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誓約
2 王宮に潜入
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「魔法道具屋のクラウディアと申します。薬を届けに参りましたの。通してくださらない?」
葬列を見送ってから数刻後、俺とクラウディアさんは王宮の門の前にいた。門といっても立派な正門じゃなくて、裏通りに面した小さめの門の前だ。小さくても衛兵もいるし検問もあるみたいだけど。
「クラウディア殿ですね。話は伺っておりますが、今、王家の方々はみなさま国葬に参加されていまして」
「そうですわね。でも、鮮度が重要な薬ですから早い方がいいかと思いましたの。ご無理でなければ中で待たせていただけませんか?」
衛兵たちは顔を見合わせて悩んでいたけど、クラウディアさんがケネス王太子の使いの手紙を見せると態度を変えた。荷車に乗せられたたくさんの荷物を検査されることもなく笑顔で門を通してもらえた。
「良かったね」
荷車を引いてクラウディアさんに着いていく。魔法にも何も引っかからなかったし、王宮に入れたぞ。
「カル、あなたは私の従者で普通の青年なのだから、片手で楽々と荷車をひいては駄目よ」
「あっ、ごめん」
「それに、王太子の薬を届けに来たのだもの。通してもらえて当然だわ」
(今は宮廷魔道士がいないから、カルの下手な変身でも見破られなくてすんでるな)
(俺の変身、下手なの? 宮廷魔道士って?)
(この城で一番の魔法使いだ。国王の病気は見て見ぬふりをしていたからケネスの配下だろう。カルの変身は、見た目は上手いが魔力は漏れまくってる。もっとキュッと引き締めないと疑われる)
(キュッと?)
(そう。腹に力を入れてみろ)
言われた通りお腹に力を入れてみた。ちょっとムズムズする。
(うまいうまい。さっきよりマシだ。それでも鑑定魔法には引っかかりそうだが、人間相手なら何も問題ない。念のため宮廷魔道士の前では呼吸にも気をつけろ。俺たちは魔力を息に乗せているからな)
(うん。クラウスは鑑定魔法もバレないの?)
(俺はこの道五百年のプロだぞ。たかが五十年かそこらの魔法使いより魔法には詳しい。鑑定魔法には嘘の情報を送って誤魔化している)
(すごい……)
整備された広い道を通り、城壁の内側を進んでいく。王宮は灰色の石で造られた綺麗な迷路みたいだ。城壁の上には衛兵が等間隔で並んでいる。
「これはクラウディア殿、お薬をお持ちと伺ってお迎えに上がりました」
「まあ、ありがとうございます。このような時にごめんなさい」
通路の向こうから小柄で太ったおじさんが部下を連れてやって来た。身分が高そうなおじさんだ。クラウディアさんにうっとりした視線を向けて、俺のことは睨むように上から下まで眺めた。宮廷魔道士かと思わず息を止める。
「この子は私の店で雇っている荷物持ちなの」
「さようですか。ではお二人ともこちらへ。お前たち、荷物を運んで差し上げなさい」
部下たちは力持ちっぽかったけど、三人がかりで荷車を押し、俺たちが宮殿の離れにある客間に通されるあいだ必死に部屋に荷物を運んでいた。クラウディアさんが優雅にそれを眺めてる。
「ケネス様が戻って来られるまで、こちらで少々お待ちください」
太ったおじさんと部下たちがいなくなると、クラウディアさんが俺に言った。
「暇だからお散歩でもしてきたらどうかしら。ヒース王子のお部屋は西の塔にあるらしいわよ。遅くなったら迎えに行くわ」
「分かった! 散歩してくる!」
葬列を見送ってから数刻後、俺とクラウディアさんは王宮の門の前にいた。門といっても立派な正門じゃなくて、裏通りに面した小さめの門の前だ。小さくても衛兵もいるし検問もあるみたいだけど。
「クラウディア殿ですね。話は伺っておりますが、今、王家の方々はみなさま国葬に参加されていまして」
「そうですわね。でも、鮮度が重要な薬ですから早い方がいいかと思いましたの。ご無理でなければ中で待たせていただけませんか?」
衛兵たちは顔を見合わせて悩んでいたけど、クラウディアさんがケネス王太子の使いの手紙を見せると態度を変えた。荷車に乗せられたたくさんの荷物を検査されることもなく笑顔で門を通してもらえた。
「良かったね」
荷車を引いてクラウディアさんに着いていく。魔法にも何も引っかからなかったし、王宮に入れたぞ。
「カル、あなたは私の従者で普通の青年なのだから、片手で楽々と荷車をひいては駄目よ」
「あっ、ごめん」
「それに、王太子の薬を届けに来たのだもの。通してもらえて当然だわ」
(今は宮廷魔道士がいないから、カルの下手な変身でも見破られなくてすんでるな)
(俺の変身、下手なの? 宮廷魔道士って?)
(この城で一番の魔法使いだ。国王の病気は見て見ぬふりをしていたからケネスの配下だろう。カルの変身は、見た目は上手いが魔力は漏れまくってる。もっとキュッと引き締めないと疑われる)
(キュッと?)
(そう。腹に力を入れてみろ)
言われた通りお腹に力を入れてみた。ちょっとムズムズする。
(うまいうまい。さっきよりマシだ。それでも鑑定魔法には引っかかりそうだが、人間相手なら何も問題ない。念のため宮廷魔道士の前では呼吸にも気をつけろ。俺たちは魔力を息に乗せているからな)
(うん。クラウスは鑑定魔法もバレないの?)
(俺はこの道五百年のプロだぞ。たかが五十年かそこらの魔法使いより魔法には詳しい。鑑定魔法には嘘の情報を送って誤魔化している)
(すごい……)
整備された広い道を通り、城壁の内側を進んでいく。王宮は灰色の石で造られた綺麗な迷路みたいだ。城壁の上には衛兵が等間隔で並んでいる。
「これはクラウディア殿、お薬をお持ちと伺ってお迎えに上がりました」
「まあ、ありがとうございます。このような時にごめんなさい」
通路の向こうから小柄で太ったおじさんが部下を連れてやって来た。身分が高そうなおじさんだ。クラウディアさんにうっとりした視線を向けて、俺のことは睨むように上から下まで眺めた。宮廷魔道士かと思わず息を止める。
「この子は私の店で雇っている荷物持ちなの」
「さようですか。ではお二人ともこちらへ。お前たち、荷物を運んで差し上げなさい」
部下たちは力持ちっぽかったけど、三人がかりで荷車を押し、俺たちが宮殿の離れにある客間に通されるあいだ必死に部屋に荷物を運んでいた。クラウディアさんが優雅にそれを眺めてる。
「ケネス様が戻って来られるまで、こちらで少々お待ちください」
太ったおじさんと部下たちがいなくなると、クラウディアさんが俺に言った。
「暇だからお散歩でもしてきたらどうかしら。ヒース王子のお部屋は西の塔にあるらしいわよ。遅くなったら迎えに行くわ」
「分かった! 散歩してくる!」
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