Rain

ゆか

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「掛けなさい」


そい言われてラニーと目の前のソファに腰を下ろした。

目の前には厳しい面持ちの男性はゲイル・アンダーソン、ラニーのお父様だ。


「なかなか時間が取れなくて挨拶もしていなかった。すまなかったね」

「……は、い。私こそ、申し訳ありません。こちらから、伺うべきでしたのに」


言葉とは裏腹にその表情は厳しい。会ったことがない方なのでこれが元からのものかは解らないけれど、正直、嫌われているのだろうと思える。緊張のためか、震える声で話す私をお義父さまはじっと見つめる。


「私が屋敷から出さなかったんだ。レイは悪くない」


ラニーがお義父さまに対して少し強い口調で話し、私の手を握った。それを見てか、お義父さまはほんの僅かに眉を上げた。


「何も取って食おうというわけではない、結婚にも反対しなかっただろう」

「……」


ほんの僅かに視線をらラニー向ける。その表情は硬く、彼もまた緊張しているようだった。


「私は息子達がどんな女性を連れてこようと、余程のことがない限り反対する気はない。それに君の事情は知っている、申し訳ないがあらかた調べさせてもらったよ」


それはつまり、私は大丈夫だったということでいいのだろうか、それとも調べた結果、その余程のことがあったからだろうか。

記憶は戻ってきた。けれど全てではなく1部はとても曖昧だ。だから私がその余程のことをしでかしていても、何ら不思議ではないのかもしれない。


「良い女性を妻に迎えたと思っているよ、とても素晴らしい。おかげで私も今まで気付けなかったことに気づくことができた」


ニィっと口の端を持ち上げたお義父さまが、一体何のことを話しているのかは分からない。ただ、私の手を握っているラニーの手は、ピクリと反応し、その力を強めた。



私の知らない何かがあるのだろうか。



「私は君を歓迎するよレイニー」


そういったお義父さまは、手を伸ばし握手を求めた。


なぜ握手を、そう思いながらもその手を取り、ありがとうございますと礼を述べた。



その後、食事をと誘いを受けたがラニーはそれを断った。それによって不興を買ってしまうかとも思ったが、お義父さまは何か面白いものでも見るかのように、ラニーを眺め帰宅を許した。





「今日は父に会ってくれてありがとう」

「私もお会いしたいと思っていましたから」




帰りの車の中でらラニーどこか、考え事をしているようだった。いつもならもっと会話が広がるのに、途切れてしまう。


「きっといいお父様なのでしょうね」

「……どうかな」

「お相手を自由に選んでもいいということは、信頼してくれているということでしょう」



資産も地位もある家庭で自由に相手を選んでいいということは、そうあることではない。通常は、その立場に見合った相手を選ぶことを求められるのだから。



「信頼、どうだろう。ある程度自由は許してくれるけれども、それに見合った責任は求められる。父の中の線を越えなければ罰せられることはなかったが」


ラニーはお義父さまを好きでは無いのか、どこかトゲを感じる気がした。


「……」


黙ってしまったラニーに、少し疲れたと凭れてまぶたを閉じると、ラニーはそっと肩を抱いて髪にキスをくれた。





ラニーには腹違いの弟がいる。だけど、私たちはその話には触れることがない。彼について私がどこまで思い出したかも、伝えていない。ラニーも聞こうとはしないし、私も自分から話そうとも思っていない。


お義父さまの言葉がふっと蘇る。

とても素晴らしい? なにが素晴らしいの?










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