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三人の王子

1 手紙の配達

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 付き人になって二日目の朝、俺は熱もすっかり下がり(もともと熱は興奮しすぎたせいだけど)昨日買った新しい付き人の制服に身を包んでいた。
 新しい服を着ると大人になったような気がする。身長も少し伸びたかな。気のせいか。ヒースの身長に追いついたら、簡単に鼻血を出さないだろうし、一緒にお風呂に入れるかも。

 「おはよう、ヒース」

 隣の部屋をノックすると、ヒースはもう起きていた。いつ見ても美人だけど、特に朝見ると今日も一日頑張ろうって思える。白銀の髪がキラキラして、まつ毛も長くてとても綺麗だ。
 しかも俺を見て笑ってくれる。エリオットはどうしてヒースの嫌がることばかりするんだろう。嫌われなければこんなに優しく笑ってもらえるのに。

「今日はゆっくり寝てろと言ったのに」
「大丈夫。元気いっぱいだよ」

 ヒースが俺の制服を見て満足そうだったので、くるっと一回転してみせる。

「似合ってるな」
「ありがとう。朝食の準備してくるね」
「それならもう頼んだよ。カルの分も頼んでおいた。熱を出したばかりだから軽めの食事だけど」

 ううっ、なんて事だ。付き人なのに主人に面倒見てもらってる。
 
「ありがとう……。昼と夜は頑張るよ」
「いいんだ。それよりカル、元気なら授業を受けている間にお前に頼みたいことがあるんだが」
「えっ、何? なんでもやるから言って」

 ヒースは机から折り畳まれた紙を持って来た。中が見えないように蝋で封がしてある。

「ジェイソンに手紙を出そうと思うから、これを町にいる配達人に届けて欲しい」
「配達人?」
「学園のある通りに荷物や手紙を配達する店があるからそこで頼む」
「大切な手紙? 俺が直接届けようか?」

 ケセルジュからヒースの城までなら、ちょっと竜の姿になって飛行すれば一日で行けそうだ。小型の竜になれば目立たないと思う。
 
「定期連絡だから配達人で大丈夫だ」
「分かった」

 それから運ばれて来た朝食を机に並べる。料理に集中して毒がないか確認し、お茶もうまく注いだ。

「カルはどんどん上手くなるな」
「えへへ」

 褒められてすごく嬉しい。でもタイミングが掴めるようになったから、ヒースより先に食事を終えて、ヒースが授業に向かう準備をする間に朝食を片付け、部屋を出る時にはくっついて廊下に出た。すごく付き人っぽい。やるな、俺。

「昼までは講義と魔法の実践訓練だ。その間に手紙を頼むよ。お昼は一緒に食べよう。ところでカルは馬には乗れるのか?」
「えっ、馬?」
「乗ったことがなければ昼から教えるよ。いつも馬車で移動というわけにはいかないからな」
「うん」

 ヒースに教えてもらえるのは嬉しいけど、馬には乗ったことがない。ヒースの城にいた馬たちには警戒されていたからな。俺に乗りこなせるんだろうか。

 教室までヒースにくっついて行ったら、見たことのある女の人が付き人をぞろぞろ連れて俺の前に立ちはだかった。
 
「あなた……二度とヒース様に近づくなと言ったはずよ」
「ええと、誰だっけ? イザ……イザベラ?」
「イザベルよっ!」
「イザベル、何か用?」
「使用人の分際で私に馴れ馴れしい口をきかないでちょうだい」

「イザベル、俺の付き人がどうかしたのか?」
「ああーん、ヒース様。どうしてこんな子を付き人になさったの? はやくやめさせた方がヒース様のためですわ。私の優秀な付き人なら、こんな山育ちの無知な子供よりよほど有能ですのよ」
「衣装を汚して罰をうけていたじゃないか」
「ミスをする付き人はしっかり躾けてますの。怪我をしても回復魔法をかければあとにも残りませんし。それにあれは本人の希望ですわ」

 イザベルはヒースの腕に自分の手を絡ませた。顔を近づけて、高い声でヒースに甘えるイザベルを見ているだけでなんだかムカムカする。俺のヒースじゃないけど、べたべた触られたくない。

「カル、手紙を頼むよ」
「分かった」
「ヒース様、雑用は身分の低い者に任せて、私たちははやく教室に入りましょう」

 イザベルはちらっとこっちを見て、勝ち誇ったように笑った。勝ってないからな。
 
 
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