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成長のスラム街編

第61話 荒野を駆ける者達

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クッキー「ネギッチャと何者かが帝国に向かっただって!?」

チャンカメ「いい加減にしろよ!!自分勝手が過ぎるぞ!!ネギッチャ!!」

見張り台の者から通達を受けたクッキーが大慌てで皆を集める。
一度は解散した会議だったが、広場はまたすぐに人でいっぱいになった。

トゥール「もう一人は誰なんだ?」

質問は反乱軍の喧騒に掻き消されたが、一人の耳には入っていた。

カナメル「ツグルが門を出るところを見たよ」

カナメルが壁にもたれかかりながら呟いた。

トゥール「見たって、何で引き止めなかったんだよ」

カナメル「止める理由が無いだろ」

トゥール「いや、あるだろってぇ!!」

その会話を聞いていたムーがユラユラとやってきた。

ムー「一人でどうにか出来るなら、やってみて欲しいもんだね、怪物」

トゥール「俺の足ならツグルに追いつけるはずだ、連れて帰ってくるから、皆のこと頼んだよ!!ムー!!」

トゥールは一瞬でその場からいなくなり、砂煙だけが門の方まで立ち昇っていた。

ムー「なぁカナメル、トゥールはツグルを連れ帰ると思うか?」

カナメル「さぁね、俺がツグルならどんな手を使ってでも振り切って目的を達成するかな」

ムー「そうか」

反乱軍達はパニックに陥っていた。

ネギッチャを追うのか、作戦を立ててから帝国に攻撃を仕掛けるのか、またはネギッチャの帰りを待つのか。

チャンカメ「いずれにしても、圧倒的に時間が足りない!!!」

クッキー「そうなんだよ、だからネギッチャの帰りを待つのが妥当な判断だと僕は思うんだ」

ネギッチャの帰りを待つ、多数決でそう決断しかけた時、沈黙を貫いていた一人の男が口を開けた。

メッシ「行こうよ、ネギッチャを追って」




言葉を失う一同、少しの沈黙の後



チャンカメ「え、バカなの?」

クッキー「っていう冗談だよな?メッシ」

メッシ「僕たちも反乱軍なんだよ。でもネギッチャは僕たちを傷つけない為に一人で帝国に喧嘩を売るつもりなんだ」

辺りは徐々に静かになり、皆メッシの言葉を聞いているようだった。

メッシ「ここで彼の帰りを待っていたら、反乱軍失格だと僕は思う。ネギッチャも、僕も、皆も、反乱軍なんだよ」

広場の喧騒はもう無くなっていた。

メッシ「ネギッチャはさ、自分勝手な奴だけど誰よりも僕たちのことを考えてくれてるんだ。だからこういう無茶をする奴なんだ、その優しさに甘えて、もしネギッチャが命を落としたら、僕は僕を許せないと思う。それなら!!!!」

メッシは柄にもなく、拳に力を入れて叫んだ。

メッシ「それなら!!僕は一緒に戦って、死ぬ!!」

メッシの熱い言葉に、反論する者はいなかった、それどころか涙を流す者もいた。

クッキー「不安だけど仕方ない、副リーダーに賛成だ。皆!!戦闘準備だ!!」

「オー!!!!!!!」

反乱軍は団結し、各々武器を手に取る。

チャンカメ「バッツを起こしてくる!!メンテナンスはもう終わってるはずだから」

あっという間に広場に人がいなくなり、残ったのはムーとカナメルだけとなった。

カナメル「んで、俺たちはどーする?」

ムー「あの眼鏡の熱い演説を聞いて、僕は思ったんだ。もしトゥールがツグルを連れ帰るのに失敗した場合、トゥールはそのまま帝国に乗り込み、ツグルとセリア、なんなら反乱軍のリーダー諸共救うために命をかけるだろうってな」

カナメル「同感だね」

ムー「まぁ、トゥールが命を落とすことはないだろうけどな」

カナメル「勝算は?」

ムー「まだ行くなんて言ってないだろう?」

カナメル「行くつもりなんでしょ?勝算はあるの?」

ムー「さぁね、まず帝国の戦力を知らん。ただトゥールは皆を頼むと言った、皆を生存させろってことだろ?それなら簡単だな」

カナメル「多分頼むの解釈が違うと思うが」

ムー「言葉ってのは難しいなぁ。カナメル、全員を呼んでこい、僕たちもパーティに参加しようか」

カナメル「はいはい」

カナメルはため息をつきながらも、ワクワクしているようであった。

ズミ「話は聞かせてもらったよ」

いつからいたのか、ズミが屋根の上から声をかけた。

ムー「てめぇは留守番だ」

ズミ「悲しいこと言うなよ、これでも数年前にフォールドーンの辺境の地で戦車を乗り回していたんだぜ?」

ムー「その戦車とやらはもう無いだろ」

ズミ「それがさ、作ってしまったんだよ。暇だったから」

ムー「そうか、好きにするが良いさ」

ムー達は広場に集まり、賛否両論ある中、帝国に向けて荒野を駆けるのであった。




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