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・島での生活

オークシロップ

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「えっとね。リヤ、甘い食べ物好き!」
 塩抜きしたキラーボア肉のパンチェッタを刻んでいると、ずっとそばにいたアダリヤが、唐突に宣言した。

 見下ろすと赤い目がキラキラしている。

 夕飯を作っているのに、おやつの話をなぜするのか。

「何の話?」
「セリ、リヤのこと知りたいって言ったから」
「あ、そう……そうなんだね」

 そういえば、学園に通っていた時分、女性が好むのはドレスや宝石に、有名パティスリーのお菓子だと友人が言っていたのを思い出した。

 アダリヤは、世俗と離れているのに、こういうところは、どこにでもいる女の子と変わらないんだな、と安心した。

ーー甘いお菓子を食べたら、アダリヤはどんな顔をするのだろう。

 セリムは、ずっとわからなかった。

 学園に在学中、婚約者が女子部に通っている奴らは、休みに王都の有名パティスリーで菓子を買って、会いに行っていた。

 あんな太るだけの、本人のためにならないものを買ってプレゼントするなんて。自分なら本や文房具など、本人の役に立つものにするのに、と。

ーーこんな気持ちになるんなら、チョコレートでも持ってくればよかった。

 港町では、冒険者向けの保存食として、棒状のチョコレートが売っていた。
 だが、セリムは甘いものが好きではないので、買わなかった。小さい頃から祖父の方針で、あまり甘いものは食べてこなかったのもある。

 買っておいたなら、今すぐカバンから出して、渡せるのに。

 アルフォンスが御用聞きに来るまで、あと5日。
 やって来たら、情報に疎いセリムでも知っている、あのパティスリーの甘いお菓子を買ってきてもらおう。
 思わず笑みがこぼれたセリムであった。


 
「セリはその木が好きなの?」

 今日のセリムは、朝から森の中にいる。

 昨日の夜、眠る前に思いついたのだ。

 メープルシロップはメープルの樹液である。
 ならば、オークにも甘い樹液があるのでは。
 オークシロップである。

 森のあちこちを見て回り、樹液の染み出す木をみつけた。
 幹に耳を当てて、スキル『理解』を発動した。
 スキル『理解』は、手だけではなく、耳でも発動できるのだ。

 そして、豊富な樹液を確認したところに、後ろから声をかけられたのだ。

「いや、別に好きってわけじゃないけど」
「ひっついているから、好きなのかと思った」

 何も知らない人間から見たら、そう見えるらしい。
 しかし、好意を持っている相手に言われると、何だか誤解を解きたくなった。

「これは、樹液があるか確かめてるんだ」
「じゅえき?」
「甘い水があるか確認してるの」

ーー君のためにね……。
 口に出して言えないそんな思いを心のなかでつぶやいていると、セリムの顔を覗き込むようにアダリヤが回り込んできた。

「甘い?甘いって、花の蜜みたいなもの?」
「ああ、それに近いね」
「やっぱり!セリはすごい!」
 セリムは昨日のアダリヤを思い出した。

「もしかして、アダリヤが僕のあとをつけてきたのって、おいしいものが手に入ると思ったから?」
 アダリヤの頭の上に、ギクッという字が見えるような飛び上がり方だった。

ーー僕の気持ちと、アダリヤの気持ちは、同じじゃないよね。
 
「そんなことだろうと思ったけど」
 セリムは、いつも自分ばかり翻弄されているので、ちょっとした仕返しをしてやろうと、大げさにため息をついた。

「それだけではないよ!セリの側は安全だから!なぜか安心するの!」
 セリムは服の袖を引っ張りながら、焦って弁明を繰り返すアダリヤを見下ろした。

 ちょっと意地悪をしてしまったが、思わぬかわいい姿が見れてしまった。

「はいはい」
「本当だって!」
「はいはい」

 セリムとしたら、実はそんなこと、どちらでもいいのだけど。
 
「はい、今から樹液を集めるよ」
 セリムは樹液が染み出してきている部分に手をかざした。

 その染み出している部分から琥珀色の樹液がゆっくりと、浮き上がってきた。
 手を動かして、樹液を鍋に移す様をアダリヤは見つめていた。

 セリムはこの視線に見覚えがあった。

「舐めたらだめだよ」
「ダメか……」


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男性向けHOT、TOP10入りしました!
本当にありがとうございます\(^o^)/
読者の皆様のおかげです!
何か、限定閑話を書きたいと思っておりますので、
頑張ります。
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