ポメラニアン魔王

エピローグ 誰かの特別

3

「どうした、タケル。ハルキがいなくて寂しいのか」

「違うよ」

　最終決戦の時にも、こうやって撫でていたなと思い髪を撫でる。タケルはあの日以来、よくこうして私に抱きついてくるようになった。

「もうそんなに寂しくない。ポメやみんなが一緒にいてくれるから」

「そうか」

「ポメ、いや……魔王様、これからも俺とずっと一緒に暮らしてくれますか？　お城も豪華な暮らしも何もないけど」

　タケルが顔を上げて私を見つめる。甘い魔法のような力が口元から流れ出ていて、思わず引き寄せて口元を舐めるとタケルは真っ赤になった。

「タケルがいればそれで良い」

　タケルの存在そのものがどれだけ特別なのかタケルだけが知らないのだ。勇者に奪われなくて本当に良かった。

「勇者め。タケルを失った事を魔界で悔しがるがいい。フハハハ」
「ポメ、やっぱり口が悪いな……」

　あきれるタケルの唇を今度こそふさぎ、舌を絡める。優しくて強い力が少しずつ流れ込んできて、これまで味わったことのない喜びに満たされた。


　（魔王様っ、戻りました～）

　ぶんぶん飛んで部屋に入ってきたゼブが話しかけてくる。

（魔王様、私も周りにいた鳥たちに誰が強いか分からせてやりましたわ！）

　トリスもいつの間にか戻って来て、周囲を飛びまわるからうるさくて仕方がない。
　
「お前たち邪魔をするな！」

　空気を読まない配下に怒鳴るが、タケルは笑顔であっさり二匹を許してしまう。

「ゼブ、トリス、戻ってきたのか？　お弁当を買いに散歩に行こう」

「タケルが甘いから配下が調子に乗るのだ」

「だってみんな可愛いし。ドラコとケルピを迎えに行ってくるよ」

　部屋を出ようとしたタケルの腕を掴み、もう一度抱き寄せた。

「ポメ？」
「タケル、先ほどはタケルがいれば良いと言ったが、やはりこたつも必要だ」
「分かってるよ」

　笑っているタケルを思い切り抱きしめてそれから手を繋ぎ、今度こそ弁当を買いに出かけた。
　この奇跡のような地味な生活も悪くない。




おわり