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第3章 夢よもういちど

3-18.祝祭の悲劇 湊 藤堂

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 結局、ワイは逃げ切ったのやろか、それとも見逃されたのやろか。
 日本時間4月3日、午後17時。
 KONK-Chu!コンカッチュ!日本ライブツアー福岡ドーム公演が開場され、ファンの波に流されるように入場しながら”祝福者”みなと藤堂とうどうは考える。
 自分も狙われているのは間違いない、だから昨日のホテルでみのりと別れた後、藤堂はずっと地下にいた。
 終電まで地下鉄に乗り、地下で夜を明かし、始発からもずっと地下だ。
 全てはGPSでの探知を避けるため。
 スマホの電源をONにするもの1時間おきという徹底ぶり。
 その甲斐もあって藤堂はエゴルトからの追跡を免れていた。

 けど、凛悟はんとミッコはんは無事やろか。
 凛悟はんからの連絡は昨晩からなか。
 ミッコはんからは夜中と朝に『無事です。生きてます』というショートメールが届いたっきりや。
 ふたりに何かあったのは間違いなかとね。
 夜半前に”祝福”が1個減った時はグッドマンはんがやってくれたのかとも思ったけど、それなら3分後にミッコはんが願っているはずやしな。
 あっちも失敗したんやろな。
 つまり、ワイとみのりちゃんがキモっちゅうわけや、きばっちゃらんとな。
 もし失敗した時は、死なない限り”祝福”は使うなっちゅう話やけど、ま、なるようにしかならんやろ。

 藤堂は現状を正しく分析していた。
 藤堂はコンサート終了後、みのりから答えを聞く約束をしている。
 そこでみのりが賛同してくれればこの”祝福ゲーム”は凛悟たちの勝利で終わりとなる。
 いや、凛悟たちのイチ抜けとなる計画だ。

 ま、誠心誠意説得するしかなかな。
 1つ”祝福”が減ったことでみのりちゃんの気が変わっているかもしれん。
 それに、おそらくエゴルトもみのりちゃんに接触しているはずや。
 その交渉が決裂しているとすれば、まだワイらにも目があるはずとよ。

「どうしたのでござる。トードー殿」
「待ちに待ったコンサートでござるよ。プロデューサーさん! ドームですよ! ドーム!」

 ペンライトを手に藤堂にふたりのファンが声をかける。
 このふたり、テルやんとハレはんはKONK-Chu!がマイナーな地下アイドルだったころからの同士だ。

「プロデューサーやなかけどね」
「まったまたー、みのりはワイが育てたプロデュースしたっていつも言ってるくせに」
「まー、それはそうやけどなー」

 真実である。
 藤堂がみのりのためにグッズを買った額はちょっとした高級外車が買えるほど。
 活動初期でのその貢ぎ額はメンバーの中で群を抜いており、彼女がセンターになった要因のひとつであることは間違いない。
 もっとも、彼女にとってそれは大口のファンがいる程度の認識でしかなかったが。

「おおっ、そろそろ始まるでござるよ」
「待ちに待ったこの時でござる」
「みなの衆! 今宵が天王山でござるよ!」

 心配はあるが、今はこの時を楽しもう。
 藤堂はそう思いペンライトを両手にステージを見る。
 プシューという音と共に白煙の中からKONK-Chu!のメンバーたちが現れる。
 もちろんセンターはファンの期待通りみのりだ。

「みんなー! 今日はあたしたちのコンサートに来てくれてありがとー! あいしてるー! 結婚して-!」
「「「「いーよー!!」」」」

 もはや定番となったお約束の声が上がり、センターのみのりを囲むように他のメンバーが輪となったその時だった。

 ポンっと舞台中央で炸裂音が響き、火柱が上がる。
 いや、上がったのは血柱もだった。
 指向性の地雷、威力は対人用ではなく、対戦車用ともいえるほどの火力がみのりの身体をズタズタに千切り飛ばし、その肉片が血しぶきがコンサート会場に降り注ぐ。
 誰もが目を奪われ、言葉を失った。
 だが、次に上がったのは……悲鳴ではなく、嬌声きょうせいだった。

「いやーん! お洋服がやぶれちゃったー! せくしぃー!」

 ひとつ大きな肉片が盛り上がったかと思うと、そこからなまめかしい女性の肢体が現れる。

「みんあー! もりあがってるー!? 下のほうもー!!」

 半裸、いや九分九厘裸の姿で、この会場で最も注目を受ける不動のセンター、生まれながらの、生まれたままの姿の偶像アイドル逸果いつか みのりは元気いっぱいに手を上げる。
 なんだ、演出か。
 ファンのみんながそう思い、スタッフの全員がリハと違うと思った瞬間、

 パンッ

 みのりの頭がスイカのようにぜた。
 だが、次の瞬間、

「あれれー! だれだー!? プレゼントに鉛玉なんてくれるイケナイ子はー!」

 ゴワゴワゴワと首から肉が盛り上がり、再びみのりはマイクを手にウィンクをする。
 藤堂の隣で誰かが倒れる音がした。
 
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