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始まりの歌声編

第2話 酒場

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その夜

「乾杯ー!!!!」

場内にある酒場では、候補生達が集まっていた。

残る審査は一つだけ、二年間共に過ごしてきた仲間ともお別れの日が近づいてきている。

誰が騎士に選ばれても良い、そんな風に思えるほど、ツグルの心は熱くなっていた。

反対側にはモモとダイスが、隣にはセリアが座っている。

樽のコップにはビールが並々と注がれ、今日の審査を称えあっていた。

ダイス「モモ!!模擬戦なのに肋骨にヒビが入った!!どーしてくれるんだよ!」

モモ「知らないよ、避けないあんたが悪いんでしょ」

ダイス「いや、そもそもだな、弓兵の俺が重歩兵のお前に勝てるわけがないんだ、最初から出来レースだよ、出来レース!!!」

モモ「はいはい、言い訳は聞き飽きました」

セリア「モモちゃんの圧勝だね」

モモとダイスの言い合いを眺め、ツグルは思わず笑ってしまった。

ツグル「ダイス、お前はもっと距離をとってだな」

言いかけたその時、不意に誰かに肩を組まれた。
横を見ると、対戦相手のシンカイがいた。

シンカイ「いやぁ~ツグルには完敗だったよ~」

ダイス「でた!イケメン!!」

彼は今回の候補生の中でも優秀な槍兵のシンカイという男だ。顔も性格も良し、文句なしの色男である。

シンカイ「イケメンなんて、勿体無いよ~。いや~僕結構頑張ったんだけど、ツグルには勝てないねぇやっぱり」

ツグル「いや、そんなことない」 

シンカイ「またまたぁ~、手抜いてたんでしょ?まったく~」

ツグル「シンカイこそ手加減してないだろうな?お前優しいから」

シンカイ「優しい?そんなことないよぉ~僕なんか悪魔のような人間だよ?へっへっへ」

わざとらしく悪い顔をして、シンカイは不敵に笑う。

モモ「あ~シンカイ君は本当癒しだわぁ」

セリア「相変わらずのイケメンゆるキャラですね」

シンカイ「皆して僕をからかって~、次の審査では負けないからなぁ~!!んじゃ」

イケメンはニコっと笑って去って行く。

ダイス「くぅ~あいつイケメンの上に良い奴だしユルユルな感じも憎めないし、超謙虚だし、それもあざとい感じじゃなくてガチで謙虚だし、俺もあーゆー風に生まれたかった」

モモ「ダイスは絶対無理だよ、あんな癒しキャラは」

セリア「見ましたか?鞄にコグマッ熊のワッペンつけてましたよ!!」

モモ「シンカイ君コグマッ熊大好きだもんね、もぅ狙ってんのかぁ!?ってくらいマッチしてるよね」

ダイス「あれであざとくないってスゲェよな」

ツグル「槍兵の中でもあいつはエリートだ」

ふと時計を見ると、二十時を回っている。

鞄の中から魔法瓶を取り出す。

中には魔法石と液体が容器一杯に溜まっていた。


ダイス「それ、毎日飲まなきゃダメなのか?」

ツグル「ああ、幼い頃から体が弱くて歩けなかったんだけど、父さんがこの魔法石を見つけてきてくれて、この石から湧く液体を飲めば立てるようになって、いつの間にか走れるようにもなって」

モモ「凄いね、魔法の水だ」

ツグル「俺にとってはお守りみたいなものだ。父さんは商人だったから、よく珍しい物とか見つけてプレゼントしてくれたんだ。この短剣もその一つだ」

そう言って掲げた短剣は、黒光りし歪な形をしている。

ダイス「変な形、どこの国の武器なんだろうな」

ツグル「さぁな、でも手に馴染むんだよ」

もうじき夜が明ける。

騎士になれば、皆でお酒を飲みながら笑う日々なんて訪れないのかもしれない。

そんな切なさを胸に秘めながら、騎士への道が開けた気がする一日だった。






部屋に戻る途中の廊下にて。

セリア「ツグル」

ツグル「どうした」

セリア「明日休日でしょ?明日で王都陥落十年目なんだ」

ツグル「そうだな」

セリア「私、お母様のお墓へ行こうと思うの」

ツグル「ダメだ、もし誰かに見つかったら」

セリア「大丈夫だよ、あのお墓を知ってるのは私とツグルしかいないんだから」

ツグル「でも万が一ってことがあるだろ」

セリア「でも、、、、」

セリアが悲しそうな顔をする。
確かにセリアの言う通り、あのお墓を知っているのはツグルとセリアしかいない。
それにあの神域に入るには、セリアのネックレスのような神の力を宿す装備が必要だ。

セレスティア様のお墓は、城外の森の奥深く、そう遠くはない場所にある。
しかし、結界が張られていて、普通の人は入ることができない。

そう、納得することにした。

ツグル「分かった、でも俺も一緒に行く」

セリア「え?」

ツグル「何かあったときは俺がセリアを守る、それで良いだろ」

セリア「ほんと!?やったぁ~」

万歳しながら飛び跳ねるセリアは、二十歳とは思えない少女のようであった。

騎士「騒がしいぞ!もう夜だ、部屋に戻れ!候補生」

セリア「あ、ごめんなさい」

ツグル「今日はもう寝よう。また明日な」

セリア「うん!」


そう言ってセリアはスキップをしながら暗闇に消えて行った。

ツグルは何だか妙な胸騒ぎを感じていた。
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