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・島での生活

【閑話】聖獣うさぎの願いごと

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男性向けHOT21位ランクイン御礼
アルファポリス限定での閑話になります。
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「リヤ、やけにあいつと仲がいいのね」

 聖獣うさぎは、アダリヤにブラッシングしてもらうために、膝の上で大人しくしていた。
 大人しく胴体は動かないようにしてはいるが、前歯がチャームポイントの口は対象外で、おしゃべりは絶好調である。

「あいつって、セリのこと?」
「他に誰がいるのよ」
 そんな聖獣うさぎは、8年育ててきた、かわいい娘であるアダリヤが、悪い男に騙されないか、ヒヤヒヤする毎日を送っている。

「そりゃあ、リヤ頑張ってるもん」
「頑張ってんの?!あ、ちょっと、そこ、そこいい」
 頑張ってまで仲良くする必要があるのだろうか、とうさぎは思った。
 あのふたりの言葉を信じるなら、ふたりはバケーションでこの島に来たことになる。
 いずれはここからいなくなる人間と仲良くなっても、アダリヤが辛くなるだけである。

 そんなことを考えていたときに、ちょうど痒かったところにくしがあたったので、そこをもっと、と要求した。

「だって、パパたち以来、久しぶりに見た人間だもん」
「……」
 うさぎは痛いところをつかれた。
 うさぎは、聖獣といえど、所詮はうさぎである。人間には、なれない。
 この島に、もう人間はアダリヤしかいない。
 本土に渡ることも本土での当てもないアダリヤは、この8年ずっと、主にうさぎとキラーボアしかいないこの島で暮らしてきた。

 そして、この先もその予定である。


「リヤあんた、あいつのこと好きなの」
「うーん、どうだろ」
 アダリヤは、ブラシを持っていない方の手で、あごを触りながら、そう言った。
 それを上目遣いに、うさぎは、ぐいーんと伸びをした。

ーー相変わらず、何をしていてもアダリヤはかわいい。
 あの男が好意を寄せても、何も不思議ではない。

 しかし、人間と長く接してこなかったアダリヤは情緒があまり育っていない。
 好きか、なんて愚問だったと反省をした。

「やめときなさい。あの男は将来あんたが苦しむことになるわ」
「うーん。じゃあ三編みと仲良くする?」
「……あいつは碌でもないわ」
 今日もノエルは楽しそうに追いかけてきたものの、目が笑っていなかった。
 あれは捕獲者の目だと、うさぎは思い出して身震いした。

「そういえば、今朝、あいつと何の話してたの」
 偶然できたであろう虹を見ながら、アダリヤが真剣な表情をしたのを、うさぎは見逃していなかった。

「うーん、内緒」
 しかし、アダリヤはうさぎにその話をしないことにしたようだ。

 ーー子離れってこんな感じなのかしら。
 それでも、あの男はあれの孫である。託すに値するか疑わしい。

「あんなことさえなかったら、コルマールの孫はいいと思うんだけどねぇ」
 本当は人間同士、仲良くすればいいと思っている。
 コルマール家といえば、王国でもトップに君臨する軍閥の侯爵家だ。
 あの男がアダリヤの後ろ盾になってくれれば、本土でも生きていけるだろう。

 それでも、うさぎは今も疑っている。
 セリム・コルマールが、いつ本性を現すか。
 そのとき、アダリヤが傷つかないようにしなければならない。

「うさぎ、なんか言った?」
「何でもないわ。首の後ろ、もうちょっとお願い」
「うさぎ、人使い荒い~」

 聖獣うさぎはいつだって、アダリヤの幸せを願っている。
 そのためには、悪ものにだってなるつもりだ。
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