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・ダンジョンへ

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 今日は、朝から大雨である。
 昨日の強風が雨雲を連れてきたのかもしれない。
 遠くで、雷の音が響いている。

 この大雨のせいか、アダリヤもうさぎも、朝食にあらわれなかった。

ーーアダリヤ、ちゃんと食べてるかな……。

 セリムも気分が落ち込み、何かを作る気力がなかった。
 残っていたパンチェッタと昨日の残りのポポンタでスーブだけ作って飲んだ。足りなかったのか、ノエルはモリンゴをかじっていた。

「あーあ、天気がよかったらダンジョンに行けたのにー」
 ノエルはつまらなそうにつぶやいた。

 この雨は、ちょうど良かった。
 セリムは、落ち着いて今までのことを考えたかった。
 目を閉じて、今までのことを振り返ろうとした。

 だが、その時、白い毛玉が視界に入った。
 嵐の音に紛れてやってきたようだが、セリムも、さすがに同じ轍を踏むことはない。
 うさぎが飛び上がった瞬間に、頭を低くして、うさぎの襲撃を避けた。

 そのせいで、セリムの奥にいたノエルに、うさぎのキックが命中した。

「ぐぇぇ」
 腹に命中したのか、ノエルはくの字に折れて悶絶した。

「あんた! 何で避けるのよ!」
「むしろ、何で避けないと思うの……」
 うさぎのことは、少し理解できると思っていたが、やはり、理解できないセリムだった。

「セリム……」
「あ、ノエル、大丈夫?」
 腹を抑えたまま、見上げてきたノエルを気遣うも、彼はぐったりと横たわった。
「俺、寝るわ……」

 ノエルは、気まずい雰囲気が本当に苦手である。
 これは、彼なりの配慮で、セリムとうさぎで徹底的にやりあえということである。
 
 セリムはうさぎと真正面から対峙した。

「あんた、昨日、リヤに何したの」

 アダリヤは、昨日のことをうさぎに話したのか?
 セリムはうさぎに詰め寄られるようなことを、アダリヤにしただろうか。
 もしかして、ぼんやりしているうちに、何かしてしまったのだろうか。

「え、何、セリム、リヤちゃんに手を出しちゃったの? だから心ここにあらずなわけ?」
「うるさいわよ、三編み! あんたは黙ってなさい」
 ガバッと起きてきたノエルは、一瞬でうさぎに沈められた。

「あの子、昔のことを、夢で見たって、泣いてんのよ!」
「……」

 あれは、アダリヤから言い出したことで、セリムが言い出したわけではない。
 だが、セリムと話をすることで、いろいろなことを思い出してしまったのだろうか。

「うさぎ、泣いているアダリヤを置いてきたのか」
「そんなわけないじゃないの。強制的に寝かせてきたわ。眷属たちが様子を見てるわよ」

 セリムはホッとした。
 今、この瞬間にも、アダリヤがひとりで泣いているかと思うと、胸が潰れそうだった。

「もう一度聞くけど、あんた、あの子に何したの」
「何って……」

 アダリヤは、うさきが悲しむから島の外の話、父の話はしたくないといった。
 その話を、彼女がいない前で、してもいいものだろうか。

 そこに、セリムの葛藤を見抜いたように、苛立ったうさぎが脅してきた。

「隠し事したら、あんたのためにも、リヤのためにもならないわよ」

 聖獣の凄みというのだろうか、有無を言わさない雰囲気をまとったうさぎに、セリムは重い口を開いた。

「……本土へ父を探しに行きたい、という話だよ」
 うさぎは、ため息を吐いた。

「あんたにその話をするなんて、運命って残酷ね」


 嵐は過ぎ去ったようで、風は止み、雨は上がっていた。
 しかし、いつでも雨を降らせるような雲がどんよりとしている。

 セリムとうさぎの間にはピリピリした空気が漂っていたが、その空気を破ったのは、当のうさぎだった。

「三編み!あんた、あたしの洞穴で、リヤをみてなさい」
 突然、声をかけられたノエルは、ビクッと肩を震わせた。

「コルマールの坊っちゃんは、アダリヤのためを思うなら、あたしについてきなさい」
 うさぎはくるりと後ろを向くと、刺々しい言い方で、セリムについてくるよう言い放った。

「どこへ行くんだ」

 このうさぎのことだ。
 アダリヤに害になると思えば、もしかしたら、人間のひとりふたりは、どうにかしてしまうかもしれない。

 何も聞かずについていくには危険すぎる。
 教えてくれないだろうとは思ったが、聞いてみると、うさぎは、あっさり教えてくれた。


「ダンジョンよ」



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