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その後のお話

一夫多妻の心得 その1

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『ミーちゃん、元気してる?


この間手紙でも書いたレーンの移住申請ね、通ったんだ! もうね、嬉しくって嬉しくって。姫様の傍に居られるだけで幸せなのに移住まで!!


みーちゃんが良ければこっちに越してくれると嬉しいです。


話は通しておくから新居の鍵を第一部隊の詰所まで取りに来てね。


リミオ』






「……申請、通ったんだ」



毎週届く愛する夫からの手紙には私以外の女の話ばかりが多くか書かれている。


夫が『黒の姫』の為に家を空けてどれくらいたったのかしらと考えてため息がでる。

5年。軽く5年は経っていた。間に何度か帰ってきてはいたけれど、夫はその殆どをレーン騎士団の宿舎で過ごしていた。

このまま別居婚が続くのかと思っていたから嬉しいけど……


「はァァ~、あんまり嬉しくないわぁ……」



夫のりーくんは私と番う前から本命の女がいた。りーくんは転移者の三世、私も転移者の二世。どちらも一夫多妻の異世界の種族の子孫。だから夫に番が何人いても不思議じゃないし、勿論分かっていて番ったのだから文句は言わない。

だから彼がその女の傍に上がるチャンスなんだと息巻いて王都に向かった時も笑顔で送り出した。

黒の姫の傍に上がるなんて無理に決まってる。そう思っていたのに、暫く連絡が無いと思ったら「これからずっとお傍にいられることになった」な~んて嬉しそうな手紙が届いた時はビリビリに破いてやった。


一夫多妻夫婦の関係を上手く保つには夫の女性関係に口を出さない事。りーくんは元々誰かに指図されるのが嫌い。父親も祖父も奥さんを複数持っているから番に関しては特に。

だから

私の方が先に番ったのにって思うこともあったけど、りーくんが彼女を見初めたのは私と番うそれよりずっと前、まだ幼いときだもの。彼女の元に五年いたって、りーくんがクネクネしながらあの女の話をするのを見たら仕方ないって気にもなる。


けど、よりによってレーン。

ただ一人としか番わない幻獣人の中に一夫多妻の私たちが住む。しかも私たちのハーレムのトップに立つのは幻獣人の大切な黒の姫。

まるで敵陣に乗り込む気分ね。

嫌だわ。りーくんとの仲を見せつけられちゃうのかしら。


「……ハァ」


可愛い可愛いりーくん。ふわっふわの綿毛みたいな髪に触るのは私だけじゃないのね。

でもいいの。私は正式にりーくんと籍を入れている言わば本妻。いくら一夫多妻と言ってもこの世界じゃ獣人が婚姻出来るのは一人だけ。それ以外の籍を入れられない女は妾となる。でも黒の姫は既に自分のハーレムを築いていて夫がいる身。つまり妻として数えられる妾ではなく遊び相手の愛人と言う事になる。


つまり私より下。


りーくんを虜にした女。



こちらから出向いて私の方が上だと教えてやらないと!!










「こ、ここがりーくんのいる王宮。無駄に広い」



かったるそうに書類を確認した門番は可愛い私の事を対して見ることも無く「入って右奥の扉、道なりに行って突き当たりを右で手続きを」とだけ言って放置した。

こう言った場合は親切に案内とか付けてくれないわけ!? って思ったけど言えなかった。

もしかして獣人だってバレたのかしら? 私の種族はもちろん獣人だけど、この世界の獣人とは少し見た目が違う。転移者村に住んでいた時は平気でも、外に出れば違う。異端の姿に奇異の目で見られるのだ。だから私は特殊な魔法薬を飲んで獣性を隠し人間と変わらない見た目をしている。柔らかな亜麻色の髪の品の良いお嬢様、になっている筈。

この姿になると視覚嗅覚聴覚味覚、全て人間並に落ちてしまうのが難点だけど。




「ていうか、広すぎよォ」


突き当たりを右って、その突き当りまでが長いし!

遠目から見たらレーンの王城は結構地味。派手な装飾もないしなんて言うかちょっとした貴族の邸宅みたいな? 国のシンボルって感じの主張があまりない控え目な感じ。

と、思ってたのに無駄に広すぎ! 最初の扉までどんだけ歩くのってくらいあっけど、扉をくぐったら突き当たりまでが長い! 道なりにって言われてから結構な数の扉を通り過ぎてるし……


あ、もしかしてさっきの扉を入る? いやでも道なりにって言われたし。大きな分かれ道はなかった気が……


「え、迷子? とりあえず一旦戻ってもう一度聞かないと」


と、思い急ぎ足で戻ると、途中に道が出来ていた。ちょっとくねっとした通路にある扉が開いていて、その先に来た時は気が付かなかったが通路がある。

ここを通った誰かが閉め忘れたの? もし誰かが通ったならまだ居るかもしれない。戻って聞くより早い。そう思い覗き込むと、今まで自分が歩いていた場所と違い入り組んでいて更にいくつもの扉がある。どこからが人の声がし、キョロキョロと見渡しているとあっという間に迷った。


もう。なんでここに入った私っ!

盛大に後悔しながらも、状況は既に悪くこれ以上はないだろうとさっさと切り替えて人を探す。


こんなに誰もいないなんてあるの? ちょっと警備緩すぎじゃない??


なんてことを思っていた時、何処からか話し声が聞こえた。





『──から──ですか』


聞き覚えのある声、この声は。


『そう、もっと──を、感じて』

『はい、──あ、待って、今……あっ』


夫であるりーくんの声……

なんともいかがわしいことをしているだろう男女の声。つい扉に耳を付け聞き入る。



『いいぞ。どうだ?感じるか?』

『あ、ああ。はいっ、感じます!』



まさか三人目の女?

人間の姿になっているからよく聞こえないけれど、これは押し入った方がいいの?


「……」


いえ駄目、駄目よ。夫の女性関係には口出ししない。一夫多妻の暗黙のルール。


『あっ、感じますっ、アリエーラさんを感じますぅっ』

『この感覚を忘れるな』

『はいっ、こんなの初めてで、凄く興奮しちゃいます』



中ではどんなに凄いプレイが!?


ワナワナと震える腕を握りしめ、そっと気が付かれないように後ろへ下がる。


アリエーラって、確かりーくんが言ってた凄腕の女魔法剣士……

黒の姫の番犬。確か獣人の番が二人をいる。ここにもハーレム女が。しかもその女とりーくんが……

いえ、大丈夫。黒の姫と同じよ! 他に男がいるならただの愛人。

つまりは本妻の私より下!!



「……くっ」


今は邪魔すべきじゃないわ! りーくんには会いたいけど後にした方が良さそうねっ!








*****





「アリエーラさん?」


「……いや(今外にいたのは誰だ? 知らない気配だったな)」


「ありがとうございました! アリエーラさんのおかげで僕もひとつ学びました!」


「ああ。今の魔力を感じるか感じないかのギリギリ、リミオなら見える手前の状態だ。体の表面の産毛に触るか触らないかの極小さい魔力操作を常に肌で感じるんだ。常にできるようになったらまた極微量を増やし、細やかな魔力操作を。リミオならすぐだろう」


「これを常に……やっぱアリエーラさんの言った通り全部の感覚を遮断したら分かりました。やっぱ高度魔術の習得は簡単じゃないです。魔眼持ちじゃないアリエーラさんが凄いのは努力あってこそなんですね」


「では私は凛子様の元へ戻る」


「はい! また教えてください!!」


「……」


「どうしました?」


「いや(最近上手く魔力が練れないが今は平気だった。言わない方がいいか)」


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