ポメラニアン魔王

カム

文字の大きさ
上 下
45 / 62
三 タケルの話

25

しおりを挟む
「くそう、貴様のせいで魔王様の不興を買ったではないか!」
「すみません」

シワシワの人参ドラコは、木の棒みたいな物を杖がわりにしつつ戻って来た。地面に生えている時には見えなかったけど、短い足がある。足が短すぎて歩くのにけっこう時間がかかるタイプだな。あれでどうやって勇者の春樹さんたちと戦ってたんだろう。

ポメは後ろ足であごの下を掻きながら、ドラコを冷ややかに眺めているだけなので、仕方なくつまんでポメの前まで運んであげた。

「魔王様、申し訳ありません。まさか魔王様のしもべだったとは気づかずに、呪いの声を浴びせてしまいました」

「タケルには手を出すな。私に魔力を供給しているのだ」

あの気持ち悪い声、呪いの声という割には別にどこもなんともなってないな。もう一度聞きたくはないけど。

「ところでドラコ、今は勇者に追われているのだ。貴様の住処を少しの間借りるぞ」

「おおっ、魔王様にお越しいただけるとは、ありがたきしあわせ!」

人参の家か。
もう深く考えるのはやめておこう。

***

人参の家は思ったより快適だった。
大木のうろを改装した住居で木造住宅と同じ木の匂いがする。
子供の頃に憧れた秘密基地に似ていて、サルノコシカケみたいなキノコの階段を登る時には感動した。俺が登っても壊れないほど頑丈なキノコだから別の種類なのかもしれないけど。メルヘンの世界かわいいな。住んでいるのが人相の悪いシワシワの人参だということを考えなければ。

「魔王様、こちらなら人間どもに見つかることはございません」

ドラコさんは人参とは思えないほど人間らしい生活を送っているらしい。
大木の内部の空洞は、人間が四、五人歩き回っても平気なほど広く、色とりどりの蝋燭の炎が内部を照らしている。動物の毛皮で作られた人間サイズのソファーや大きな木のテーブルが設置されていた。
どうしてなのか考えてようやく理解する。ポメが人間サイズになった時にぴったりの大きさだ。

ポメはちょこんとソファーに寝そべると
「ドラコ、何か食事を用意しろ。五人分だ」
と命令した。
さすが魔王様だ。命令し慣れてる感じがする。

「五人と申されますと……?」
「ゼブとトリスがそのうち人間どもを振り切ってこちらに来るはずだ」
「では四天王のうちら三名が揃うのですね……!決戦の予感がしますな!」

ゼブとトリス。
多分虫のゼブと鳥さんだよな。

おそらく、だけど。
ポメと四天王が揃っても、春樹さん勇者達に勝てそうな気がしないんだけど。








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

雪狐 氷の王子は番の黒豹騎士に溺愛される

Noah
BL
【祝・書籍化!!!】令和3年5月11日(木) 読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!! 黒猫を庇って派手に死んだら、白いふわもこに転生していた。 死を望むほど過酷な奴隷からスタートの異世界生活。 闇オークションで競り落とされてから獣人の国の王族の養子に。 そこから都合良く幸せになれるはずも無く、様々な問題がショタ(のちに美青年)に降り注ぐ。 BLよりもファンタジー色の方が濃くなってしまいましたが、最後に何とかBLできました(?)… 連載は令和2年12月13日(日)に完結致しました。 拙い部分の目立つ作品ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。 Noah

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

僕の王子様

くるむ
BL
鹿倉歩(かぐらあゆむ)は、クリスマスイブに出合った礼人のことが忘れられずに彼と同じ高校を受けることを決意。 無事に受かり礼人と同じ高校に通うことが出来たのだが、校内での礼人の人気があまりにもすさまじいことを知り、自分から近づけずにいた。 そんな中、やたらイケメンばかりがそろっている『読書同好会』の存在を知り、そこに礼人が在籍していることを聞きつけて……。 見た目が派手で性格も明るく、反面人の心の機微にも敏感で一目置かれる存在でもあるくせに、実は騒がれることが嫌いで他人が傍にいるだけで眠ることも出来ない神経質な礼人と、大人しくて素直なワンコのお話。 元々は、神経質なイケメンがただ一人のワンコに甘える話が書きたくて考えたお話です。 ※『近くにいるのに君が遠い』のスピンオフになっています。未読の方は読んでいただけたらより礼人のことが分かるかと思います。

魔法菓子職人ティハのアイシングクッキー屋さん

古森きり
BL
魔力は豊富。しかし、魔力を取り出す魔門眼《アイゲート》が機能していないと診断されたティハ・ウォル。 落ちこぼれの役立たずとして実家から追い出されてしまう。 辺境に移住したティハは、護衛をしてくれた冒険者ホリーにお礼として渡したクッキーに強化付加効果があると指摘される。 ホリーの提案と伝手で、辺境の都市ナフィラで魔法菓子を販売するアイシングクッキー屋をやることにした。 カクヨムに読み直しナッシング書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLove、魔法Iらんどにも掲載します。

僕のユニークスキルはお菓子を出すことです

野鳥
BL
魔法のある世界で、異世界転生した主人公の唯一使えるユニークスキルがお菓子を出すことだった。 あれ?これって材料費なしでお菓子屋さん出来るのでは?? お菓子無双を夢見る主人公です。 ******** 小説は読み専なので、思い立った時にしか書けないです。 基本全ての小説は不定期に書いておりますので、ご了承くださいませー。 ショートショートじゃ終わらないので短編に切り替えます……こんなはずじゃ…( `ᾥ´ )クッ 本編完結しました〜

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

侯爵令息、はじめての婚約破棄

muku
BL
侯爵家三男のエヴァンは、家庭教師で魔術師のフィアリスと恋仲であった。 身分違いでありながらも両想いで楽しい日々を送っていた中、男爵令嬢ティリシアが、エヴァンと自分は婚約する予定だと言い始める。 ごたごたの末にティリシアは相思相愛のエヴァンとフィアリスを応援し始めるが、今度は尻込みしたフィアリスがエヴァンとティリシアが結婚するべきではと迷い始めてしまう。 両想い師弟の、両想いを確かめるための面倒くさい戦いが、ここに幕を開ける。 ※全年齢向け作品です。

仮面の兵士と出来損ない王子

天使の輪っか
BL
姫として隣国へ嫁ぐことになった出来損ないの王子。 王子には、仮面をつけた兵士が護衛を務めていた。兵士は自ら志願して王子の護衛をしていたが、それにはある理由があった。 王子は姫として男だとばれぬように振舞うことにしようと決心した。 美しい見た目を最大限に使い結婚式に挑むが、相手の姿を見て驚愕する。

処理中です...