ポメラニアン魔王

カム

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三 タケルの話

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賢者さんと桶を持った兵士が牢に入ってきた。
賢者さんが何かぶつぶつと言葉を話すと、俺の寝転がっていた座敷牢の床がLEDライトに照らされたように光り始める。
綺麗だけど、なんだか怖い。
それにうまく動けない。
兵士は桶の中身を俺に向かってぶちまけた。

(ぎゃっ!!)
「冷たっ……!何するんですか!」

得体のしれない水みたいなものがかかったせいで、全身びしょ濡れだ。

「聖水です」

賢者さんが全く表情を変えずに言う。
今、ぎゃっ!って声がしたよな。
あれはゼブの声か?

「魔物よ去れ!」

町長さんが牢の柵の外から杖で足の辺りを叩いてくる。
地味に痛い。

「ちょっと、やめてください!」

叩かれたせいなのか、それとも聖水のせいなのか、LEDのせいなのかわからないけど、俺の服に隠れていた虫の王ゼブがポトリと床に落ちた。
美人の賢者さんが俺のそばに座り込む。

(ううっ……)

箸のような長い木の棒でピクピクしているゼブをつまみ、懐から出した小さな壺に入れた。
すぐに蓋をする。

「安心なさい。取り憑いていた魔物は離れました」
「ゼブ……虫をどうするんですか?」
「このまま封印します。あなたも二度と魔物などに取り憑かれないよう気をつけなさい」

微笑んだ賢者さんをみて、改めて怖いと思った。

***

「叩いてすまなかったね。これも町民を守るため、とっさに力が入ってしまったんじゃな」

ご機嫌な町長は、あの後すぐに縄を解いてくれた。
牢からも出してもらえたし、着替えと簡単なご馳走も用意してくれるらしい。
でも、俺はゼブの事が気がかりだった。
たかが虫だけど……一度言葉を交わして、名前まで聞いてしまうと情が移ってしまう。

賢者さんは町長の館に滞在しているみたいだから、隙を見て逃がしてあげよう。
ゼブはピクピクしていたけど、あの程度じゃ死なないはずだ。多分。
四天王だって言ってたし……。

自由の身になったので、とりあえず町長の家にある木造の風呂場に行って聖水を流し、借りた服に着替えた。
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