訳あり男装執事は、女嫌いの騎士団長に愛され口説かれる

九重ネズ

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薔薇のコサージュを君に…

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 結局、一旦ヨリを戻したマリィとカミーユは、急いでドレスのデザインを店員と話し合ったあと、すぐにその場から帰っていった。
 その様子に、オズワルドの腕から解放されたアナベルは『台風のようだったな』と感じて、遠い目をした。

「大丈夫か、アナベル?疲れたか?」
「あー、はい。体力はまだありますが、せ、精神的に…。でも、これでダブルデートに戻りましたね」
「ああ。これで俺たちを邪魔する奴はいなくなった。気兼ねなくロザリア嬢のドレスを作る事が出来るな!」
「…はい」

 少し嬉しそうに笑ったオズワルドに、アナベルは胸がチクッとした気がして、首を傾げる。
 けれど、すぐに気を取り直して、近くにあるアクセサリーコーナーへと向かった。

「へー…。ここってアクセサリーもあるんですねぇ…」
「まぁ、多分ドレスに合うヤツを置いていると思うけどな。アナベルはこういうの好きか?」
「ん~と、ロザリアに似合うアクセサリーを選ぶのは好きですけど…。あ、でもロザリアにアクセサリーを買うのはたま~にですよ!?誕生日プレゼントとか記念日とかに、さ、サプライズで買って渡してるので!」
「ほーん…サプライズねぇ…」

 アンディだと気付かれそうな発言をしてしまって、慌てて言い訳しているアナベルに、オズワルドはニヤニヤしながら彼女の話を聞いていた。
 別に執事としてロザリアの側にいても、令嬢としてロザリアと仲良くしても、アクセサリーを選ぶ目は変わらない。
 だから『言い訳しなくてもいいのに』と思いながら、オズワルドは軽く頷いて、アクセサリーコーナーに足を運んで物色し始めた。

 (…う~ん…本当はアナベルにも『銀の繭』で作られたドレスを贈りたいんだが…きっとここで話したら断られそうだな。…しかも、今は水色のワンピースを着てはいるが、歩き方が俺と少し似ているし、多分ズボンを履いた時の歩き方をしているのではないかと思う。ここから察するに、アナベルはドレスを着たくなさそうだと推測出来るな。…でも、俺も何かアナベルに贈りたいし…。あ、これは…?)

 ふとオズワルドの目に、青と赤の布の花びらが交互に入っている薔薇のコサージュが入る。
 それはまるで、自分とアナベルの目の色を合わせたような美しいコサージュだったものだから、ついそれを手に取って眺め始めた。

 (本当に綺麗なコサージュだな…。これって『銀の繭』から作られたものだよな?しかも値段も思っていたよりもお手頃…。あ、そうだ。これをアナベルに買って贈るか)

 コサージュを持ちながらそう思ったオズワルドは、アナベルのカチューシャの近くにコサージュを置き、満足そうな顔をする。
 そして、オズワルドの視線とコサージュに気付いたアナベルは、彼を見た途端に顔をまた真っ赤に染めた。

「…へ?お、オズワルド様!?」
「うん。似合ってる、アナベル」
「えっ…?に、似合ってるって、な、何を私に付けたんですか?」
「ん?いや、実際に付けてはないが、これだ。薔薇のコサージュ。すごく綺麗でアナベルに似合ってたから、贈ろうと思って」
「へあっ!?で、でも…これ、高くないですか?お金は…」
「それは大丈夫だ。思ってたよりもお手頃だったからな。後で渡すから、ぜひ持ち帰ってくれ」
「え。で…でも…」

 本当は嬉しいはずなのに、ついお金の心配と女っぽくない自分の引け目から、否定の言葉ばかり出るアナベル。
 けれど、オズワルドは一歩も引かずに、この言葉で言いくるめた。

「いいんだ、アナベル。これは、俺をマリィ嬢から離してくれたお礼だとでも思ってくれ。製糸場でもし俺がマリィ嬢を殴ったら、俺が牢屋行きになってしまう。けれど、それをアナベルが阻止してくれたんだ。とても助かった。ありがとう」
「ぅえ!?け、けれど、あれは無意識でやった事で…」
「無意識!?あれで!?それはすごいな…。ついあの行動に惚れてしまったよ」
「ほ、惚れ!?じょ、冗談よして下さいって!」
「ははっ!でも、結果的にここまで、怪我人を出さずに上手く行くことが出来たんだ。だから受け取ってくれないか、アナベル」
「オズワルド様…わ、分かりました」

 オズワルドから差し出された薔薇コサージュの花びらを優しく触り、アナベルは柔らかな笑顔を浮かべる。
 そんなアナベルを見て、オズワルドはこの選択が正しいものだと理解して、心の中でガッツポーズをしたのだった。
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