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三 タケルの話
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自分に向かって矢が飛んでくるのが信じられなくて呆然と眺めていると
「走れ!」
と言うポメの声がした。
声と同時に飛んでくる矢が炎に包まれ、到達する前に地面へと焼け落ちる。
俺はポメを抱えたまま、無我夢中で走り始めた。
周囲が熱い。
炎が周りに広がって、地面の草木を焦がしてる。いつか鋭い痛みに襲われるんじゃないかと覚悟しながら、もつれそうな足を必死に動かした。
ポメが俺の腕から顔を出し、吠え声と言葉の中間のような声をずっとあげている。矢を燃やしているのはポメなんだろうか。
すぐ近くで爆発する打ち上げ花火の中を走っている気分だ。
「このままだと勇者に追いつかれるな」
「えっ……!?」
「魔力を貯めてどこかへ飛ぶ」
ポメが俺の腕から抜け出すように顔までよじ登り、ペロっと口のあたりをひと舐めする。
「あ、あれ……、ポメ?」
俺の顔を舐めていた子犬の姿は何故かモヤモヤとした黒い何かに包まれた。ポメが消えてしまいそうな焦燥感に駆られ、走りながら必死で腕を伸ばす。
モヤモヤとした黒いものは、さらりとした黒く長い毛に変わり、肩に置かれていた前足が、急にズシリと重くなる。
「え……?」
一瞬で子犬の姿はかき消え、目の前には見たことのない男の人ーー黒髪で彫りの深い、一度見たら忘れられなくなりそうなほど端正な顔立ちの男の人が現れた。
…………だ……誰!?
「あっ、あの……!?」
黒髪の男の人ーー多分年上のーーは、俺の額に自分の額をくっつけるほどの至近距離で、ポメにそっくりの声で
「タケル……力を貸せ」
と囁いた。
直後、彼の重みでバランスを崩し、その場に仰向けに倒れこんだのに、何故か少しも痛みを感じなかった。
驚きすぎて頭も痛覚も麻痺していたのかもしれない。
黒髪の男の人が俺の上に覆いかぶさってる。身長は俺より高く、黒と赤の衣装に覆われていても逞しい身体つきなのが分かった。
……誰だか分からないけど、こんなに綺麗な男の人を見たのは、春樹さん以来だ。
美しく柔らかで日の光のような春樹さんとは対照的に、夜の闇のような黒い髪、炎に照らされて光る赤い瞳は鋭いけれどどこか優しげな視線で俺を見下ろしている。
この人、信じられないくらい色気がある。男が好きだからってわけじゃないけど、春樹さんに片思いしていなかったら、絶対に一目で恋に落ちていたと思う。
「あの、あなたは誰……ですか?」
男の人は俺と額を合わせたまま、ゆっくりと唇を近づけると、俺の口をペロっと舐めた。
ぽ、ポメ……?
ありえないけど間違い無さそうな名前が頭に浮かぶ。
だってこの舐め方、さっきまで俺の口を舐めてた子犬とそっくりだ。それに声も。
でも子犬なら抵抗のないその行為も、ワイルドイケメンにされると動揺が隠しきれない。
焦って身体を引き剥がそうとするのに、彼は俺の口を塞ぎ、息もままならないほど深く口づけを落としてきた。
「走れ!」
と言うポメの声がした。
声と同時に飛んでくる矢が炎に包まれ、到達する前に地面へと焼け落ちる。
俺はポメを抱えたまま、無我夢中で走り始めた。
周囲が熱い。
炎が周りに広がって、地面の草木を焦がしてる。いつか鋭い痛みに襲われるんじゃないかと覚悟しながら、もつれそうな足を必死に動かした。
ポメが俺の腕から顔を出し、吠え声と言葉の中間のような声をずっとあげている。矢を燃やしているのはポメなんだろうか。
すぐ近くで爆発する打ち上げ花火の中を走っている気分だ。
「このままだと勇者に追いつかれるな」
「えっ……!?」
「魔力を貯めてどこかへ飛ぶ」
ポメが俺の腕から抜け出すように顔までよじ登り、ペロっと口のあたりをひと舐めする。
「あ、あれ……、ポメ?」
俺の顔を舐めていた子犬の姿は何故かモヤモヤとした黒い何かに包まれた。ポメが消えてしまいそうな焦燥感に駆られ、走りながら必死で腕を伸ばす。
モヤモヤとした黒いものは、さらりとした黒く長い毛に変わり、肩に置かれていた前足が、急にズシリと重くなる。
「え……?」
一瞬で子犬の姿はかき消え、目の前には見たことのない男の人ーー黒髪で彫りの深い、一度見たら忘れられなくなりそうなほど端正な顔立ちの男の人が現れた。
…………だ……誰!?
「あっ、あの……!?」
黒髪の男の人ーー多分年上のーーは、俺の額に自分の額をくっつけるほどの至近距離で、ポメにそっくりの声で
「タケル……力を貸せ」
と囁いた。
直後、彼の重みでバランスを崩し、その場に仰向けに倒れこんだのに、何故か少しも痛みを感じなかった。
驚きすぎて頭も痛覚も麻痺していたのかもしれない。
黒髪の男の人が俺の上に覆いかぶさってる。身長は俺より高く、黒と赤の衣装に覆われていても逞しい身体つきなのが分かった。
……誰だか分からないけど、こんなに綺麗な男の人を見たのは、春樹さん以来だ。
美しく柔らかで日の光のような春樹さんとは対照的に、夜の闇のような黒い髪、炎に照らされて光る赤い瞳は鋭いけれどどこか優しげな視線で俺を見下ろしている。
この人、信じられないくらい色気がある。男が好きだからってわけじゃないけど、春樹さんに片思いしていなかったら、絶対に一目で恋に落ちていたと思う。
「あの、あなたは誰……ですか?」
男の人は俺と額を合わせたまま、ゆっくりと唇を近づけると、俺の口をペロっと舐めた。
ぽ、ポメ……?
ありえないけど間違い無さそうな名前が頭に浮かぶ。
だってこの舐め方、さっきまで俺の口を舐めてた子犬とそっくりだ。それに声も。
でも子犬なら抵抗のないその行為も、ワイルドイケメンにされると動揺が隠しきれない。
焦って身体を引き剥がそうとするのに、彼は俺の口を塞ぎ、息もままならないほど深く口づけを落としてきた。
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