Rain

ゆか

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昨日のレイとの話で、嬉しさのあまり寝付けなかった私は、同じようになかなか寝付けなかったレイが眠りについた後にほんの少しだけ眠った。

気が高ぶっているのか、眠りは浅く、日の出よりも前に目が覚めた。

隣で眠っているレイを起こさないようにそっとベッドから降り身支度を整える。

まだ起きないであろうレイの額にそっとキスをし、家を出る。もちろん鍵をかけるのは忘れずに。

農家の朝は早い。

遠くに見える隣人宅まではそれなりの距離があるが、すぐ隣のミセスブルック宅以外の民家では一番近い場所にある。日が登り始めたばかりで申し訳ないとも思うが、もう既に全員が起床し、畑の確認や家畜の世話、朝食の支度に勤しんでいる頃だろう。

隣人宅の勝手口の頭を叩く。この時間いつもなら夫人かハンスが顔を出すのだが、今日はヘイリーが顔を出した。


「……おはようございます」

「朝早い時間にすまない、ハンス殿はご在宅だろうか」

「ちょっと待ってください……爺ちゃん、アンダーソンさん来てる」


あの日、顔を合わせてから、ヘイリーとはあまり話したことはない。

避けられているのだろう。レイの話では頻繁に顔を出していると聞くが、私がいる時に顔を合わせる事はあまりない。

「おはようございます、アンダーソンさん」

ハンスが来ると、ヘイリーは軽く会釈をしすぐに室内へ戻って行った。

「おはようございます。ハンスさん」

「役場へご用事ですか?」

「はい、もし今日もあちらへ行かれるのなら同行させて頂けないかと、お願いに来ました」

「雨の日以外は行きますから大丈夫ですよ」

「いつも申し訳ない」

「構いませんよ、では後ほど伺います」


ハンスはほぼ毎日のように役場へ通っている。町の中心部から離れたこの辺りは、手紙や新聞が届くのにも時間がかかるため、取りに行く方が早いのだという。この辺りに電話を引いているところはなく一番近いのが町役場、今までも何度かハウスについて、役場まで行き電話を借りている。

都市部とは違う不便さに、唸ることもあったが、皆気がいい者ばかりで、不便だが何とかなる事も多い。

農畜産が主流のこの街では、進む過疎化に発展も遅れているのだ。


レイの元に戻る前にブルック夫人の自宅を尋ねる。早朝の訪問に驚く夫人に非礼を詫び、これから始まろうとしていた朝食の支度を申し出た。

ここに住んで数ヶ月、夫人は私たち2人のことに口は出さない、が、可能な限り毎日の朝食は共に取っている。おそらく生存確認のようなものだろうとは思うが、私が不在の時はそれ以外の食事も共にしている。


ここで暮らすまで、料理など自分でしたことはなかった、少しずつ覚え、今ではそれなりに作れるようになったと思う。

バターを使ったオムレツを皿に乗せると、夫人がサッと生野菜とマッシュポテトを盛り付けてくれた。パンとチーズを添えてワンプレートの朝食の出来上がりだ。3人分支度を終えた所で、夫人に昨日、レイと話し合ったことを話した。

「少し前からレイちゃんに聞いていたの。勿論、あの子がそうしたいならいいと言ったのよ? あの子が来て、酷く塞ぎ込んでいたし、とても後ろ向きで心配だったけど、疲れすぎていたのね。レイちゃんは根は優しくて明るい子なの。真面目で働き者で、たくさん助けてもらったの。とても助かったし、楽しかったわ。私には息子しか居ないから娘ができたみたいで嬉しかったわ。そんな子が、前を向こうとしているのだもの。反対なんてしないわ。少し寂しいけれども、いつだって戻ってきていいの、できれば年に2回ぐらいは里帰りしてくれると嬉しいのだけど」

「ミセスブルック、妻を助けて下さり、支えてくれ、ありがとうございました。妻はあなたをとても慕っています。どうかこれからも交流を持っていただけないでしょうか」

「あらあらまあ。ふふふ、嬉しいわ。私こそ是非。あのお家はそのままにしておくから、何時でもいらして?」

「ありがとうございます」

「さぁさぁ、レイちゃんを起こしてきて下さいな。せっかくの手料理が冷たくなってしまうわ」


ブルック夫人に送り出され、レイを起こしにゆく。いつもの朝食の時間、朝食の手伝いに間に合わず、寝過ごしたと慌てて髪を梳かすレイが、起こさなかったことに頬を膨らませていた。

今日は私が手伝ったと言えば少し驚きありがとうと言った。


3人での朝食を終えた頃、ハンスが迎えに来たので夫人の元にレイを残し街へ向かった。













「いつものようにお昼前には戻ってこれるかしらねぇ」

「いつも通りならそうでしょうか」


婦人会のバザーに出すパッチワークをそれぞれで作る。裁縫はあんまり得意ではないけれども、教えてもらいながら、少しずつ進めている。


「いつ頃戻るか決まっているの?」

「いえ、ラニーの都合もあるので、向こうと連絡を取って決めると言っていました……あの、また来てもいいですか」

「当たり前じゃないの。第二の故郷だと思ってくれると嬉しいわ」

「……ありがとうございます」


嬉しさに涙が滲む。このパッチワークはここを去るまでに完成させなければと、心を引き締めながら針を進めた。






どんどんどん!





それは思わぬ人の訪れだった。


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