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王族の付き人

14 君も大変だな

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「とにかくお前が無事でよかったよ」
「エリオットお兄様も本気でヒースお兄様を傷つけたいわけじゃないと思うの。ターニャ様があんな風だから、エリオットお兄様はわがままで口が悪くなってしまったけど、ヒースお兄様のことが好きだから意地悪な態度をとってしまうのよ」
「それはどうかな」
「でも風の癒し魔法を使ったって聞いたわ」
「そこが不思議なんだ」
「ただの気まぐれだろう」
「そんな事ないわ」

 シエラ王女だけはエリオットに優しい。後の皆はそう思ってなさそうだけど。

 話を聞いていたらヴィクターに別室に手招きされた。

「何?」
「君は僕が想像していたよりは勇敢だった。主人を落ち着かせるのもうまい。そこは褒めてやる」
「ありがとう」
「だがあのいびつな菓子はなんだ。お茶は薄くて不味そうだし、あんなのを出したのか」
「全部毒味をしたんだ」
「もっと控えめにやれ。齧ったのをそのまま出すやつがあるか」

 うまく出来たと思っていたけど怒られた。付き人の仕事は奥が深い。

 シエラ王女とハロルドはこの先の対策を夕方近くまで話し合い、その間俺はヴィクターから給仕の特訓と、夕食と入浴の時に付き人が何をするか教わった。

 ヒースの部屋から出て、学生寮にいる専属の従業員を紹介してもらう。彼らは付き人とは違ってその道のプロだ。料理担当や掃除担当、入浴や洗濯にもそれぞれ担当がついている。みんななぜか俺のことを知っていた。従業員棟の一番下っ端の重労働から王子様の付き人に成り上がったと、噂のまとになっているらしい。以前掃除の時に厳しく命令してきた監督官が、ヒースの付き人になっただけで俺に丁寧な態度をとった。

「こちらが王子様のお食事のメニュー表です」
「お部屋の掃除のご命令はいつでもお申し付けください」
「給湯室には専属の従業員がおりますので、お茶や軽食ならそちらでも頼めます」
「雑用や買い出しなら私たちが代わりに行くこともできます」

「分かった。俺はカル。これからよろしくね」

 挨拶したけどみんな無言だった。態度は丁寧だけど、なんだかあまりよく思われていない気がするな。

「俺って嫌われてるのかな」
「妬まれているとは思う。ヒース王子には敵もいるし、王子のファンからは妬まれる。君も大変だな。大きなお世話かもしれないが、この先もずっと王子の近くにいたいなら、君自身のためにも武術を習うことをお勧めするね」

「それはどこで習うの?」

「兵士を目指す人間が通う武術学校がある。入学金が必要だが、どこかのタイミングで通ってもいいかもしれない。付き人でいられるのはこの学園にいる間だけだから。何の資格もなければ王子が卒業したら関係は終わりだ。でもその学校で卒業試験に受かっていれば、将来は護衛兵として堂々と王子の側にいられる。もちろん、護衛兵以外にも侍従長を目指す召使いの学校や職人に弟子入りして料理長になったりする方法もある。王子と知り合いになれたのだから、資格さえあれば王城で雇ってもらえるだろう。君がどうしたいのか考えてみたらいい」

「なるほど。ありがとう」

 護衛兵か。侍従長より向いてそうだな。
 本当は恋人になる方法を教えてもらいたいけど、ヴィクターは教えてくれないだろうな。




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