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エピローグ

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「カル、準備出来たか?」
「う、うん。変かな」

 クラウスが頭の上からつま先まで俺の姿を眺める。

「まあまあだな。やっぱり短期間では俺のようには無理か。まだまだチビだからな」
「クラウディアさんと比べないでよ。これでも頑張ったんだ」
「そうだな。まあよく出来てる。喉仏もない、肩幅もない。普通の人間なら気づかないだろう。胸はないが」

 そう言われて鏡に映る自分の姿を眺める。少しだけ伸ばした赤い髪が頭の上で結われてる。そこには金色の髪飾り。みんなに着せられた赤いワンピースみたいな服にはカラフルな刺繍がほどこされていて、首には綺麗な石の連なったネックレス。足元には履き慣れない小さな靴。

 クラウスが言ったみたいに、喉仏はなくて肩幅も丸くて、全体にまるみを帯びてるから本当に女の人に見える。自分じゃないみたいだ。ただし胸を大きくするのは俺には無理だった。それにドレスの下にはちゃんとオスの象徴もついてる。着飾ってもそれほど美人に見えない。もとが俺だから。

「まあ胸は詰め物でごまかせるだろう。今日だけ参列者を騙せば問題ない。なにしろヒース王子様が娶るのは、少数部族の姫君、ということになってるからな」

 娶ると言われて真っ赤になった。


 エリオットが国王になってから三年が経っていた。あんなに攻撃的で偏った性格のエリオットなのに、国全体は落ち着きを取り戻し、けっこううまくいっていた。
 ヒースは十八歳になり、以前よりずっと大人っぽくなった。美人で優しいのは前と同じだけど、精神的に落ち着いたのか魔力のコントロールも含めて危うさがなくなった。
 俺も八歳になった。といっても五年は仮死状態だったから感覚的には三歳だ。それでも人間に変身した時の背が少しだけ大きくなり、ツノもほんの少し伸びた。
 ヒースとはずっと仲良しで、王族と付き人の関係のはずなのにヒースの方が俺の面倒を見てくれてる。どこに行くのも一緒だし、夜はいつも同じベッドで寝てる。だから毎日幸せだった。
 国力強化のために辺境に住む少数部族の姫君とヒースとの政略結婚という話が出たのはそんな時期のことだった。
 ヒースが結婚すると知って落ち込んだ俺は、その相手が俺だと聞いて生まれて一番の衝撃を受けた。

「攻撃的でややこしい性格だが、ほんの少しは弟思いのところもあるらしいな、あのエリオットという奴は」

 クラウスがそう言った通り、エリオットは俺とヒースの結婚を認めてくれたらしい。半分はヒースに恩を売り、半分は竜を味方につけることで国力を強化する狙いもあるみたいだけど。
 つまり少数部族というのは捏造で、部族に変身するのはクラウスの商売仲間。俺は結婚式の間だけ姫君に変装して参列者たちをごまかさなきゃいけない。

 それからクラウスが城にやって来て、数ヶ月間、女性に変身する特訓をやらされた。女の人に変身するのは人間に変身する時の魔法の応用らしいけど、俺にはとても難しかった。失敗続きで、結局見た目さえある程度なんとかすればいいというところに落ち着いた。

 クラウスは今でもクラウディアさんの姿で王城に出入りし、エリオットといろいろ取引をしているという話だ。クラウディアさんの正体には気づいてなくて、竜を呼び寄せられるすご腕の魔法道具屋としか思われてないらしいけど。五百年も生きていると商売上手になるんだな。
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