上 下
70 / 129
王族の付き人

9 かなり不安

しおりを挟む
 朝食を一緒に食べているはずなのに、ヴィクターはさりげなくハロルドのカップにお茶を注いだり、食べ終わったお皿を下げたり、とても自然にこなしている。すごい人だ。

「カル、口の周りに食べ物がついてる」
「あっ、ホントだ」
「これはパンに付けて食べたらいい」
「これ?」
「おい、落としたスプーンは替えた方がいいぞ」
「大丈夫だよ」
「お茶のおかわりするか?」
「あっ、俺が注ぐよ……うわぁ、ごめん」

 俺は逆に何故かヒースにいろいろしてもらって、お茶はこぼすし食器は落とすしで大変だった。ハロルドとヴィクターが呆れた目で見ている気がする。

「王子様に給仕させるなんて大物すぎるな」
「カルを見ていると何故か世話をやきたくなるんだ」
「僕に教えられるか不安がつのるよ」
「ヴィクター、よろしく頼む」

 俺、もしかして付き人失格なのかな。
 朝食が終わったので素早く食器を下げる。今度はうまくいった。

「それから何するんだ?」
「食器を下げ終わったら待機。基本、付き人は主人の邪魔はしない。学生同士でお話をされている時は会話にわって入らない。聞かれた事だけ答える」
「分かった」
「君の主人は王子様だから特に礼儀作法に気をつけた方がいい。礼儀作法って誰かに習った事あるのか? とりあえず基本を教えとくよ。習得できるか君を見る限りかなり不安だけど」
「頑張る」
「まあまあ。ヴィクター、初日なんだからゆっくり教えてやれよ」
「そうはいくか。僕にだって仕事がある。早く覚えてもらわないと困る」
「仕事覚えるの得意だ」
「そう願うよ」

 食後はヒースとハロルドが学園の授業内容や生徒たちの話をしていたので、少し離れた場所でヴィクターと待っていた。ヒースたちの会話の内容は気になるけど、ヴィクターからこの後のスケジュールや一日の仕事内容を教えてもらっていたので聞く暇はなかった。

「君、武術や魔術の心得は?」
「力は強い方だと思う。魔法もできる気がする」
「誰かに師事していたのか?」
「師匠はいたけど」
「何という方だ?」
「ジークだよ」
「聞いたことがないな」
「山菜や鉱石を採って生活してるんだ」
「ご両親は何を?」
「親はいない。育ての親に拾われたんだ」
「ここに来る前は?」
「師匠の山小屋に住んでたけど」
「文字を習ったことはあるのか?」
「ない」
 
 話をしているうちにヴィクターは頭を抱えはじめた。

「どうしたの? ヴィクター」
「ヒースが何故君を付き人にしたのか、本気で分からなくなって来た」
「それは、エリオットが俺を探していて、最初はエリオットの付き人になれって言われたんだ。でも嫌だったからヒースに頼んだんだ」
「なるほど……。それなら納得だな。つまり本来の付き人として雇ったのではなく、暴君の兄から守るためか」
「でも仕事はちゃんとするよ」
「期待しないでおく」

 ヒースとハロルドが授業を受けるため教室に向かったので、途中までついていって二人を見送った。教室にいる生徒の数は少なくて、五人くらいしか見当たらない。待機している付き人の方が多いくらいだ。ヒースにくっついて歩いていると、みんなから見られているのを感じる。俺が誰なのかみんな聞きたそうにしてるけど、ヒースに直接質問してくる人はいなかった。

 




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

腐男子が転生したら超絶美形魔王になっていたので、勇者たん(ガチムチ)をモブ竿役(美形側近)に犯させてしこしこしこしこするよぉ!やっほーーい!

丸井まー(旧:まー)
BL
前世腐男子だった性癖がアレな超絶美形魔王が、可愛い勇者たん(ガチムチ)を側近のモブ竿役(美形ドラゴン)に犯させて、はぁはぁしこしこするだけのお話! ※♡喘ぎです。 ※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。

魔族転生~どうやら私は希少魔族に転生したようで~

厠之花子
ファンタジー
『昔人間、今魔族──見た目幼女の異世界生活』  360°全て緑──森の中で目を覚ました女性は、自身が見知らぬ場所にいることに気づく。しかも記憶すら曖昧で、自分がアラサー独身女しか思い出せないという悲しさ。その上丸腰、衣服すらない状態である。  それでも何とかしようと歩き回っていると一体のドラゴンに出会う。絶望した彼女だったが、そのドラゴンに告げられた言葉で自身が転生したことを知る。  そう、人間族ではない──謎の絶滅を遂げたはずの希少魔族に。だが、彼女は魔法が全く使えなかった。その代わり、手に入れたのはチート能力『魔素変換』。  段々と同族も現れ、溺愛されたり拝められたりと忙しい毎日を送る羽目に。  これは見た目幼女中身アラサーの異世界記である。  ※エブリスタで連載している自作品の改訂版となっております(見切り発車なので所々矛盾点があるかもしれません・・・)  誤字脱字や表現、構成等々まだまだ未熟ではありますが、少しでも読んでいただければ幸いです

攻略対象者やメインキャラクター達がモブの僕に構うせいでゲーム主人公(ユーザー)達から目の敵にされています。

BL
───…ログインしました。 無機質な音声と共に目を開けると、未知なる世界… 否、何度も見たことがある乙女ゲームの世界にいた。 そもそも何故こうなったのか…。経緯は人工頭脳とそのテクノロジー技術を使った仮想現実アトラクション体感型MMORPGのV Rゲームを開発し、ユーザーに提供していたのだけど、ある日バグが起きる───。それも、ウィルスに侵されバグが起きた人工頭脳により、ゲームのユーザーが現実世界に戻れなくなった。否、人質となってしまい、会社の命運と彼らの解放を掛けてゲームを作りストーリーと設定、筋書きを熟知している僕が中からバグを見つけ対応することになったけど… ゲームさながら主人公を楽しんでもらってるユーザーたちに変に見つかって騒がれるのも面倒だからと、ゲーム案内人を使って、モブの配役に着いたはずが・・・ 『これはなかなか… 面白い方ですね。正直、悪魔が勇者とか神子とか聖女とかを狙うだなんてベタすぎてつまらないと思っていましたが、案外、貴方のほうが楽しめそうですね』 「は…!?いや、待って待って!!僕、モブだからッッそれ、主人公とかヒロインの役目!!」 本来、主人公や聖女、ヒロインを襲撃するはずの上級悪魔が… なぜに、モブの僕に構う!?そこは絡まないでくださいっっ!! 『……また、お一人なんですか?』 なぜ、人間族を毛嫌いしているエルフ族の先代魔王様と会うんですかね…!? 『ハァ、子供が… 無茶をしないでください』 なぜ、隠しキャラのあなたが目の前にいるんですか!!!っていうか、こう見えて既に成人してるんですがッ! 「…ちょっと待って!!なんか、おかしい!主人公たちはあっっち!!!僕、モブなんで…!!」 ただでさえ、コミュ症で人と関わりたくないのに、バグを見つけてサクッと直す否、倒したら終わりだと思ってたのに… 自分でも気づかないうちにメインキャラクターたちに囲われ、ユーザー否、主人公たちからは睨まれ… 「僕、モブなんだけど」 ん゙ん゙ッ!?……あれ?もしかして、バレてる!?待って待って!!!ちょっ、と…待ってッ!?僕、モブ!!主人公あっち!!! ───だけど、これはまだ… ほんの序の口に過ぎなかった。

王立学園の清掃委員会

一樹
ファンタジー
平民 の中でも特に底辺扱いとなっている農民出身の主人公が、陰ながら弱きを助け強きをくじく、そんなスクールライフを満喫するお話です。 腐要素有り。苦手な方は自己責任で閲覧か、御遠慮いただきたく思います。

【完結】英雄召喚されたのに色々問題発生です【改訂版】

七地潮
ファンタジー
東堂内 柊一郎は動物に好かれ過ぎる体質だ。 子供の頃は良かったが、大人になると問題も出て来る。 妻が出て行ったのも、体質が理由の一部だった。 「子供の頃は良かった」と、一人自棄酒をして、急性アルコール中毒で死亡。 気がつけば見知らぬ場所。 どうやら英雄として、異世界に召喚されたようだ………え?子供の悪戯ってなに? 何故か幼児になってたり、妖精に取り憑かれたり、妖しい術を使ったり、ケモミミや、モフモフや、英雄の家系のご実家訪問など、わちゃわちゃ日常生活を送る事に。 基本のんびりまったりな、異世界ライフを楽しむ、アラサー幼児のお話です。 基本ギャグですけど、たまにシリアス有り。 残酷な描写も有ります。…R15で大丈夫かな? 腐要素有り。 ※※※※ このお話は、別サイトで以前アップした物を、ネットでも読みやすい様に修正、加筆した物です ※※※※

❤︎転生先はオメガバースハーレムものBLゲーム❤︎

若目
BL
トラックにはねられて転生した先は、オメガバースもののBLゲームの世界だった そのゲームは名前を「めざせ!オメガハーレム!」といって 「きみは大金持ちのイケメンアルファ、有り余る金と精力を駆使して、たくさんのオメガと関係を持ち、番にしまくって孕ませちゃおう!」 などというふざけた内容の成人向けゲームだった。 しかし、前世では大してモテず、経験も一切無いまま死んでしまったオレは、すっかり乗り気だった。 「せっかく転生したんだし、思う存分ヤリまくるぞー!」 こうして、夢のハーレム生活が始まった ※ただヤッてるだけです ※主人公が複数の受けと関係を持ちます ※主人公がややクズ ※男性向け表現多め ※♡喘ぎアリ

副会長様は平凡を望む

BL
全ての元凶は毬藻頭の彼の転入でした。 ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー 『生徒会長を以前の姿に更生させてほしい』 …は? 「え、無理です」 丁重にお断りしたところ、理事長に泣きつかれました。

婚約破棄され、聖女を騙った罪で国外追放されました。家族も同罪だから家も取り潰すと言われたので、領民と一緒に国から出ていきます。

SHEILA
ファンタジー
ベイリンガル侯爵家唯一の姫として生まれたエレノア・ベイリンガルは、前世の記憶を持つ転生者で、侯爵領はエレノアの転生知識チートで、とんでもないことになっていた。 そんなエレノアには、本人も家族も嫌々ながら、国から強制的に婚約を結ばされた婚約者がいた。 国内で領地を持つすべての貴族が王城に集まる「豊穣の宴」の席で、エレノアは婚約者である第一王子のゲイルに、異世界から転移してきた聖女との真実の愛を見つけたからと、婚約破棄を言い渡される。 ゲイルはエレノアを聖女を騙る詐欺師だと糾弾し、エレノアには国外追放を、ベイリンガル侯爵家にはお家取り潰しを言い渡した。 お読みいただき、ありがとうございます。

処理中です...