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三人の王子

19 夕食の時間

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夕食の時間になると、それまで女性姿でおしゃれを楽しんでいたクラウディアさんは、さくっと男性姿に変化した。俺とウィルが食卓に料理を運んでいる間に、地下から持ってきたという瓶をいくつもテーブルに置く。瓶からはとてもいい香りがした。

「お前もチビでも竜のはしくれ。好きだろ?」
「うん! 大好き!」

 お酒だ。間違いない。ジークさんはあまり飲ませてくれなかったけど、たまにスプーンですくって舐めると魔力が倍になったような気がする最高の飲み物。

「ご主人は、商売でもうけたお金で、同じ種族の仲間にお酒を送っているのですよ」
「そうなの?」
「まあ、そうだな。お酒や人間の作った道具を売り、代わりに薬草や鉱物、竜の身体のあれこれを買っている。ただの商売さ」
「それでも大変喜ばれているとか」

 ウィルに褒められてクラウスは少し照れくさそうだった。たしかに、お酒をたくさん送ってもらったら嬉しいだろうなぁ。

「しかしご主人、カル様のような若者に飲ませて大丈夫ですか? いくら人間とは違うと言っても……」
「大丈夫だよ」
「カル、お前ジークから飴をもらったと言っていたな。それを持ってきてくれ」
「いいけど、何で?」

 荷物からジークさんの飴の瓶を取り出して渡すと、クラウスは一粒口に入れた。

「美味しいでしょ?」
「なるほど。お前少量で酔うタイプだな」
「え?」

 クラウスは俺のコップにほんの少しお酒を注いだ。

「これだけ?」
「お前にはそれで充分。大量に飲むと酔って暴れたり、数ヶ月眠る可能性があるからやめておけ」
「そうなの⁉︎」
「さみしいかもしれないが、効率はいい。少しの量で幸せになれるのだからある意味羨ましい」

 暴れると困るし、寝るとますますヒースと年が離れてしまうから、お酒はあまり飲まないようにしよう。残念だな。

「さみしいなら水割りにしろ。これなら大量に飲める。もっと年をとれば飲める量も増えるからそれまでの我慢だな」
「分かったよ」

 美味しいならいいか。
 お酒の水割りを舐めていると、屋上にいたゲイルが階段を降りてきた。

「ゲイルもお酒飲む?」
(オレはいらん。そんなマズイもの飲むのはニンゲンと竜だけ)

 ゲイルは野菜と水があればいいみたいだ。お肉も食べられるけど、それよりは鉱石や土の方が好きだと言っていた。

 夕食の時間、クラウスは今まで知り合った竜や人間の話をおもしろおかしく話してくれた。楽しくて勉強になる。ジークさんは無口だったから新鮮だ。中でも面白かったのは、白竜と人間のお姫様の恋の話、それから黒竜と人間のハーフと、竜殺しの剣を持つ騎士のお話。クラウスはどちらにも会ったことがあるそうだ。竜にそんなに種類がいることも、それぞれ寿命が全然違うことも知らなかった。

「普通は大人になるまで同じ竜の中で暮らすからな。竜としての知識はそこで身につける。お前は生まれた時からはぐれていて、人間に育てられたのだから知らなくても無理はない。ジークに会えたのは幸運だったな。それから俺にも」
「うん、ありがとう」

「明日は国王の葬儀だ。墓所まで葬列が続き、国民も参加することになる。俺についてくれば王子様の姿が見られると思うが、来るか?」
「行く!」

 本当は、悲しんでいるヒースのそばにすぐに行きたいけど、王宮に入れないから明日まで我慢しよう。

「恋愛はエゴと思いやりのぶつかり合いだからな。お前の恋も見届けて後世に伝えてやるよ」

 俺の何倍もお酒を飲んで、クラウスは酔っぱらっていた。楽しそうに見えるけど、少しだけ寂しそうな気がしたのは気のせいかな。


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