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第三章 ここは彼方の理想郷
その11 これは! 爆発だ!
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「射てー!」
俺の号令で戦いは始まった。
トカゲ人が近づいて来たので、土塁の陰から矢を射かけたのだ。
当然射程外だ。
「ははは! ばーかー! とどかない! ばーか!」
「こっち、とどく、うてー!!」
パパーンと大きな音がして土塁がボスッという音を立てる。
「頭を出すな! 弓なりに射つのだー!」
所詮は火縄銃、いやフリントロック銃、人に当たった場合の威力は殺傷に十分だが、貫通力は弱い。
丸い鉛弾では土嚢を積んで作った土塁を貫ける事はできない。
厚みは三層にしてあるので、物量で最前面が崩れてもしばらくは平気だ。
しかし、予想通りに事は運ぶ、あいつら、全員で全力で撃ちこんで来た。
やっぱ、バカだなー。
もし、俺がトカゲ人の味方なら、余裕で勝てるのに。
「やめー!」
およそ10分程度であろうか、何発も何発も撃ちこんだ時、トカゲ人は発砲を止めた。
火薬を前から詰める前込め式の銃には欠点がある。
連発出来ないという所もそうだが、何回か撃つと、燃えカスが銃底に溜まり発射出来なくなるのだ。
これを取るは尾栓というネジを取ってカスを除かねばならない。
これには、結構な時間が掛かる。
「よし! ガルガー! モモ―! 行くぞ!」
「おう!」
「はい!」
俺は待機していた獣人の背に乗り、大袋を携えて土塁から飛び出る。
「風上に回れー!」
俺たちに続いて、何人もの獣人が大袋を抱えて飛び出した。
そして、トカゲ人の風上に位置する。
「今だ! 撒けー!」
走りながら俺たちは袋の口を開放した。
そして、中身が舞い散る。
「よーし! 投石隊! 放てー!」
俺の号令に合わせ、土塁の内側で用意しておいた投石器が稼働する。
だが、投げるのは石ではない、口を緩く絞められた袋だ。
それがトカゲ人の集団に降り注ぐ。
トカゲ人は銃弾が土塁を抜けなくて前進してしまっていたのだ。
落下の衝撃で袋の口が開き、中身が飛び散る。
それは、俺達が撒いていたのと同じものだ。
「とり……の、はね?」
それは、鳥の羽根にも見えたかもしれない。
よく見れば、綿のように見えるだろう。
だが、それは、そのどちらでもない。
◇◇◇◇◇
3日前、俺はメーにガラスの器と硫酸と硝酸と綿布を用意させた。
「神様、用意できました」
「うむ、これからは、火気厳禁。えーっと、火を使ってはダメ! ぜったい! だ!」
「はい!」
「では、これから作り方を教える」
俺はガラスの器に濃硫酸と濃硝酸を入れて混ぜる。
あちちちち!
「熱くなるから注意しろ。そして細切れにした綿布を入れる。しばらく経ったら、取り出して、よーく水で洗う。風で飛ばないように網に挟んで、乾かせば完成だ」
この世界のこの町は日本と違い乾燥している。
手回し式扇風機であっという間に乾く。
「神様、それは何でしょうか?」
「これはな、燃える布だ」
「布は燃えるのでは?」
「こいつは、ひと味違うぞ」
そう言って、俺は布に火を付ける。
ポッ
軽い音を立てて、布は一瞬で燃え尽きた。
「す、すごいです! 神様!」
これは、現代ではマジシャンが一瞬でハンカチを消すマジックにも使われる素材。
その名は『ニトロセルロース』。
現代でも銃火器の火薬の80%近い成分はこれで構成されている。
文字通り、未来のGunpowderだ!
◇◇◇◇◇
「なんだ、これは!」
白い細切れ布にまみれたトカゲ人が叫ぶ。
風上からの風に乗って、飛来したそれは、トカゲ人の体や、服にまとわりつく。
「いいから、うてー!」
それが、最後の言葉だった……
少量ならば、小さい音で煙も出さずに一瞬で燃え尽きるのが、ニトロセルロースの特性。
だが、一定空間内に十分な量があれば……
ボワッ!
フリントロック銃の火花によって着火されたそれは、一気に燃え広がる。
そして……
ドドドド! ドカーン!
『いっぱいある』と言っていた黒色火薬に引火すれば、おしまいだ。
というか! おれたちも危ねえよ!
撒いたらすぐ逃げろ、と言い聞かせていたので、幸いにも怪我人は出なかったが、衝撃と音、飛来する礫は獣人たちの腰を抜かすのには十分だったのである。
俺? 俺は膝をガクガクさせながらも立っていられたさ!
「さ、さすがでう! か、かみしゃま!」
会話が出来るのはモモーだけだった。
◇◇◇◇◇
「生き残りを救助せよ!」
土器バケツリレーで消火と生き残りの救助が行われていた。
思ったよりも生きているトカゲ人は多い。
だが、それでも1000を超す即死者が出た。
怪我人からも、続々死者がでるだろう。
こいつらの敗因はバカであった事だ。
銃を手にしただけで勝てると思い込み、戦術を全く取らなかった。
戦列歩兵の密集陣形、そこからの一斉射撃、これは中世~近世にかけての戦術だ。
正解は散開兵による多角的射撃だ。
そのゲリラ的な戦術で、市民を巻き込んで攻撃されたら、俺たちの勝利は不可能。
もし、そうなったら降伏しようとも思っていた、
だが、それには個々の歩兵が自己判断できる十分な教育と訓練が必要になる。
半年前までは剣で戦っていたトカゲ人では無理な話だ。
さて、後は戦後処理だ。
俺の号令で戦いは始まった。
トカゲ人が近づいて来たので、土塁の陰から矢を射かけたのだ。
当然射程外だ。
「ははは! ばーかー! とどかない! ばーか!」
「こっち、とどく、うてー!!」
パパーンと大きな音がして土塁がボスッという音を立てる。
「頭を出すな! 弓なりに射つのだー!」
所詮は火縄銃、いやフリントロック銃、人に当たった場合の威力は殺傷に十分だが、貫通力は弱い。
丸い鉛弾では土嚢を積んで作った土塁を貫ける事はできない。
厚みは三層にしてあるので、物量で最前面が崩れてもしばらくは平気だ。
しかし、予想通りに事は運ぶ、あいつら、全員で全力で撃ちこんで来た。
やっぱ、バカだなー。
もし、俺がトカゲ人の味方なら、余裕で勝てるのに。
「やめー!」
およそ10分程度であろうか、何発も何発も撃ちこんだ時、トカゲ人は発砲を止めた。
火薬を前から詰める前込め式の銃には欠点がある。
連発出来ないという所もそうだが、何回か撃つと、燃えカスが銃底に溜まり発射出来なくなるのだ。
これを取るは尾栓というネジを取ってカスを除かねばならない。
これには、結構な時間が掛かる。
「よし! ガルガー! モモ―! 行くぞ!」
「おう!」
「はい!」
俺は待機していた獣人の背に乗り、大袋を携えて土塁から飛び出る。
「風上に回れー!」
俺たちに続いて、何人もの獣人が大袋を抱えて飛び出した。
そして、トカゲ人の風上に位置する。
「今だ! 撒けー!」
走りながら俺たちは袋の口を開放した。
そして、中身が舞い散る。
「よーし! 投石隊! 放てー!」
俺の号令に合わせ、土塁の内側で用意しておいた投石器が稼働する。
だが、投げるのは石ではない、口を緩く絞められた袋だ。
それがトカゲ人の集団に降り注ぐ。
トカゲ人は銃弾が土塁を抜けなくて前進してしまっていたのだ。
落下の衝撃で袋の口が開き、中身が飛び散る。
それは、俺達が撒いていたのと同じものだ。
「とり……の、はね?」
それは、鳥の羽根にも見えたかもしれない。
よく見れば、綿のように見えるだろう。
だが、それは、そのどちらでもない。
◇◇◇◇◇
3日前、俺はメーにガラスの器と硫酸と硝酸と綿布を用意させた。
「神様、用意できました」
「うむ、これからは、火気厳禁。えーっと、火を使ってはダメ! ぜったい! だ!」
「はい!」
「では、これから作り方を教える」
俺はガラスの器に濃硫酸と濃硝酸を入れて混ぜる。
あちちちち!
「熱くなるから注意しろ。そして細切れにした綿布を入れる。しばらく経ったら、取り出して、よーく水で洗う。風で飛ばないように網に挟んで、乾かせば完成だ」
この世界のこの町は日本と違い乾燥している。
手回し式扇風機であっという間に乾く。
「神様、それは何でしょうか?」
「これはな、燃える布だ」
「布は燃えるのでは?」
「こいつは、ひと味違うぞ」
そう言って、俺は布に火を付ける。
ポッ
軽い音を立てて、布は一瞬で燃え尽きた。
「す、すごいです! 神様!」
これは、現代ではマジシャンが一瞬でハンカチを消すマジックにも使われる素材。
その名は『ニトロセルロース』。
現代でも銃火器の火薬の80%近い成分はこれで構成されている。
文字通り、未来のGunpowderだ!
◇◇◇◇◇
「なんだ、これは!」
白い細切れ布にまみれたトカゲ人が叫ぶ。
風上からの風に乗って、飛来したそれは、トカゲ人の体や、服にまとわりつく。
「いいから、うてー!」
それが、最後の言葉だった……
少量ならば、小さい音で煙も出さずに一瞬で燃え尽きるのが、ニトロセルロースの特性。
だが、一定空間内に十分な量があれば……
ボワッ!
フリントロック銃の火花によって着火されたそれは、一気に燃え広がる。
そして……
ドドドド! ドカーン!
『いっぱいある』と言っていた黒色火薬に引火すれば、おしまいだ。
というか! おれたちも危ねえよ!
撒いたらすぐ逃げろ、と言い聞かせていたので、幸いにも怪我人は出なかったが、衝撃と音、飛来する礫は獣人たちの腰を抜かすのには十分だったのである。
俺? 俺は膝をガクガクさせながらも立っていられたさ!
「さ、さすがでう! か、かみしゃま!」
会話が出来るのはモモーだけだった。
◇◇◇◇◇
「生き残りを救助せよ!」
土器バケツリレーで消火と生き残りの救助が行われていた。
思ったよりも生きているトカゲ人は多い。
だが、それでも1000を超す即死者が出た。
怪我人からも、続々死者がでるだろう。
こいつらの敗因はバカであった事だ。
銃を手にしただけで勝てると思い込み、戦術を全く取らなかった。
戦列歩兵の密集陣形、そこからの一斉射撃、これは中世~近世にかけての戦術だ。
正解は散開兵による多角的射撃だ。
そのゲリラ的な戦術で、市民を巻き込んで攻撃されたら、俺たちの勝利は不可能。
もし、そうなったら降伏しようとも思っていた、
だが、それには個々の歩兵が自己判断できる十分な教育と訓練が必要になる。
半年前までは剣で戦っていたトカゲ人では無理な話だ。
さて、後は戦後処理だ。
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