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「さあレイ、口を開けて」
「いえ、あの、自分で、食べるから」
レニアスの訪れから2日が経った。
あの後時間と共に私の腕は膨れ上がり、痛みとそれに伴う熱に襲われ、結局お医者様のお助けを借りることになった。
骨折ですねと言われた時は、人間の骨はそんな程度じゃ折れないですよねと返してしまったが、折れてる事実は変わらなかった。もしかすると長年の不摂生で、少し骨が弱くなっていたのかもしれないと少しだけ反省した。
ラニーが来た事で大人しくなったレニアスは、エリーさんから借りているもうひとつの家、ラニーの部下が一晩泊まっていた家で、迎えが来るまでの間その部下とラニーによる監視下の元過ごしたが、先程昼前に、きっと連絡を受けすぐに手配してくださったのだろう義父様の部下の方が迎えに来て連れていった。
ラニーは私がレニアスと顔を合わせないようにと気遣ってくれ、彼が町を去る時、立ち会わせては貰えなかった。
レニアスとは拗れてしまったけれど、私の意思がもっと強ければ、こんな関係ではなく違う関係を築く事ができたのか。ほんの少しだけ考えてしまった。
それから数日は村でのんびり過ごし、いよいよティンバーを去る日がやってきた。
近所のみんなが私のためにわざわざ駅まで見送りに来てくれた。もうまもなく列車がやってくる頃だ。
「今までありがとうございました。とても良くしていただき、本当に」
いつかは別れることになっていると分かっていたけれども、いざその時になってみると胸にこみ上げるものがある。
人と熱くなる目頭に1度、長い瞬きをして、目の前にいるエリーさんに目を向ける。
「あなたが来てくれて楽しかったわ。娘がいたらこんな感じなのかしらって」
「また、来てもいいですか?」
「ええ、もちろん。いつでも待っているわ」
ぎゅっと手を握り、自然と抱きしめあった。背中を優しく撫でる、エリーさんの腕が温かくて我慢していた涙がぽろりと零れ落ちた。
離れたところで汽笛の音が聞こえ、慌てて涙を拭いてハンスさん一家や駆けつけてくれたご近所さんとも挨拶をしていった。
しばらく滞在することを決めたブルック教授は見送る側にいる。
私がここに来る直前に、足の具合が良くないエリーさんが町役場を退職してしまったことを聞いたからだ。以前教授から「町役場に勤めている、エリー・ブルック」と聞いたはずなのに、自分のことでいっぱいだった私は、聞いていたはずのその言葉がすっかりと頭から抜けていた。
「教授、エリーさんをよろしくお願いします。また、きっとすぐに来ますから」
「あらレイちゃん私は大丈夫よ。周りにはたくさん人がいるもの。ヨハンだってすぐにそっちに帰すわ。何かあればハンスを頼れるし、ヘイリーくんだっている。配達員のサデロ、交換台のヤマ、あと事務員のジャナールも。こう見えて結構モテるのよ」
軽くウインクをしておどけてみせる、エリーさんにフフッと笑いが溢れた。
そうこうしているうちに汽車が入構し、ラニーに促され、車内へと足を進める。
小さなほぼ無人の駅であるティンバーの駅は停車時間がとても短い。座席の窓から身を乗り出した私に対してか、車掌室から覗き込んだ運転士が短く二度汽笛を鳴らした。
「また来ます。きっと、すぐに」
エリーさんや教授、、ハンスさんにその息子さん夫婦のロディさんジョアンナさん、ヘイリーさんやご近所の皆さん。お世話になった方々が笑顔で手を振り送り出してくれ、私も見えなくなるまで笑顔で手を振った。
短いようで長く、とても充実したティンバーでの生活はこうして終わった。
「レイ、後悔してるか?」
「……いいえ。してないわ」
過程はどうあれ、あの場所で私はとても充実た時間を過ごした、もし母が生きていたらあんな感じだったのかと思うほどに穏やかで暖かかった。
「……ねえラニー、お願いがあるんだけれど」
全て思い出してから、帰ることを決めてからずっと考えていたことがある。
自分が何をしたいのか、どう生きていきたいのか。
「いえ、あの、自分で、食べるから」
レニアスの訪れから2日が経った。
あの後時間と共に私の腕は膨れ上がり、痛みとそれに伴う熱に襲われ、結局お医者様のお助けを借りることになった。
骨折ですねと言われた時は、人間の骨はそんな程度じゃ折れないですよねと返してしまったが、折れてる事実は変わらなかった。もしかすると長年の不摂生で、少し骨が弱くなっていたのかもしれないと少しだけ反省した。
ラニーが来た事で大人しくなったレニアスは、エリーさんから借りているもうひとつの家、ラニーの部下が一晩泊まっていた家で、迎えが来るまでの間その部下とラニーによる監視下の元過ごしたが、先程昼前に、きっと連絡を受けすぐに手配してくださったのだろう義父様の部下の方が迎えに来て連れていった。
ラニーは私がレニアスと顔を合わせないようにと気遣ってくれ、彼が町を去る時、立ち会わせては貰えなかった。
レニアスとは拗れてしまったけれど、私の意思がもっと強ければ、こんな関係ではなく違う関係を築く事ができたのか。ほんの少しだけ考えてしまった。
それから数日は村でのんびり過ごし、いよいよティンバーを去る日がやってきた。
近所のみんなが私のためにわざわざ駅まで見送りに来てくれた。もうまもなく列車がやってくる頃だ。
「今までありがとうございました。とても良くしていただき、本当に」
いつかは別れることになっていると分かっていたけれども、いざその時になってみると胸にこみ上げるものがある。
人と熱くなる目頭に1度、長い瞬きをして、目の前にいるエリーさんに目を向ける。
「あなたが来てくれて楽しかったわ。娘がいたらこんな感じなのかしらって」
「また、来てもいいですか?」
「ええ、もちろん。いつでも待っているわ」
ぎゅっと手を握り、自然と抱きしめあった。背中を優しく撫でる、エリーさんの腕が温かくて我慢していた涙がぽろりと零れ落ちた。
離れたところで汽笛の音が聞こえ、慌てて涙を拭いてハンスさん一家や駆けつけてくれたご近所さんとも挨拶をしていった。
しばらく滞在することを決めたブルック教授は見送る側にいる。
私がここに来る直前に、足の具合が良くないエリーさんが町役場を退職してしまったことを聞いたからだ。以前教授から「町役場に勤めている、エリー・ブルック」と聞いたはずなのに、自分のことでいっぱいだった私は、聞いていたはずのその言葉がすっかりと頭から抜けていた。
「教授、エリーさんをよろしくお願いします。また、きっとすぐに来ますから」
「あらレイちゃん私は大丈夫よ。周りにはたくさん人がいるもの。ヨハンだってすぐにそっちに帰すわ。何かあればハンスを頼れるし、ヘイリーくんだっている。配達員のサデロ、交換台のヤマ、あと事務員のジャナールも。こう見えて結構モテるのよ」
軽くウインクをしておどけてみせる、エリーさんにフフッと笑いが溢れた。
そうこうしているうちに汽車が入構し、ラニーに促され、車内へと足を進める。
小さなほぼ無人の駅であるティンバーの駅は停車時間がとても短い。座席の窓から身を乗り出した私に対してか、車掌室から覗き込んだ運転士が短く二度汽笛を鳴らした。
「また来ます。きっと、すぐに」
エリーさんや教授、、ハンスさんにその息子さん夫婦のロディさんジョアンナさん、ヘイリーさんやご近所の皆さん。お世話になった方々が笑顔で手を振り送り出してくれ、私も見えなくなるまで笑顔で手を振った。
短いようで長く、とても充実したティンバーでの生活はこうして終わった。
「レイ、後悔してるか?」
「……いいえ。してないわ」
過程はどうあれ、あの場所で私はとても充実た時間を過ごした、もし母が生きていたらあんな感じだったのかと思うほどに穏やかで暖かかった。
「……ねえラニー、お願いがあるんだけれど」
全て思い出してから、帰ることを決めてからずっと考えていたことがある。
自分が何をしたいのか、どう生きていきたいのか。
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