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・島での生活

塩を作る(2)

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「セリム」

 アダリヤの天然発言で、意識が過去に飛んでいたセリムは、ノエルの呼びかけで現在に戻ってきた。

「もう、それぐらいでいいんじゃねぇの」
 ノエルの持つ鍋を見ると、無意識に分離させたであろう塩が1センチほど溜まっていた。

「……そうだな」


 セリムは塩の入った鍋を受け取ると、もうひとつの鍋で、塩を集めた鍋に海水を入れ始めた。

 8割くらいまで海水を入れた鍋は、砂浜に用意しておいた焚き火にかけた。

「混ぜちゃうの?」
「そうだよ。こうして濃い海水を作るんだ」
「なんか、もったいないね」
 海水に溶けていく塩を見ながら、アダリヤはしょぼんとした。

「ああ。塩が消えてなくなったみたいに見えるけど、実はちゃんと水の中にあるんだよ」
「そうなの?
 なんだか不安そうなアダリヤであったが、聞こえてくる話し声に、波打ち際近くの砂浜に目を向けた。

「やめなさいよ!三編み!」
 鍋に海水を入れて、砂浜に撒いているノエルに向かって、うっかり近くにいたうさぎがギャンギャンと威嚇していた。

「あれ?うさぎちゃん、水が苦手なの?」
 セリムはニヤリと悪い顔をしたノエルを見逃さなかった。
 ノエルがあの表情をするときは、大抵ろくなことを考えていない。
「やめろって言ってんだろうがぁぁ」
 案の定、海水を巻きながら、逃げるうさぎを追いかけ始めた。
「聞こえねぇなぁ~」

「セリ、三編みは、あれ何してるの」
「あれは……次の塩を作る準備。ああやって海水を撒いておけば、簡単に塩が取れるんだよ」
 小さな塩田を作るようなものである。
「ふたりとも、いつの間にあんなに仲良くなったんだろうね」
「どうだろうね……」

***

「さて、普通はここから煮詰めれば完成するんだけど、僕は塩を作る時、ひと手間かけることにしているんだ」

 セリムはできあがった濃い海水を、葉っぱで作った匙に少し取った。
 こぼれないうちに口に含むと、思わず顔を歪めた。

「大丈夫か!セリ!吐き出す?」
「はいひょうふ」
 慌てるアダリヤを、セリムは手のひらで制止した。

 しばらくすると、口の中も海水に慣れたようで、舌で転がしながら、スキル『理解』を展開した。
 
 海水とは不思議なもので、しょっぱさ以外にも、よく『理解』すれば、苦味や甘み、酸味があることがわかるのだ。
 そして、海によってその配分も異なるのである。

「ここの海は苦味と甘みが同じくらいで、酸味は少ないね」
「海にも味があるの?」
「あるよ。味を整えると、使いやすくておいしい塩になるんだ。見てて」

 セリムは鍋の上に手をかざすと、先程、『理解』した不純物を取り除くイメージを思い浮かべた。

 すると、鍋の水が渦を巻き始め、セリムの手に吸い付くかのように立ち上がってきて、水の玉が外に飛び出た。
 セリムはこの技を『抽出』と名付けている。

 幼い頃、祖父が『液体に何かを溶かして取り出すのは、抽出といえる』と教えてくれたからだ。

「わぁ、勝手に飛び出た!」
 飛び出た水の玉を見て、アダリヤは目を瞬かせた。
 いつかの昔、祖父やノエルに見せたときも、同じような表情をしていたのを思い出した。

 セリムは、自分のスキルで、誰かがプラスの感情を見せてくれるのが好きだ。
 その瞬間だけは、自分がここにいていい気がするから。

 セリムは次々と『抽出』で、苦味、甘み、酸味に関わる成分を調整していった。

「じゃあ、最後に水と塩を分けるよ」
 もはや、アダリヤの眼差しは、マジックショーを見る子供のようになっていた。顔にワクワク、と書いてあるようである。

 イメージはこうだ。
 水は霧のように蒸発して、塩の結晶だけが鍋底に残る。

 セリムが鍋に再び手をかざすと、鍋の中の水は、霧状になり鍋から消えていった。

「わ、セリ、見て!」
 塩の結晶を確認していたセリムは、アダリヤの声で指さされている方角を見た。

「虹か……」
「きれいね!」

 セリムの起こした霧と、太陽の光で、薄い色のこぶりな虹が砂浜にかかったのだった。

「これは虹っていうんだ」
「にじ……」
 太陽の光を背にして、ふたりは鍋から湧き上がる霧でできた虹を見上げた。

「セリは、物知りね。勉強が好きなの?」
「そうだね、勉強は好きかな」
 一時は、アカデミーに通おうと思っていたのだ。勉強は好きな方である。

「そう……。リヤにも教えてくれる?」
「いいよ。何が知りたい?」
 アダリヤは、虹を見つめたまま、声を出した。


「この島の外について教えてほしい」


 虹を見ているふたりを、遠くからうさきが見つめていた。
 



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男性向けHOT30にランクイン、読んでくださっている皆様のおかげです!
ありがとうございます\(^o^)/
今後もセリムとアダリヤを、よろしくおねがいします。
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