それを聞けただけでツグルの中で何かが弾けた。

自分を怪物へと仕立てあげたであろう父を、心のどこかで恨んでいたのだ。

もしかしたら敵なのかもしれない、そんなことも頭をよぎった。

でも違った、父さんは、きっと味方だ。

リキッド「マイケルは無の神の自空間と自分の自空間を繋げることで、無の神にバレずに生きている。そしてそこは、俺たち六人の棺桶に遺体が保管されている場所でもある」

ツグル「、、、、待て、六人の遺体?それはトゥールやムーのことを言っているのか?あんた達は、、今もこうして生きているじゃないか」






リキッドは空を見ながら、口を開いた。






リキッド「肉体が宿っているように見えるだけさ、正直に言おう。俺たちは十年前に死んでいる」




リキッドが何を言っているのか分からなかった。




ツグル「なんだと、、、、、信じられない」

ツグルは驚愕し、言葉を続けられなかった。

リキッド「俺たちは無の神の魔力によって、生きているように見えているだけなんだ。グレイス城を陥落させたあの日、セレスティア様の力により、俺たちはひとときの自由を取り戻した、その後セリアの力により、完全に自由を取り戻した。だが俺たちが存在することが出来るのは、無の神がいてこそなんだ」

ツグル「、、、、、、信じられないな」

リキッド「俺自身、未だに本当にそうなのか疑問ではある。だが、マイケルの言うことだ、おそらく本当だろう」

ツグル「リキッドはいつ父さんと話したんだ?」

リキッド「俺が自我失を起こさなかったのは、マイケルが俺の棺桶に細工をしたからなんだ。どうやら人を捕らえて自我失を起こさせ使役する、あの術を発明したのはマイケルらしい」

驚くべき発言ばかりで、頭の整理が追いつかない。
でも、今は聞く事しかできない。

リキッド「漆黒の騎士として生きた十年間、気が狂いそうな毎日の中で、俺が正気を保つことが出来たのは、いつもマイケルが俺の話し相手になってくれていたからだ」

リキッドは懐かしむように言葉を続ける。

リキッド「テレパシーのような感覚だ、頭の中にマイケルが話しかけてきた。色んなことを話した、とはいえ俺の記憶は、、、、その時はまだ、無の空間でトゥール達に出会ってからのものしかなかったから、多くを語ることは出来なかった。だがマイケルは話し続けてくれた、ツグル、お前のこともだ」

ツグル「俺の、どんなことを話していたんだ?」

リキッド「お前が生まれてきて嬉しかったこと、怪物へと仕立てあげてしまったこと、お前を守ることが出来なかったことへの後悔、、まぁ色々だ」

ツグルは思いついたように質問をした。

ツグル「父さんは、何故俺を怪物にしたんだ?」

リキッド「そうだな、その話もしなければならない」

気付けば夜になっていた、グレイスの夜は体が冷える。

リキッド「話の続きは暖をとりながらにしよう。そうと決まれば早速寝床の確保を開始しよう」

リキッドは優雅に歩きながら、散策を始めた。

ツグルは焦る気持ちを抑えて、リキッドの指示に従ったのだった。

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