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君と二人きりで話したい 

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 ようやく『銀の繭』の製糸場から出られたアナベルたち。
 次に彼女たちは、平民商人の馬車に乗って、『銀の繭』を使ったドレスを作る仕立て屋へと向かった。

「…ふぅ。製糸場では色々ありましたね、オズワルド様」
「ああ。そうだな、アナベル。…まぁ、殿下とロザリア嬢が危ない目に遭ってはなかった事が幸いではあったが…。どうしてロザリア嬢の隣に、マリィ嬢がいるんだ?」
「あー…ははっ…」

 アナベルはオズワルドと隣同士で馬車の長椅子に座りながら、目の前の状況を見る。
 そこには、ロザリアとマリィが隣同士座ってお菓子について談笑している光景と、マリィの大きいドレスのせいで窓際に追いやられているリュドウィックの姿があった。
 どうやらマリィは、ロザリアとリュドウィックをくっつけたくないうえ、アナベルとも一緒にいたいという理由で、付いてきたのだそう。
 この時『せっかくのダブルデートが台無しだ』とオズワルドは思ったが、アナベルはそんな事を気にする事なく、今はリュドウィックの惨状に同情の目を向けた。

「殿下、お気の毒に…」
「ああ…。やっとアナベルと隣同士になれたはいいが、これは殿下が可哀想だな…」
「はい。そうですね、オズワルド様。でも、最初に私が殿下のいる場所に行こうとした際、どうして止めたのです?」
「ん”!?…あー、それはだな…。アナベルに窮屈な思いをさせたくなかった、ってのがあってな」
「はぁ…。でも私があそこに座ったら、マリィ様は気を利かせてドレスを退けてくれると思いますよ?それでもダメですか?」
「んん”っ!」

 上から目線で首を傾げて質問するアナベルがすごく可愛くて、オズワルドは顔を赤くしながら咳払いをした。
 製糸場でも、あまりにものカッコ良さとスムーズな対応に惚れ直したというのに、ここでもやっぱり惚れてしまうのかと頭を抱えたくなる。
 けれど、今日は絶対にアナベルを口説くと決めたため、引き下がる事など出来ない。
 オズワルドは一旦前を向き、大きく息を吸って吐いたあとに、ゆっくりとアナベルに向き直って首を横に振った。

「すまないが、それは出来ない。今回はダブルデートだという事を忘れたのか?」
「え?い、いえ…忘れてはない、ですけど…」
「ふむ。まぁ、まだアナベルがロザリア嬢と仲良くしているのは、許容できる。けれど、今日は俺とのデートだという事を忘れて欲しくない。そして、たまにはこうやって二人きりの空間を作って、沢山話をしたい。…本当は、アナベルに触れたい気持ちもあるが、それはエスコートだけに留めておくから。な、いいだろう?」

 オズワルドの懇願するような甘い声と言葉に、アナベルの顔が段々と赤く染まって目が潤み始める。
『きっと意識してくれているんだろうな』と思った、オズワルドはさらに嬉しくなってアナベルに近づき、手で隠しながら彼女の耳元でこう囁いた。

「…アナベル、顔が赤いぞ?もしかして、俺がアナベルに触れている所を想像したのか?」
「ひえっ!?」
「ふっ、ふははっ!冗談だ、アナベル。でも、話すだけだったら、今この場でも出来るだろ?それ以上の事はしないから、次の目的地に着くまで、一緒に俺と話してくれ。…あぁ、そうだ。じゃあ今から騎士団の話でもしておくか?」
「騎士団!?い、いいのですか!?ぜひお聞かせ下さい、オズワルド様!」
「おう、任せろ。実は一昨日俺の部下が…」

 意気揚々と騎士団の世間話をするオズワルドに、アナベルは前のめりになって頷き、驚き、そして笑う。
 その姿がとても愛しくて、次の目的地に着くまで、オズワルドは途切れる事なく話し続けたのであった。
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