48 / 62
三 タケルの話
28
しおりを挟む
「俺がなんとか頼んでみるよ。ポメ達を見逃してくれないかって」
ポメはフンと鼻を鳴らした。
「勇者がそのような頼みを聞くとはとても思えぬな」
「それでも……」
「もうよい。寝ろ」
ポメが目を閉じたので、それ以上言うのはやめたけど、ポメの背中を撫でながらあれこれと考えるのはやめられなかった。
***
翌日、早めに目を覚ました俺は暇を持て余して、同じように早めに起きていたドラコと一緒に朝食とお弁当を作った。
もう食材が何なのかと思うのはやめにして、野菜と卵の炒めものと果物とお肉の料理を木のお皿に盛り付ける。お弁当は適当な木の器に詰めて、葉っぱで包めば完成だ。
魔王とその仲間たちが朝食を食べるのを眺め、それから戦略会議という名の団欒の後、視察と称してピクニックに出かける事になった。
森の中を一時間ほど歩いて到着したのは、昔ポメ達が住んでいたという城の一つ、らしい。
「あれが我が城だ。懐かしいな」
森の中にあるお城は魔王さまが住むには小さい気もしたけど、灰色の石を積み上げた立派な建物で、村に比べたらはるかに文明度が高い。尖塔が二つと、一部が崩れた城壁と、石垣の間の小道は遠目から見ても迷路みたいでわくわくした。
ただ、ポメたちの敵である人間が何人か歩いているのが見えた。
「ポメの城なのに人がたくさんいるんだな」
「城は人間たちに奪われたのだ」
「……代表して謝るよ。ごめんな」
「タケルのせいではない」
ただ眺めているのも寂しいので、俺だけ城を探検する事にした。俺だけなら同じ人間だし警戒されないと思う。
「俺が中を見てくるから、ポメたちは待っていてくれ。少ししたら戻って来るからここにいるんだぞ」
「タケル、もし城の中に入れたなら魔王の冠が残っていないか調べてくれ」
「冠?」
「魔力を増幅できる冠なのだ。あれば戦いが有利になる」
「分かったよ」
そんな物が俺に見つけられるとは思えないけど、とりあえず頷いて城に向かった。
「いらっしゃい! 魔王の城へようこそ。入場料はこちらだよ」
石壁の門の入り口で、麦わら帽子みたいな帽子をかぶった日に焼けたおじさんが声をかけてきた。近くには小さなテーブルとパラソル。素材は自然の物で出来てるけど、リゾート感満載だな。
おじさんの示した料金表は、この世界の文字で書かれていたけど、もやもやとした日本語がその下に浮かんで見えた。
『庭の見学300円
城の中まで500円
一日滞在1000円
各種お土産も用意しております』
商売する気満々だ。ポメ達の城なのに。
「あの、お金持ってないんですけど」
「なら使えそうな物でもいいぞ」
「物?」
お昼のお弁当はポメ達に渡してきたし、家の鍵とスマホと財布しか持ってない。
どうしようか悩んでいると、声をかけられた。
「タケル、これでどうだ?」
びっくりして振り返ると、小学校高学年くらいの黒髪の少年が後ろに立っていた。怖いくらい顔が整っている。
「ポメ……」
少年の姿をしたポメはニヤリと笑って、おじさんの前に袋に入ったこの国のお金を置いた。
「これなら十分だよ。さあ楽しんでくれ」
袋の中身を確認して上機嫌のおじさんを横目に、ポメはさっさと門をくぐった。
「ポメ、待ってるって言わなかったか?」
「タケルが入り口でもたもたしているので、痺れをきらしたのだ。安心せよ、弁当は持ってきたぞ」
ポメが背中から下げている袋には、お弁当の他に小鳥と人参とてんとう虫が入っていた。
春樹さんに見つかったりしないか不安だな。
ポメはフンと鼻を鳴らした。
「勇者がそのような頼みを聞くとはとても思えぬな」
「それでも……」
「もうよい。寝ろ」
ポメが目を閉じたので、それ以上言うのはやめたけど、ポメの背中を撫でながらあれこれと考えるのはやめられなかった。
***
翌日、早めに目を覚ました俺は暇を持て余して、同じように早めに起きていたドラコと一緒に朝食とお弁当を作った。
もう食材が何なのかと思うのはやめにして、野菜と卵の炒めものと果物とお肉の料理を木のお皿に盛り付ける。お弁当は適当な木の器に詰めて、葉っぱで包めば完成だ。
魔王とその仲間たちが朝食を食べるのを眺め、それから戦略会議という名の団欒の後、視察と称してピクニックに出かける事になった。
森の中を一時間ほど歩いて到着したのは、昔ポメ達が住んでいたという城の一つ、らしい。
「あれが我が城だ。懐かしいな」
森の中にあるお城は魔王さまが住むには小さい気もしたけど、灰色の石を積み上げた立派な建物で、村に比べたらはるかに文明度が高い。尖塔が二つと、一部が崩れた城壁と、石垣の間の小道は遠目から見ても迷路みたいでわくわくした。
ただ、ポメたちの敵である人間が何人か歩いているのが見えた。
「ポメの城なのに人がたくさんいるんだな」
「城は人間たちに奪われたのだ」
「……代表して謝るよ。ごめんな」
「タケルのせいではない」
ただ眺めているのも寂しいので、俺だけ城を探検する事にした。俺だけなら同じ人間だし警戒されないと思う。
「俺が中を見てくるから、ポメたちは待っていてくれ。少ししたら戻って来るからここにいるんだぞ」
「タケル、もし城の中に入れたなら魔王の冠が残っていないか調べてくれ」
「冠?」
「魔力を増幅できる冠なのだ。あれば戦いが有利になる」
「分かったよ」
そんな物が俺に見つけられるとは思えないけど、とりあえず頷いて城に向かった。
「いらっしゃい! 魔王の城へようこそ。入場料はこちらだよ」
石壁の門の入り口で、麦わら帽子みたいな帽子をかぶった日に焼けたおじさんが声をかけてきた。近くには小さなテーブルとパラソル。素材は自然の物で出来てるけど、リゾート感満載だな。
おじさんの示した料金表は、この世界の文字で書かれていたけど、もやもやとした日本語がその下に浮かんで見えた。
『庭の見学300円
城の中まで500円
一日滞在1000円
各種お土産も用意しております』
商売する気満々だ。ポメ達の城なのに。
「あの、お金持ってないんですけど」
「なら使えそうな物でもいいぞ」
「物?」
お昼のお弁当はポメ達に渡してきたし、家の鍵とスマホと財布しか持ってない。
どうしようか悩んでいると、声をかけられた。
「タケル、これでどうだ?」
びっくりして振り返ると、小学校高学年くらいの黒髪の少年が後ろに立っていた。怖いくらい顔が整っている。
「ポメ……」
少年の姿をしたポメはニヤリと笑って、おじさんの前に袋に入ったこの国のお金を置いた。
「これなら十分だよ。さあ楽しんでくれ」
袋の中身を確認して上機嫌のおじさんを横目に、ポメはさっさと門をくぐった。
「ポメ、待ってるって言わなかったか?」
「タケルが入り口でもたもたしているので、痺れをきらしたのだ。安心せよ、弁当は持ってきたぞ」
ポメが背中から下げている袋には、お弁当の他に小鳥と人参とてんとう虫が入っていた。
春樹さんに見つかったりしないか不安だな。
0
お気に入りに追加
184
あなたにおすすめの小説

Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜
天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。
彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。
しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。
幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。
運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。


アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜
車不
BL
5歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第2の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
【完結】魔王様、溺愛しすぎです!
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
「パパと結婚する!」
8万年近い長きにわたり、最強の名を冠する魔王。勇者を退け続ける彼の居城である『魔王城』の城門に、人族と思われる赤子が捨てられた。その子を拾った魔王は自ら育てると言い出し!? しかも溺愛しすぎて、周囲が大混乱!
拾われた子は幼女となり、やがて育て親を喜ばせる最強の一言を放った。魔王は素直にその言葉を受け止め、嫁にすると宣言する。
シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264)
挿絵★あり
【完結】2021/12/02
※2022/08/16 第3回HJ小説大賞前期「小説家になろう」部門 一次審査通過
※2021/12/16 第1回 一二三書房WEB小説大賞、一次審査通過
※2021/12/03 「小説家になろう」ハイファンタジー日間94位
※2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過作品
※2020年8月「エブリスタ」ファンタジーカテゴリー1位(8/20〜24)
※2019年11月「ツギクル」第4回ツギクル大賞、最終選考作品
※2019年10月「ノベルアップ+」第1回小説大賞、一次選考通過作品
※2019年9月「マグネット」ヤンデレ特集掲載作品

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる