上 下
57 / 100
第3章 夢よもういちど

3-4.危機の入口 湊 藤堂

しおりを挟む
 凛悟がエゴルトのプライベート回線で通話していたころ、いや4月1日の昼頃から”祝福者”みなと 藤堂とうどうはずっと福岡のイベント会場に居た。
 今日、4月2日の午後からアイドルユニットKONK-Chu!コンカッチュ!の握手会が開催され、明日、4月3日の夕方にはコンサートが開催される。
 藤堂は昨日から徹夜で並んでいるのだ。
 もちろん、目当ては彼の推しの逸果いつか みのりである。

 しかしまあ、ワイの知らん所で事態はどんどん進んじょるの。
 この1日半の出来事を思い出しながら藤堂は考える。
 夢から醒めて、藤堂はほとんど何もしていない。
 起きた直後、手の甲の数字を見て『あれは夢じゃなか』と気付いたものの、肝心の凛悟と蜜子の連絡先を憶えていなかったのだ。
 それは凛悟たちも同じだったのだが、あっちには”本”がある。
 昨日の昼前には凛悟から、俺たちは群馬に向かってその後福岡へ行くと連絡があった。
 さらに衝撃的なことも凛悟は伝えてきた。

 まさか、に気づかれちょったとはなあ。

 いざという時のため藤堂がふたりに秘密にしていた事実。
 みのりも”祝福者”であるということ。
 さらに驚くべきことはみのりの命が狙われていて、このままだと4月3日のコンサート後にみのりが殺されるという予言。
 それをあっさり凛悟は告げてきた。
 みのりが”祝福者”であることに藤堂は驚いたふりをしたが、内心、秘密にしていたことがバレていてもおかしくないと考えていた。
 こうなっては腹をくくるしかない。

『わかった、みのりちゃんを仲間に引き入れたる』

 と藤堂はこの”祝福ゲーム”が始まる前の予定通り、握手会の列に徹夜で並んでいたのだった。
 努力のかいもあって、先頭である。

 ヴィーッ、ヴィーッ

 藤堂のスマホが鳴る。
 相手は凛悟からだ。
 会話が漏れないよう藤堂はイヤホンを差し込んで電話に出る。

「はい藤堂や。リンゴはん、何かあったんかいな?」
『色々とな、今、会話して平気か?』
「ちょい待ってな」

 スマホを手で押さえ、藤堂は2番目のファンに声をかける。

「テルやん、すまんけどちょっと電話してくるけん、場所見といてや」
「ええで、でも帰ってきたらこっちを見といてや。飯いきたいねん」
「わあった。お互い様や。あんがとな」

 軽く手を上げて礼を言うと、藤堂は列から離れ、人気のない場所へ進む。

「ここならええで、あたりに聞くやっちゃおらん」
『そうか。今は逸果いつかみのりの握手会の場所だよな』
「せやで、あと4時間くらいで開場や」
『仲間に引き込むことは出来そうか?』
「わからへん。ワイのカードは他に協力者がいるってだけやからな。それも信じてもらえなければブラフって思われるかもしれへん。他に信じられるカードがあれば別やけど」

 他のカードがあっても、まあ無理やろなと藤堂は内心思う。
 ”死の予言”なんて警戒されるだけだ。
 だが、凛悟なら藤堂も知らないカードを持っているかもしれない。
 それを自分に渡してくれるかもしれない。
 だが、それではダメだと藤堂は思っている。
 どんなに良いカードを持っていると言っても、それをみのりに信じてもらわねば意味がない。
 そして、ただのファンである藤堂がそれを言っても信じてもらえる保証はないのだ。
 たとえ、毎回先頭でやってくる一番のファンであっても。

『そうか……、ならカードを渡そう。最強のカードを』
「そんなのあるんかいな?」
『あるさ、俺は”祝福”を使って”本”を手に入れた。祝福者たちのプロフィールや今までに叶えられた願いが載っている”本”だ』
「ホンマか!?」
『ホンマだ。ちなみに藤堂、お前の体重は82kgだ』
「マジか!? もうちっと軽くないか?」
『マジだ。 これが正しい』

 その数字は藤堂の予想よりも少し重かった。
 だが、少しでしかなかった。

「なるほど。それでみのりちゃんしか知らない情報を出して信じさせるっちゅうんやな。こっちには最強のカード持ちがおると」
『そういうことだ。情報は最強のカードだからな。蜜子もお前もいる。あとひとり”祝福者”の協力が取り付けられたら俺たちの勝ちだ』
「それも”本”でわかっとるんか」

 わかっとるんやろな、凛悟はんは。
 最初に感じた冴えた男という印象。
 それを思いだし藤堂は尋ねる。

『ああ、俺の、俺たちの作戦はこう。ひとつの願いで”死人は生き返らないというルールの撤廃”、ふたつの願いで”死んだ人間を生き返らせる”、最後に”どんな運命改編や歴史改変があろうとも全祝福者が幸せな人生を送れるように”と願う』
「ええ案やな。でもそれやと3つめだけでよかへん?」
『ダメだ。死んだ人間が生き返らないと幸せになれない祝福者がいる』
「それも”本”でわかったと?」
『ああ、それに危ないヤツもいる。ルール変更を願って”祝福者が死んだら権利が自分のものになる”とした男もいる』
「えらいやっちゃな。どいつや」
『エゴルト・エボルト。エボルトテック社のCEO』
「エライやっちゃな。社長さんか」
『”本”やエゴルトの願いの情報は開示してかまわない。みのりをこちら側に引き込んでくれ』

 太っ腹やな、いや、”本”にはまだ情報がいっぱいあるってことか。
 なら、これくらいの情報カードは見せてもええということやな。
 凛悟は他にもカードを持っていることは間違いない。
 抜け目ないやっちゃ。
 藤堂はそう思いながら『わかったで』と告げる。

『頼む。ただ、気を付けてくれ逸果いつかみのりはヤバイ女だという情報もある』
「ヤバイほど良い女ってことやろ、知っとんで」

 そういいう意味でないことはわかっていたが、少し冗談めかしく藤堂は言った。

「でもリンゴはん。もし、説得に失敗した時はどうするんや」

 藤堂の考える限りエゴルトという男はヤバイ。
 しかも、その男は次の瞬間に”祝福”を複数手に入れていることだってあるのだ。
 
『色々考えてる。他にも手は打っている。もしどうしようもなくなっても最後にふたつ、いやひとつでも”祝福”があれば……』
「あれば?」
『奇跡の大逆転さえ可能だ』

 さすがにそれはブラフやろと藤堂は思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友よ、お前は何故死んだのか?

河内三比呂
ミステリー
「僕は、近いうちに死ぬかもしれない」 幼い頃からの悪友であり親友である久川洋壱(くがわよういち)から突如告げられた不穏な言葉に、私立探偵を営む進藤識(しんどうしき)は困惑し嫌な予感を覚えつつもつい流してしまう。 だが……しばらく経った頃、仕事終わりの識のもとへ連絡が入る。 それは洋壱の死の報せであった。 朝倉康平(あさくらこうへい)刑事から事情を訊かれた識はそこで洋壱の死が不可解である事、そして自分宛の手紙が発見された事を伝えられる。 悲しみの最中、朝倉から提案をされる。 ──それは、捜査協力の要請。 ただの民間人である自分に何ができるのか?悩みながらも承諾した識は、朝倉とともに洋壱の死の真相を探る事になる。 ──果たして、洋壱の死の真相とは一体……?

学園ミステリ~桐木純架

よなぷー
ミステリー
・絶世の美貌で探偵を自称する高校生、桐木純架。しかし彼は重度の奇行癖の持ち主だった! 相棒・朱雀楼路は彼に振り回されつつ毎日を過ごす。 そんな二人の前に立ち塞がる数々の謎。 血の涙を流す肖像画、何者かに折られるチョーク、喫茶店で奇怪な行動を示す老人……。 新感覚学園ミステリ風コメディ、ここに開幕。 『小説家になろう』でも公開されています――が、検索除外設定です。

【毎日20時更新】アンメリー・オデッセイ

ユーレカ書房
ミステリー
からくり職人のドルトン氏が、何者かに殺害された。ドルトン氏の弟子のエドワードは、親方が生前大切にしていた本棚からとある本を見つける。表紙を宝石で飾り立てて中は手書きという、なにやらいわくありげなその本には、著名な作家アンソニー・ティリパットがドルトン氏とエドワードの父に宛てた中書きが記されていた。 【時と歯車の誠実な友、ウィリアム・ドルトンとアルフレッド・コーディに。 A・T】 なぜこんな本が店に置いてあったのか? 不思議に思うエドワードだったが、彼はすでにおかしな本とふたつの時計台を巡る危険な陰謀と冒険に巻き込まれていた……。 【登場人物】 エドワード・コーディ・・・・からくり職人見習い。十五歳。両親はすでに亡く、親方のドルトン氏とともに暮らしていた。ドルトン氏の死と不思議な本との関わりを探るうちに、とある陰謀の渦中に巻き込まれて町を出ることに。 ドルトン氏・・・・・・・・・エドワードの親方。優れた職人だったが、職人組合の会合に出かけた帰りに何者かによって射殺されてしまう。 マードック船長・・・・・・・商船〈アンメリー号〉の船長。町から逃げ出したエドワードを船にかくまい、船員として雇う。 アーシア・リンドローブ・・・マードック船長の親戚の少女。古書店を開くという夢を持っており、謎の本を持て余していたエドワードを助ける。 アンソニー・ティリパット・・著名な作家。エドワードが見つけた『セオとブラン・ダムのおはなし』の作者。実は、地方領主を務めてきたレイクフィールド家の元当主。故人。 クレイハー氏・・・・・・・・ティリパット氏の甥。とある目的のため、『セオとブラン・ダムのおはなし』を探している。

幻影のアリア

葉羽
ミステリー
天才高校生探偵の神藤葉羽は、幼馴染の望月彩由美と共に、とある古時計のある屋敷を訪れる。その屋敷では、不可解な事件が頻発しており、葉羽は事件の真相を解き明かすべく、推理を開始する。しかし、屋敷には奇妙な力が渦巻いており、葉羽は次第に現実と幻想の境目が曖昧になっていく。果たして、葉羽は事件の謎を解き明かし、屋敷から無事に脱出できるのか?

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

Man under the moon

ハートリオ
ミステリー
フェムト星のフェムト星人のモルは、探偵。 ある日、仕事の依頼者に会う為に列車に乗っていたが、間違えてビット村という田舎の村に下車してしまう。 そこで偶然出会った少女に人捜しを頼まれるが・・・ 5月16日  ・表紙登録しました。  ・2月28日投稿した第1話に挿絵イラスト追加しました。 文章はそのままです。 全話ではないですが挿絵イラストを付けますので、雰囲気を感じて頂けたらいいなと思います。 6月21日 29話までしか挿絵間に合ってないのですが、暑くなってきたのでエアコンの無い(壊れっぱなし)部屋で挿絵描く作業はパソコンが熱くなってしまうので、涼しくなるまで控えるしかないので、挿絵途中ですが一旦投稿終了します。(30話からは挿絵なしの小説のみの投稿となります) 涼しくなってから残りの挿絵描いて完全な状態にしたいと思ってますが、修正投稿はあまりしたくないので、どうしようか考え中です。 エアコンが欲しいです~~~

迷子の人間さん、モンスター主催の『裏の学園祭』にようこそ

雪音鈴
ミステリー
【モンスター主催の裏の学園祭について】 ≪ハロウィンが近い今日、あちら側とこちら側の境界は薄い――さあさあ、モンスター側の世界に迷い込んでしまった迷子の人間さん、あなたはモンスター主催のあるゲームに参加して、元の世界に帰る権利を勝ち取らなくてはいけません。『裏の学園祭』が終わる前にここから抜け出すために、どうぞ頑張ってください。ああ、もちろん、あなたがいるのはモンスターの世界、くれぐれも、命の危険にはご用心を――≫

人形の家

あーたん
ミステリー
田舎に引っ越してきた ちょっとやんちゃな中学3年生の渚。 呪いがあると噂される人形の家があるその地域 様子のおかしい村人 恐怖に巻き込まれる渚のお話

処理中です...