ポメラニアン魔王

カム

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三 タケルの話

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破壊って……、この小さい肉球で何を言っているんだと思っていたら、ポメがひときわ大きな唸り声を上げた。

壁に亀裂が入る。亀裂は蜘蛛の糸のせいであっという間に広がり、破壊音とともに壁が崩れ落ちた。

「う、嘘だろ…?」

夜風に乗って外から大勢の村人の声が聞こえてくる。
何故か外も大騒ぎみたいだ。

「今だ!タケル、飛べ!」
「ポメ、ここ二階なんだけど……」

見える範囲には屋根も梯子もないし、下はむき出しの地面、高さは飛び降りたら骨折するくらいはありそうだ。骨折はしたくない。

「不甲斐ない奴め!貴様それでも私の忠実なるしもべか」

いつのまにかしもべにされてる。

「魔王様!早くお逃げに!」

春樹さんの前に立ちふさがって攻撃を受けていたゼブが、振り返って壁際に向かってきた。いくらメルヘンの世界の喋る蜘蛛とはいえ脚がたくさんあってデカイ昆虫?がこっちに来ると怖いものがある。

「うわーっ!こっち来るな!」
「待て!もう遊びは終わりか?」

ゼブの後から剣を持って迫る春樹さん。かっこいい!
でもそんな事を考えている場合じゃなかった。

「タケル、いいから飛べ!後は私がなんとかしてやろう」

自信満々なポメの言葉と、デカイ蜘蛛の迫力に押され、どうせ夢だからと俺は二階から飛び降りた。

ポメを潰さないように抱き、ある程度の衝撃を覚悟したけど、実際にはそこまで強い衝撃は襲ってこなかった。
何か柔らかい物の上に落ち、そこから滑り台のように下に滑ったからだ。

「うわわわ……!」

夢だから痛くない訳でもなく、少し擦りむきながら地面に転がる。痛みも感覚もあるし、この夢で死んだら本当に死ぬんじゃないだろうか。
俺は何から滑り降りたのか気になって顔をあげ、目の前に大きな鳥がいる事に気づいた。

「うわぁ!ポメ!」

潰さないよう気をつけていたのに、怖くて思わずポメをぎゅっと抱きしめる。
目の前の鳥は、見た目は鶏みたいに見えた。背中の方の羽の色が黒いからどちらかというと軍鶏かな。
大きさは三メートルくらいか?

広場はすっかり夜になっていたけど、軍鶏を見た村人達が逃げ惑い、松明を持った兵士が周りを囲んでいる。
みんな逃げ腰だ。俺だって見上げるほどの大きさの軍鶏は怖い。

「魔王様、私にも魔力をくださいな」

軍鶏が高い声で喋った。
やっぱりメルヘンの世界だ。

「ゼブを援護しろ。私はタケルと先に行く」

腕の中のポメが言うと、大きな軍鶏は首をぐるりと動かした。

「ゼブ、あいつ嫌いなのよね。魔王様の命令なら仕方ないけど」

そして翼を広げると、村人に対して威嚇の声を上げた。

「タケル、村の門へ走れ。ここでは戦えぬ」
「でも、鶏とゼブは?」
「あいつらは逃走に関しては私より得意としている。上手く撤退するだろう」

軍鶏の周りに赤い火花が飛び散ってる。火花を散らしながら走る軍鶏は確かに動きが読めない。
その様子を横目に見ながら、俺はポメを抱えて村の出口へと走った。
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