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第三章 ここは彼方の理想郷

その7 これは! 愛だな!

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 その後、俺は『超すごい酒の家』と『すごい窯の家』も見学した。
 酒の蒸留は完璧だった。
 すでに土器ではなく、金属の釜やパイプを用いた工場とも言える設備が整っていた。
  
 腐りやすいヤシ酒は蒸留が基本となり、ビールも蒸留されてウィスキーになっていた。
 オーク材のたるが無いので、味はウイスキーとは似ても似つかなかったが。
 その他にも俺が探すように命じていたブドウも発見されたらしく、ワインとブランデーも出来上がっていた。

 『神様石』の粉と『ピカピカ砂』と灰を練って土器に塗って焼いた釉薬うわぐすりの付いた保存用の土器も出来ていた。
 素焼きと違って水を通しにくくなっている。
 素焼きは素焼きで染み出た水分が乾燥地帯の風で気化し、気化熱で中身が冷えるので、まだ現役だった。
 
 「冷えたビールおいしい!」

 驚いたのは『すごい窯の家』だ。
 俺が作った高炉の五倍はあろうかという高炉が完成していて、空気を送り込むのには大規模な足踏み式ふいご、つまり、たたらがあり、高温での金属精錬が可能となっていた。
 燃料は石炭を使っている。
 どうやら、南の山脈に石炭の鉱床を発見したらしい。

 「これが『かみさまの鉄の塔』です」
 「あれ? おまえら、鉄器、作れたの?」
 「はい、鉄の道具は鍋から鎌、針金まで、幅広く使われています」
 「どうして、武器にしなかったんだ!?」
 「青銅は神様が授けてくれた神聖な金属ですから」

 どうやら、効率性と信仰は逆相関関係があるらしい。

 「そ、そうか。ならば知恵を授けよう!」
 「石炭を入れる前に窯で焼いてから入れよ。さすれば、鉄はスゴイ鉄になるであろう! そして、溶け出た鉄は熱いうちに叩くのだー!」
 「は、はいっ! やってみます」

 おそらく武器にならなかったのは鉄の質が悪いからだ。
 石炭では硫黄化合物が多く、それが鉄の質を下げる。
 でもそれは、石炭を空焚きしてコークスにする事で改善できるのだ。

 それから、二週間、俺はレース編みを教えたり、ブラジャーの形を固定する内部のワイヤーに苦心したり、ブラジャーの大量生産の為、紡績機のミニチェアを作ったり、ガラス吹きを教えて過ごした。
 やっぱゴムが欲しい。
 ゴムがあれば、動力を伝えるベルトが作れる。
 動力は水力か風力か人力で何とかなるが、歯車や縄でしか動力を伝えられないのは効率が悪い。
 早くトカゲ人がこないかなぁ。

◇◇◇◇◇
 
 数日後、トカゲ人の使者がやってきた。
 大量の竹とゴムの木と獣人たちと一緒に。

 「おれ、やくそくまもった。なかま、かえす」
 「うむ、約束は果たそう」

 俺はトーを始めとするトカゲ人の捕虜を解放する。

 「かみ、ばか、こんなどうでもいいのと、おれ、こうかんするなんて」

 トーが何やら捨て台詞を言って、モモ―が激高していたが、「よい、ゆるす」という俺の言葉で事なきを得た。
 それよりも、戦利品だ。
 やったぜ! ちゃんと根っこごと持ってきている。
 竹の地下茎もさほど傷ついてないな。
 しかし、獣人たちは多いな、神殿内に入りきらなかったので、広場に待たせているが、1000人くらいいるぞ。
 しょうがない、あの計画を実行するか。

 「モモ―、ガルガーを呼べ」
 「はい、神様」

 ガルガーが神殿にやって来る。

 「かみさま、何か、ごようですか?」
 「ガルガー、お前の先日の戦い、見事であった」
 「ありがとうございます」
 「褒美として、お前を、お前たちを俺の下僕しもべとしてやろう」

 その言葉に場がざわつく。

 「かみさま、それは……」
 「うむ、がるーは、今より、ヒトの下僕しもべではなく、神の下僕しもべだ。ヒトとがるーはともだちとなる。ぎょーと同じだ」

 そう、奴隷制みたいなのは止めなければならないと思っていたのだ。

 「これより北の地に町を作るが良い、外の仲間も連れてな。モモ―、ヤー、メー、町作りを手伝うのだ」
 「神様! それはあまりにも……」
 
 ヤーが口を挟む。

 「そうだな、あまりにも惨い。今まではヒトがずっと優しくしてきた。だが、これからは、俺しか、がるーに優しくしない。俺は残り345日でいなくなる」
 「ありがとう、神様! ガルガーは神様のいちばんのしもべになる!」

 感激したガルガーが俺に膝まづいた。

 「神様の一番のしもべはモモ―だ!」

 モモ―はライバル心を燃やしていた。

 「モモ―、俺はガルーの町を作りたい。一番の下僕しもべなら、やるべき事は分かるな」
 「は、はぃ! モモ―は町作りを手伝います!」

 仲良くしてくれるといいのだが。

 ◇◇◇◇◇

 さて、今度やるべきは都市計画だ。
 ゴムの木も竹も水が必要だ。
 だから、もっと川の近くに植えなくてはならない。
 それに、動力が必要だ。
 現状では水車しか候補がない。
 風車ではサイズが大きすぎて無理だ。
 水車の為の水路のある町を作るには、大河から遠いこの町では無理なのだ。
 人口もそろそろ支え切れない。
 だから、第二、第三の都市の建設が必要なのだ。
 そして、大河から水路を引くには魚人の助けが必要だ。
 俺たちは大量の酒壺を抱え、北に向かった。

 町の建設予定地は、ヒトの縄張りの北限である。
 俺の計画のもう一つの側面は獣人の町をトカゲ人との間に作り、牽制けんせいとするのだ。
 おそらく、これからも何度かトカゲ人の侵攻はあるだろう。
 だが、その時に俺はいない。
 だから友好的な第二の都市が必要なのだ。
 わかってくれるかなぁ。

 ◇◇◇◇◇ 

 「第二のしもべ! 第一のしもべモモ―が参った」
 
 大河は北に進むと大きい湖に入り、そこから東と西の二股に分かれている。
 魚人の町はこの湖にあるらしい。
 中心にある大きな葦がそうだ。

 「だいにのしもべ! パトー! とうじょー! かみさま、おはつ! ビールおいしい!」
 「「「ビールおいしい!」」」

 湖から魚人たちが現れる。
 こっちは『ビールおいしい!』が挨拶の言葉になっていた。
 だが、パトーと名乗った、め、メスウナギ!? は俺の知っているハトの姿とは全く違っていた。
 かつて、前の転移の時に助けたウナギは、足の生えたウナギだった。 
 しゃべるウナギだ。
 だが、パトーの姿を例えるなら、ウナギの尻尾が付いた黒のラバースーツを着た女性だ。
 これ……ひょっとして……

 「なあ、パトー、お前のご先祖はひょっとして、パーとハトか!?」

 俺はゴクリと喉を鳴らし尋ねる。

 「そう、ともだちとの、さいしょのふーふ、それがパーとハト! ちかいのビールのんだ!」
 「神様、同じ盃でお酒を飲むのが、結婚のならわしです」

 あー、あの時のパーにこっそり増量しといたのが、結婚の誓いの印になったのか!
 って、そんなことはどうでもいい!
 ムーに続いて、パーもヤりやがった!!
 
 「モモ―の町にも、やさしいパーにならって魚人と結婚する者も一定数います。100人くらいでしょうか」

 ふえてるー!! 
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