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山岳地帯べロームの温泉で。
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は~、さみぃなぁ」
「確かに冷えますねぇ」
例の如く俺とリミオは黒姫がこれから行く予定のべロームの山岳地帯の下見だ。
ここはサルターンとレーンの国境線にもなっていて、途中から目には見えない結界の壁がある。
んでもって、この岩山を抜ければ特定のものしか立ち入ることが出来ないとされるジャロング山。
「なぁ、ここ姫さんにゃ寒すぎないか?」
「僕も思いました。べロームに入ってから一気に気候が変わりましたね。獣人の僕達でも寒いんですから姫様じゃあ凍ってしまいますよ」
「ホントに登るのか?」
「みたいですね。目的はべローム温泉でしょうね。卵茹でたいって言ってましたし。あとどれ位でしょう?」
「俺たちの足ならそんなにかからないな。小一時間ってところか」
「なら姫様の足では四、五時間ってところですか」
「まあ、俺たちが粗方魔物を狩っちまえば危険は減るがまたすぐに湧いてくるぞ?」
今回俺たちは他の幻獣人騎士三人とルートの確認と魔獣退治をして回ってるが、そもそも魔獣は湧くもんだ。倒しても倒してもどっからか湧いてくる。『登山を楽しむ』ってのは山に慣れた冒険者がするもんで普通の人間の女はしない。
途中べローム温泉でキャンプを張って一泊するが、その一晩で囲まれるって事も有り得る。
「大丈夫ですよぉ。今回はカイル様とアレクシス様がご同行されますし、アリエーラさんも居るんですから」
「分かってるが」
「わぁ、日の出ですよグレンさん。姫様達の出発時間ですね」
こんな魔物だらけの山に登り温泉だなんて全くその良さは分からないが、アリエーラの手間を少しでも減らすために魔物退治に勤しんた。
「グレンさん! リミオくん! 」
昼を少し過ぎた頃、息を荒くしたっぷりと汗をかきながら楽しそうに黒姫が目的のべローム温泉にたどり着いた。ハアハアと息を上げて楽しそうに手を大きく振る。
日の出で出て昼過ぎ、あまりの歩みの遅さにびっくりだが、同じ人間でもその隣にいるカイルは汗ひとつかいてねぇ。
昨日リミオの事で大いに盛り上がった黒姫はケラケラ笑いながらグレンさんと硬い。もっと崩してといってきだが、カイルとジンのチラリ視線が怖かった。俺には名前呼びは無理そうだ。
こっからは護衛が入れ替わる。先に着いた俺らが周辺警護につき、のんびり登山に同行した騎士らは暫し休憩だ。
滞在用に張ったテントに姫さん突っ込んでアリエーラが着替えさせる。その間にカイルは報告を聞き指示を出しと姫さんから離れた。
同行してるはずのアレクシス王が居ないのが気になったが泉の反対側に気配がある。あの辺は温泉の湧く源泉だ、多分卵でも入れに行ったんだろ。
でっかい荷物を背負ったルーイが少し遅れて到着し、あまりの荷物の多さに駆け寄り手伝った。
「このデカイの一人で背負ってきたのか」
「あぁ、別に嫌がらせで持ってるわけでも遅れたわけでもないですよ? 大切な物ですから一人で持って、凛子様の目に入れば気に病むかも知れませんから後から来ただけですからね?」
ルーイは姫さんのテントの隣にある少し小さなテントに入ると荷物を置きテントに簡易の結界を貼り細い紐を持ち「行ってきます」と場を離れた。
紐持って何処に行くのかとも思ったが、すぐに隣の姫さんのテントが賑やかになり俺の気は逸れた。
「ね? いこ? アリエーラ」
中からは姫さんがアリエーラを誘う声がする。
テントの脇で警護する幻獣人に話を聞けば、汗をかいたので温泉に入りたいといいだしたと言う。
「いやいや、さっきまで足ガクガクだったのにもう温泉か? 元気だな」
結局押し負けたアリエーラはご機嫌な姫さん連れて出て来たがどうも様子がおかしい。何だか少しばっかり困ったような顔をしてる。
番入浴について行くんだ。美味しいだろ。
「あ、グレンさん。これからアリエーラと温泉に行ってきます!」
「そうですか。お気を付けて」
やけに楽しそうでついそう言っちまった。幻獣人の護衛騎士に睨まれたが、もしかして都合が悪かったのか?
いや、温泉入りたかったんだろ?魔物の脅威はない。なら少しくらいいいんじゃないか?
しかし姫さんとアリエーラが一緒にいるのになんでだ? 不思議と嫉妬とかイラつきが起こらないのは。
もしかして姫さんがアリエーラをそういう目で全く見てないからか?それとも同性だからか。
「グレン、凛子様と温泉に入るのはアレクシス様が先と決まっているのだぞ。まさか知っていてアリエーラを行かせたか!」
「マジか」
「ああ、大真面目だ! アレクシス様が凛子様の為に場を離れていた隙にこんな抜け駆けを、カイル殿でさえ遠慮したと言うのに!」
「いや、知らなかった」
「あれほど楽しみにしていらしたのに、何たる事か」
幻獣人騎士は悔しそうに俺を睨むがちょっと待て。
いや悪かったけどな? これは俺のせいじゃないだろ? なら止めりゃ良かったんじゃないか? って気持ちになる。
言わないけどな。
その後すぐに戻って来たアレクシス王とルーイ。アレクシス王はカゴいっぱいに湯気の立つ卵を抱え、ルーイは仕留めた鶏を持っていた。
アレクシス王はしゅんと肩を落とし、それを見たルーイも同じように肩を落とす。
何だか何もしてないのに罪悪感が……
結局姫さんはアリエーラに結界を張ってもらいのんびりと温泉に浸かってたが、上がってから気がついた。
アリエーラの解けた髪、上気した肌、少しだけ潤んだ瞳。
え、まさか一緒に入ったのか?ついていただけじゃなくて??
いや、ダメだろう。ダメだ。いくら姫さんがアリエーラをそう見てなくてもアリエーラはそう見てるんだからな!
俺、何で止めなかったぁ!!
「確かに冷えますねぇ」
例の如く俺とリミオは黒姫がこれから行く予定のべロームの山岳地帯の下見だ。
ここはサルターンとレーンの国境線にもなっていて、途中から目には見えない結界の壁がある。
んでもって、この岩山を抜ければ特定のものしか立ち入ることが出来ないとされるジャロング山。
「なぁ、ここ姫さんにゃ寒すぎないか?」
「僕も思いました。べロームに入ってから一気に気候が変わりましたね。獣人の僕達でも寒いんですから姫様じゃあ凍ってしまいますよ」
「ホントに登るのか?」
「みたいですね。目的はべローム温泉でしょうね。卵茹でたいって言ってましたし。あとどれ位でしょう?」
「俺たちの足ならそんなにかからないな。小一時間ってところか」
「なら姫様の足では四、五時間ってところですか」
「まあ、俺たちが粗方魔物を狩っちまえば危険は減るがまたすぐに湧いてくるぞ?」
今回俺たちは他の幻獣人騎士三人とルートの確認と魔獣退治をして回ってるが、そもそも魔獣は湧くもんだ。倒しても倒してもどっからか湧いてくる。『登山を楽しむ』ってのは山に慣れた冒険者がするもんで普通の人間の女はしない。
途中べローム温泉でキャンプを張って一泊するが、その一晩で囲まれるって事も有り得る。
「大丈夫ですよぉ。今回はカイル様とアレクシス様がご同行されますし、アリエーラさんも居るんですから」
「分かってるが」
「わぁ、日の出ですよグレンさん。姫様達の出発時間ですね」
こんな魔物だらけの山に登り温泉だなんて全くその良さは分からないが、アリエーラの手間を少しでも減らすために魔物退治に勤しんた。
「グレンさん! リミオくん! 」
昼を少し過ぎた頃、息を荒くしたっぷりと汗をかきながら楽しそうに黒姫が目的のべローム温泉にたどり着いた。ハアハアと息を上げて楽しそうに手を大きく振る。
日の出で出て昼過ぎ、あまりの歩みの遅さにびっくりだが、同じ人間でもその隣にいるカイルは汗ひとつかいてねぇ。
昨日リミオの事で大いに盛り上がった黒姫はケラケラ笑いながらグレンさんと硬い。もっと崩してといってきだが、カイルとジンのチラリ視線が怖かった。俺には名前呼びは無理そうだ。
こっからは護衛が入れ替わる。先に着いた俺らが周辺警護につき、のんびり登山に同行した騎士らは暫し休憩だ。
滞在用に張ったテントに姫さん突っ込んでアリエーラが着替えさせる。その間にカイルは報告を聞き指示を出しと姫さんから離れた。
同行してるはずのアレクシス王が居ないのが気になったが泉の反対側に気配がある。あの辺は温泉の湧く源泉だ、多分卵でも入れに行ったんだろ。
でっかい荷物を背負ったルーイが少し遅れて到着し、あまりの荷物の多さに駆け寄り手伝った。
「このデカイの一人で背負ってきたのか」
「あぁ、別に嫌がらせで持ってるわけでも遅れたわけでもないですよ? 大切な物ですから一人で持って、凛子様の目に入れば気に病むかも知れませんから後から来ただけですからね?」
ルーイは姫さんのテントの隣にある少し小さなテントに入ると荷物を置きテントに簡易の結界を貼り細い紐を持ち「行ってきます」と場を離れた。
紐持って何処に行くのかとも思ったが、すぐに隣の姫さんのテントが賑やかになり俺の気は逸れた。
「ね? いこ? アリエーラ」
中からは姫さんがアリエーラを誘う声がする。
テントの脇で警護する幻獣人に話を聞けば、汗をかいたので温泉に入りたいといいだしたと言う。
「いやいや、さっきまで足ガクガクだったのにもう温泉か? 元気だな」
結局押し負けたアリエーラはご機嫌な姫さん連れて出て来たがどうも様子がおかしい。何だか少しばっかり困ったような顔をしてる。
番入浴について行くんだ。美味しいだろ。
「あ、グレンさん。これからアリエーラと温泉に行ってきます!」
「そうですか。お気を付けて」
やけに楽しそうでついそう言っちまった。幻獣人の護衛騎士に睨まれたが、もしかして都合が悪かったのか?
いや、温泉入りたかったんだろ?魔物の脅威はない。なら少しくらいいいんじゃないか?
しかし姫さんとアリエーラが一緒にいるのになんでだ? 不思議と嫉妬とかイラつきが起こらないのは。
もしかして姫さんがアリエーラをそういう目で全く見てないからか?それとも同性だからか。
「グレン、凛子様と温泉に入るのはアレクシス様が先と決まっているのだぞ。まさか知っていてアリエーラを行かせたか!」
「マジか」
「ああ、大真面目だ! アレクシス様が凛子様の為に場を離れていた隙にこんな抜け駆けを、カイル殿でさえ遠慮したと言うのに!」
「いや、知らなかった」
「あれほど楽しみにしていらしたのに、何たる事か」
幻獣人騎士は悔しそうに俺を睨むがちょっと待て。
いや悪かったけどな? これは俺のせいじゃないだろ? なら止めりゃ良かったんじゃないか? って気持ちになる。
言わないけどな。
その後すぐに戻って来たアレクシス王とルーイ。アレクシス王はカゴいっぱいに湯気の立つ卵を抱え、ルーイは仕留めた鶏を持っていた。
アレクシス王はしゅんと肩を落とし、それを見たルーイも同じように肩を落とす。
何だか何もしてないのに罪悪感が……
結局姫さんはアリエーラに結界を張ってもらいのんびりと温泉に浸かってたが、上がってから気がついた。
アリエーラの解けた髪、上気した肌、少しだけ潤んだ瞳。
え、まさか一緒に入ったのか?ついていただけじゃなくて??
いや、ダメだろう。ダメだ。いくら姫さんがアリエーラをそう見てなくてもアリエーラはそう見てるんだからな!
俺、何で止めなかったぁ!!
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