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王族の付き人

8 ハロルドとヴィクター

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 あまり眠れないまま朝が来た。空が明るくなる前に起きて服を着替える。顔を洗って鏡で確認。変なところはないはず。

 昨日は目を閉じて、隣にヒースがいることを確認してはベッドでゴロゴロして幸せをかみしめた。それに集中しすぎたせいで、目を閉じた時に見える人の光のシルエットがかなり正確に捉えられるようになった。ヒースは間違いなく分かる。反対隣の部屋にも何人か人がいたけど、他の人はそこまで正確には分からない。それでも男か女か、身長や体型までは分かるようになった。

 早起きしすぎたせいですることがないので、ドアの前で待機する。勝手に部屋に行くのはやっぱりまずいかな。ヒースはもう起きているみたいだけど。朝ごはんを手配した方がいいかな。何かしたいけど何していいのか分からない。

 待っているとヒースの部屋に二人ほど誰かがやって来た。どっちも男の人だ。話し声もする。何を話してるんだろう。
 しばらくすると扉がノックされてヒースの声がした。

「カル、起きてるか?」
「起きてる!」

 扉を開けると、ヒースとそれから同い年くらいの青年が二人廊下に立っていた。一人は茶色い髪の頭の良さそうな人。この人は遠くから見たことがある、ヒースの一番仲良くしている貴族の友達だ。その後ろに控えているのはこげ茶の髪の落ち着いた印象の人だ。服装も二人と違ってシンプルで控えめ。

「おはよう。今日も元気だな。紹介するよ、こいつは俺の友人のハロルド。後ろにいるのはハロルドの付き人のヴィクターだ」

 茶髪の人がハロルドで、こげ茶がヴィクターか。ハロルドはヒースほどじゃないけど異性からモテそうな顔立ちをしてる。

「ハロルド、ヴィクター、よろしく!」

 握手した方がいいのかと思って手を出すと、ハロルドが含み笑いで手を差し出して来た。折らないように注意して握手する。

「ヒースに付き人が出来たことも驚いたけど、君みたいな子だとはすごく予想外だ。俺はハロルド。寂しがり屋のヒース王子の唯一の友達ってやつかな」
「ハロルド」
「ヒース、冗談だよ。カル君、よろしくな」

 唯一の友達……羨ましい。

「僕はヴィクター、ハロルドとは幼なじみで子供の頃から付き人をやってる」

 ヴィクターは口調は丁寧だけど、値踏みするような目で俺を上から下まで素早く眺めた。穏やかで落ち着いてるけど隙がない。強そうだな。

「ヴィクター、カルにいろいろ仕事を教えてやってくれ」
「ヒース王子の頼みなら」

***

 朝食はヴィクターが別室に四人分用意してくれていた。この部屋は生徒たちが申請すればいつでも使用できるらしい。複数で食事をしたり、勉強したりいろいろな事に使われる。

「食事の手配、食事中の主人の世話は付き人の仕事だ。ハロルドは僕に給仕されるのを嫌がるからあまり手は出さないが、主人によっては全て任せる人もいる。ヒース王子は、僕の主人と同じでなんでも一人でやりたがる人だ。楽だが従者泣かせとも言える」

 ヴィクターの言葉に高速で頷く。なんでもやってあげたいけど、させてもらえないんだろうな。

「主人と付き人で食事のメニューは違う。主人の料理は毒見されているが、付き人が最終チェックをするとなお良い。君は給仕の経験は?」
「ない」
「では後で教えるよ。基本的な毒の種類や見分け方、解毒薬の使い方なんかも頭に入れておいた方がいい。ヒース王子は解毒魔法が使えるが、口にしないにこしたことはない」

 たしかに。毒はけっこう苦しい。今まで二回毒を受けて来たけど、ヒースにはそんな経験絶対にさせたくない。

「分かった。俺が全部毒見する」
「そんな事しなくていい。お前が毒にあたったらどうするんだ」

 ヒースがそう言うとハロルドとヴィクターが顔を見合わせた。
 俺、時間はかかるけど大抵の毒なら体内で解毒できる気がするんだけど。言っても信用されないかな。

「堅苦しい話は後にして、先に食事にしよう。カル君は付き人初日なんだから、細かいことはあまり気にせずに一緒に食べようか」
「うん」

 ヒースの隣の席に座ると、ヴィクターがやれやれという顔をした。









 
 
 
 
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