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プロローグ
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暦の上では冬の始まりである12月1日。この日は今年初めての雪が朝から降っていた。
「…はぁ…。いつもこの時期は雪降らないのに珍しい…」
部屋の中でパジャマのままリビングを歩いていた今野絵鞠は、あくびを噛み殺しつつも、テーブルの上にある食パンを袋から取り出し、それを生で食べ始めた。
目の前にあるテレビの電源をつけると、そこから流れていたのは、お馴染みの朝の情報番組。ゆるキャラがお天気キャスターと手を振りながら天気予報を伝えていた。
今日も何気ない1日が始まると憂鬱で仕方がない。舟をこぎつつ番組をボーっと眺めていると、とあるニュースが絵鞠の目に留まり、息を呑んだ。
『今日未明、○○県△△市の河原にて、男子高校生と思わしき遺体が首を切り取られた状態で発見されました。警察は殺人事件とみなし、調査を進めています』
しばらくの間、絵鞠は流れていた殺人事件のニュースに釘付けになっていた。なぜなら、映っていたのは絵鞠の住むアパートの近くだったのだ。
そしてチラッと映像で見えた学生鞄。そこに着いていた青いレジンのキーホルダーに絵鞠は絶句し、口を両手で抑えた。
「…織人…うそ…!」
このキーホルダーをつけているのは世界にたった1人しかいない。
前澤織人。幼少期に離婚して離れ離れになった絵鞠の弟だ。
そして、そのキーホルダーはまさに1週間前に絵鞠が偶然再開した織人にあげた手作りの一点物だったのだ。
止めどなく溢れ出てくる涙を拭えず、絵鞠は呆然とテレビを見つめる。その時、ふと織人と再開した際に話し合った事が頭をよぎった。
『…姉さん、実は今、手記を書いててさ。誰にも見せてないんだけど、もし万が一僕が死んだら見て欲しいんだよね』
『手記?一体何で?』
『うーん…ここだけの話なんだけど、実は僕を殺そうとする奴がいるらしくってさ…。犯人が分からないからどうしても突き止めたいんだけど、僕が死んだら元も子もないじゃん?だからさ、姉さんにもぜひ協力して欲しいんだ』
『え!?…でも、織人。警察には相談したんだよね?』
『うん。でもあっさりと突っぱねられたよ。だからこうやって姉さんにお願いしてる』
『…そっか。じゃあもし織人が死んだら、お姉ちゃんが犯人突き止めて、絶対に仇をとるからね!』
『うん。ありがとう姉さん!』
そういえば、そんな話をファミレスでしていた気がする。と、そう思い立った絵鞠は、涙を手の甲でゴシゴシと拭い、すぐさま自分の机に向かった。
取り出したPCを開いて、絵鞠は織人の通っていた高校・水天高校について探し始める。すると、1件の求人情報が絵鞠の目に留まった。
『水天高校男子寮B塔。男性清掃員募集』
「…これだ…」
絵鞠はすぐさまスマホで募集要項に記載されている電話番号にかける。すると、1人の男性が応じてくれた。
「はい。こちら水天高校でございます」
「あの、こちらで清掃員を募集しているとお聞きしたのですが…」
「はい。そうですが…」
男性に近づけるよう、なるべく低い声で話してみたが、彼は絵鞠を疑っているようだ。絵鞠は意を決してこう言った。
「…僕、実はお宅の高校に通う前澤織人の兄でして。1週間前に彼に会って、『この清掃員の仕事をしてはどうか』と勧められたんです。ついでに、ここの男子寮に住んでいる織人にも顔を見せたいですし…」
「おや、そうでしたか!彼のお兄さんであれば心強い。是非とも面接にお越しください」
「ほ、本当ですか!?ありがとうございます!」
なるべく女だと気付かれずに対応したが、どうやら織人の評判はとてもいいらしく、今度は怪しまれる事もなく面接に行けることになった。
電話を切り、絵鞠は宙を見上げてこう呟いた。
「…よし!織人を殺した犯人を突き止めて仇を取らなくちゃ」
「…はぁ…。いつもこの時期は雪降らないのに珍しい…」
部屋の中でパジャマのままリビングを歩いていた今野絵鞠は、あくびを噛み殺しつつも、テーブルの上にある食パンを袋から取り出し、それを生で食べ始めた。
目の前にあるテレビの電源をつけると、そこから流れていたのは、お馴染みの朝の情報番組。ゆるキャラがお天気キャスターと手を振りながら天気予報を伝えていた。
今日も何気ない1日が始まると憂鬱で仕方がない。舟をこぎつつ番組をボーっと眺めていると、とあるニュースが絵鞠の目に留まり、息を呑んだ。
『今日未明、○○県△△市の河原にて、男子高校生と思わしき遺体が首を切り取られた状態で発見されました。警察は殺人事件とみなし、調査を進めています』
しばらくの間、絵鞠は流れていた殺人事件のニュースに釘付けになっていた。なぜなら、映っていたのは絵鞠の住むアパートの近くだったのだ。
そしてチラッと映像で見えた学生鞄。そこに着いていた青いレジンのキーホルダーに絵鞠は絶句し、口を両手で抑えた。
「…織人…うそ…!」
このキーホルダーをつけているのは世界にたった1人しかいない。
前澤織人。幼少期に離婚して離れ離れになった絵鞠の弟だ。
そして、そのキーホルダーはまさに1週間前に絵鞠が偶然再開した織人にあげた手作りの一点物だったのだ。
止めどなく溢れ出てくる涙を拭えず、絵鞠は呆然とテレビを見つめる。その時、ふと織人と再開した際に話し合った事が頭をよぎった。
『…姉さん、実は今、手記を書いててさ。誰にも見せてないんだけど、もし万が一僕が死んだら見て欲しいんだよね』
『手記?一体何で?』
『うーん…ここだけの話なんだけど、実は僕を殺そうとする奴がいるらしくってさ…。犯人が分からないからどうしても突き止めたいんだけど、僕が死んだら元も子もないじゃん?だからさ、姉さんにもぜひ協力して欲しいんだ』
『え!?…でも、織人。警察には相談したんだよね?』
『うん。でもあっさりと突っぱねられたよ。だからこうやって姉さんにお願いしてる』
『…そっか。じゃあもし織人が死んだら、お姉ちゃんが犯人突き止めて、絶対に仇をとるからね!』
『うん。ありがとう姉さん!』
そういえば、そんな話をファミレスでしていた気がする。と、そう思い立った絵鞠は、涙を手の甲でゴシゴシと拭い、すぐさま自分の机に向かった。
取り出したPCを開いて、絵鞠は織人の通っていた高校・水天高校について探し始める。すると、1件の求人情報が絵鞠の目に留まった。
『水天高校男子寮B塔。男性清掃員募集』
「…これだ…」
絵鞠はすぐさまスマホで募集要項に記載されている電話番号にかける。すると、1人の男性が応じてくれた。
「はい。こちら水天高校でございます」
「あの、こちらで清掃員を募集しているとお聞きしたのですが…」
「はい。そうですが…」
男性に近づけるよう、なるべく低い声で話してみたが、彼は絵鞠を疑っているようだ。絵鞠は意を決してこう言った。
「…僕、実はお宅の高校に通う前澤織人の兄でして。1週間前に彼に会って、『この清掃員の仕事をしてはどうか』と勧められたんです。ついでに、ここの男子寮に住んでいる織人にも顔を見せたいですし…」
「おや、そうでしたか!彼のお兄さんであれば心強い。是非とも面接にお越しください」
「ほ、本当ですか!?ありがとうございます!」
なるべく女だと気付かれずに対応したが、どうやら織人の評判はとてもいいらしく、今度は怪しまれる事もなく面接に行けることになった。
電話を切り、絵鞠は宙を見上げてこう呟いた。
「…よし!織人を殺した犯人を突き止めて仇を取らなくちゃ」
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