ポメラニアン魔王

カム

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三 タケルの話

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「俺がなんとか頼んでみるよ。ポメ達を見逃してくれないかって」

 ポメはフンと鼻を鳴らした。

「勇者がそのような頼みを聞くとはとても思えぬな」
「それでも……」
「もうよい。寝ろ」

 ポメが目を閉じたので、それ以上言うのはやめたけど、ポメの背中を撫でながらあれこれと考えるのはやめられなかった。

***

 翌日、早めに目を覚ました俺は暇を持て余して、同じように早めに起きていたドラコと一緒に朝食とお弁当を作った。
 もう食材が何なのかと思うのはやめにして、野菜と卵の炒めものと果物とお肉の料理を木のお皿に盛り付ける。お弁当は適当な木の器に詰めて、葉っぱで包めば完成だ。
 魔王とその仲間たちが朝食を食べるのを眺め、それから戦略会議という名の団欒の後、視察と称してピクニックに出かける事になった。

 森の中を一時間ほど歩いて到着したのは、昔ポメ達が住んでいたという城の一つ、らしい。

「あれが我が城だ。懐かしいな」

 森の中にあるお城は魔王さまが住むには小さい気もしたけど、灰色の石を積み上げた立派な建物で、村に比べたらはるかに文明度が高い。尖塔が二つと、一部が崩れた城壁と、石垣の間の小道は遠目から見ても迷路みたいでわくわくした。
 ただ、ポメたちの敵である人間が何人か歩いているのが見えた。

「ポメの城なのに人がたくさんいるんだな」
「城は人間たちに奪われたのだ」
「……代表して謝るよ。ごめんな」
「タケルのせいではない」

 ただ眺めているのも寂しいので、俺だけ城を探検する事にした。俺だけなら同じ人間だし警戒されないと思う。

「俺が中を見てくるから、ポメたちは待っていてくれ。少ししたら戻って来るからここにいるんだぞ」

「タケル、もし城の中に入れたなら魔王の冠が残っていないか調べてくれ」
「冠?」
「魔力を増幅できる冠なのだ。あれば戦いが有利になる」
「分かったよ」

 そんな物が俺に見つけられるとは思えないけど、とりあえず頷いて城に向かった。


「いらっしゃい! 魔王の城へようこそ。入場料はこちらだよ」

 石壁の門の入り口で、麦わら帽子みたいな帽子をかぶった日に焼けたおじさんが声をかけてきた。近くには小さなテーブルとパラソル。素材は自然の物で出来てるけど、リゾート感満載だな。
 おじさんの示した料金表は、この世界の文字で書かれていたけど、もやもやとした日本語がその下に浮かんで見えた。

『庭の見学300円
 城の中まで500円
 一日滞在1000円
 各種お土産も用意しております』

 商売する気満々だ。ポメ達の城なのに。

「あの、お金持ってないんですけど」
「なら使えそうな物でもいいぞ」
「物?」

 お昼のお弁当はポメ達に渡してきたし、家の鍵とスマホと財布しか持ってない。
 どうしようか悩んでいると、声をかけられた。

「タケル、これでどうだ?」

 びっくりして振り返ると、小学校高学年くらいの黒髪の少年が後ろに立っていた。怖いくらい顔が整っている。

「ポメ……」

 少年の姿をしたポメはニヤリと笑って、おじさんの前に袋に入ったこの国のお金を置いた。

「これなら十分だよ。さあ楽しんでくれ」

 袋の中身を確認して上機嫌のおじさんを横目に、ポメはさっさと門をくぐった。

「ポメ、待ってるって言わなかったか?」
「タケルが入り口でもたもたしているので、痺れをきらしたのだ。安心せよ、弁当は持ってきたぞ」

 ポメが背中から下げている袋には、お弁当の他に小鳥と人参とてんとう虫が入っていた。
 春樹さんに見つかったりしないか不安だな。
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