上 下
7 / 229
始まりの歌声編

第7話 心の演説

しおりを挟む
セリア「はぁ、、はぁ、、もう大丈夫だよ、ツグル」


セリア「ツグル?ツグル!!」


思っ切り揺さぶられ、視界が戻る。


ツグル「あ、あぁ、、、追っては来ないみたいだな」


空は夕暮れ、街では未だ祭りは続いていた。


ツグル「今玉座には王はいないはずだよな」

セリア「そうだね」

ツグル「それなのに王の横で演説しているらしい誰かはおかしくないか?」

セリア「うん」

ツグル「やっぱり、この国には何かある」

セリア「でも、たまたま王と同じ鎧を着てたってだけの可能性もあるよね?」

ツグル「まぁな」

セリア「トゥールさん、大丈夫かな」

ツグル「セリア、もうリバイバルボイスは使うな。またあいつが襲ってきたら」

セリア「大丈夫!分かってるよ、でも指輪の破壊が」

ツグル「そんなことはどうでも良い!!俺は!!、、、、お前を守りたいんだ」

セリア「ツグル、、、」

ツグル「悪い、とにかくフルネス将軍の元へ行こう、あいつの言う通りに」

セリア「でもフルネス将軍、朝に戦場に行っちゃったよ」

ツグル「そうだった、、タイミング悪いな」

セリア「トゥールさん、大丈夫かな」

ツグル「大丈夫だよ、だって、俺はあんなに強い奴を初めて見た」

セリア「そうだね!本当に強かったね」

ツグル「俺も、セリアを守る力が欲しい」


セリアはツグルの頭にチョップをお見舞いした。


セリア「私は守られるだけの女の子じゃないんだよ?」


セリアはそう言って笑った。

そうだ、この笑顔をいつまでも守らなければいけない。


ツグル「そうだったな」

セリア「分からないことだらけだし、不安だけど。考えても仕方ないよ、今日は宿舎に帰って寝よ?」

ツグル「そうだな」


漆黒の騎士を目の当たりにして、モヤモヤした心は晴れるわけもなく。
今日は一睡も出来なかった。

















次の日



ダイス「よ!おっはよ~~どうしたツグル!!元気ねぇぞ」

ツグル「寝てないんだよ」

ダイス「そんなんだから身長伸びねぇんだぞ」

ツグル「うるせぇな」

今日は訓練の日だ。候補生は広場に集められ、ストレッチや雑談をして好きに過ごしている。

モモ「二人とも、おはよう」

相変わらずピカピカに磨かれた重鎧は太陽の光を反射している。

ダイス「おっはー!セリアは?」

モモ「え?分かんない、まだ来てないなんて珍しいね。ダイスが早いのも珍しいけど」

ダイス「今日は朝から筋トレしてたからな」

モモ「ふーん」

ダイス「見ろこの筋肉、ガッチガチやぞ!!ガッチガ」

ツグル「セリアに変化はなかったか?」

モモ「え?変化って何よ」

ツグル「いや、何でもない」

昨日リバイバルボイスを使ったから、何かしらの変化があるかもしれない、そう思った。

セリア「はぁ、はぁ、、おはよ~」

ダイス「お、セリア~おはーーーす」

モモ「あら、どうしたの寝癖つけちゃって」

セリア「寝坊したぁ~」

ダイス「うんうん、分かるぞその気持ち、あと五分っていう気持ちが危険なんだよなぁ」

モモ「セリアが寝坊なんて珍しいね」

セリア「私だってたまには寝坊くらい」

ツグル「心配したんだぞ」

ツグルの真剣な表情にモモとダイスは首を傾げる。

セリア「あ、ごめんね」

ツグル「、、、、無事で良かった」

ダイス「おいおい、何イライラしてんだよ」

ツグル「別に」


この国は絶対におかしい、それが昨日確かなものとなった。
それなのに皆、違和感を感じながらも知らないふりをして生きている。
訳もわからず騎士になって、戦場に赴く。
そして、命を落とすのだろう。

そんなの、間違ってる。

指揮官が現れ、広場の空気が変わった。

指揮官「今日の訓練は中止だ!!各々自主特訓に励むように、以上だ!」

指令台に立ち、放たれた言葉に一同は動揺する。
指揮官は何事もなかったかのように城内へ消えた。

今まで一度もなかった訓練の中止に、広場はざわついた。
昨日、大規模な騎士の行進があったから尚更だ。
いつものことながら、指揮官は多くを語らない、それは騎士候補生にとって当たり前のことだったし、それで何も問題はなかった。

だが、昨日の出来事があるからか、それはただの不信感でしかなかった。

周りの者たちは雑談をはじめた。
もしかして、主力部隊が負けた?フルネス将軍が戦死した?また謎の六人が空から降って来た?
色んな憶測だけが飛び交う。

周りの者達は不信がる所か面白がっているようにも見える。

何だか今いる空間に嫌気がさした。

この国に抱いていた違和感は昨日の襲撃で確信へと変わった。
そんな国に何もわからないまま、騎士として命を
捧げることはできない。

他の皆はどう思ってるんだ?

居ても立っても居られなくなり、駆け出した。
木の階段を駆け上がり。
ツグルは指令台に辿り着いた。

ダイス「おい!!ツグル!何やってんだよ、怒られるぞ!」


全員が注目する中、大きく息を吸って、叫んだ。


ツグル「どうでも良い憶測なんて意味がない!俺たちは真実を知る必要がある!!
この国は間違っている、俺たちがなりたい騎士とは何だ!!
無意味に命を投げ出すのが騎士ではないはずだ、今のこの国に、王に、忠誠を誓えるのか!?
もう一度考えて欲しい、何故騎士になろうと思ったのか、今自分がやるべきことは何かを!」


言い終えてから、恥ずかしくなった。
候補生全員が指令台に立つツグルを見ている。

会場が一斉に静まり返る。

静寂を破ったのは一人の男の一声だった。

シンカイ「僕もそう思う!!ツグルの言う通りだ」

端正な顔立ちの優しい青年は、珍しく声を大にして、真っ直ぐに見つめていた。

ダイス「皆もそうだよな!!真実を確かめに行きたい人は~拍手!!!」

気付くとダイスは隣で肩を組み、決めポーズをしていた。

また静まり返ってしまった広場は、不穏な空気に包まれる。

ツグル「お前な、、、」

ダイス「お前カッケェわ、やっぱ」

ツグル「え?」

ダイス「敵わねぇなぁ」

パチパチパチパチ

拍手のする方を見ると、笑顔のセリアと涙ぐむモモがいた。

徐々に拍手は大きくなり、最後には広場全体が歓声に包まれた。

皆不安だったんだ、自分だけじゃない。

謎の王に統治されるこの国に、騎士になることを志した自分に、不安を抱いて生きていたんだ。

その時ツグルは初めて、一人じゃなかったんだと思った。

その後、騒ぎに駆けつけた指揮官に、全員で質問を投げかけた。


「何故今日の訓練は中止なんですか!?」

「今国では何が起こっているんですか!?」

「昨日の騎士の行進と何か関係があるんですか!?」

「王は何者なんですか!?」



指揮官は片手を上げ、候補生全員を黙らせ。

「お前達はただ、強くなることだけを考えていれば良い。何も知る必要はない!!」

そう言って指令台を降りた。


完敗した候補生軍団だったが、明らかにさっきまでとは団結力が違った。

真実を確かめるために力をつけよう、そう言って全員で臨んだ自主特訓はとても良い時間だった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

【完】テイマーとタンクとヒーラーがいるからアタッカーはいらないと言われてクビになったので、アタッカーしかいないパーティーを作ることにしました

ひじり
ファンタジー
「お前にはパーティーを抜けてもらいたい」  ある晩のこと。  アタッカーのリジン・ジョレイドは、パーティーの仲間たちと共に酒場で飲んでいた。  そこでリーダーからクビ宣告を受けるが、納得がいかない。  だが、リーダーが口にした一言で、全てを分からされてしまう。 「――アタッカー不要論」  それは【勇者】の称号を持つ金級三つ星冒険者の発言だった。  その人物は、自身がアタッカーであるにも関わらず、世にアタッカーは不要であると論じた。【勇者】の称号を持つほどの人物の言葉だ。アタッカー不要論が世界へと広まるのに、然程時間はかからなかった。 「おれたちのパーティーには、テイマーのおれが居る。魔物との戦闘行為は、おれが使役する魔物に全て任せればいい」  今までアタッカーが担っていた部分は、テイマーが使役する魔物や、攻撃的なタンクが担うことが出来る。  回復役として、ヒーラーは絶対に必要不可欠。  メイジであれば応用も効くが、戦うことしか能のないアタッカーは、お荷物となる。だからリジンは必要ないと言われた。 「リジン、お前もアタッカーなら分かるはずだ。おれたちが冒険者になる前の段階で、既にアタッカーの需要は減っていた……それなのに、おれたちのパーティーの仲間として活動できただけでも運が良かったと思ってほしいんだ」  今の世の中、アタッカーは必要ない。  では、アタッカーとして生きてきた冒険者はどうすればいい?  これは、アタッカー不要論の煽りを受けたアタッカーが、アタッカーだけのパーティーを組んで成り上がる物語である。

二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ
ファンタジー
「ディーナ。お前には今日で、俺たちのパーティーを抜けてもらう。異論は受け付けない」  勇者ラジアスはそう言い、私をパーティーから追放した。……異論がないわけではなかったが、もうずっと前に僧侶と戦士がパーティーを離脱し、必死になって彼らの抜けた穴を埋めていた私としては、自分から頭を下げてまでパーティーに残りたいとは思わなかった。  ほとんど喧嘩別れのような形で勇者パーティーを脱退した私は、故郷には帰らず、戦闘もこなせる武闘派聖女としての力を活かし、賞金首狩りをして生活費を稼いでいた。  そんなある日のこと。  何気なく見た新聞の一面に、驚くべき記事が載っていた。 『勇者パーティー、またも敗走! 魔王軍四天王の前に、なすすべなし!』  どうやら、私がいなくなった後の勇者パーティーは、うまく機能していないらしい。最新の回復職である『ヒーラー』を仲間に加えるって言ってたから、心配ないと思ってたのに。  ……あれ、もしかして『ヒーラー』って、完全に回復に特化した職業で、聖女みたいに、防御の結界を張ることはできないのかしら?  私がその可能性に思い至った頃。  勇者ラジアスもまた、自分の判断が間違っていたことに気がついた。  そして勇者ラジアスは、再び私の前に姿を現したのだった……

召喚アラサー女~ 自由に生きています!

マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。 牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子 信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。 初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった *** 異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...