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王族の付き人

6 夢の生活の始まり

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「え、何て言ったの?」
「付き人にしてもらえたんだ」
「え? 本当か?」

 大部屋の寝室に戻って少ない荷物をまとめていると、トムが仕事から帰ってきたから報告する。

「まさか……」
「ヒース王子だよ。しつこく言ってたら付き人にしてくれた」
「嘘だろ~。お前、ズルいよ。うわぁぁ、羨ましい!」
「トム、部屋は移動するけど、ずっと仲良くしてくれよな」
「お、おう……。いや、俺のこと忘れないでくれ。何か美味しいものとかもらったら俺にもおこぼれを!」
「分かった」
「お前、すげえよ。お前ならなにかやるような気がしてた」
「そんなことないよ。皆にもよろしく言っといて」

 笑顔でトムに手を振る。トムは笑ったような困ったような変な表情をしていた。もしかして誰かの付き人になることに憧れていたのかも。新入りの俺が付き人になったから複雑な気分なのかな。でもヒースの付き人は誰にも譲れない。この賑やかな部屋を移動して、石運びや洗濯や掃除が出来なくなるのは少しだけ寂しいけど。

***

 古い従業員用の建物から豪華な生徒用の宮殿に歩いていく。一階の警備員に話して中に入れてもらうと、一階にある生徒用の個室でヒースが待っていた。

「荷物持ってきた」
「荷物、それだけなのか」
「うん」
「ご飯は食べたのか?」
「まだ」
「では食堂で何か頼んで行こう」

 食堂につくと、ヒースが料理人にいくつか料理を頼む。出来たら部屋まで持ってきてくれるらしい。こういうの、付き人の仕事じゃないのかな。

 ヒースの部屋は五階の一番端に位置していた。一度だけ来た時は緊張して道順なんてあまり覚えていなかったけど、今は少しだけ心に余裕がある。

「廊下の一番端にはエリオットの部屋があるから気をつけろよ」

 廊下はずっと奥まで続いてる。途中でカーブしているし、階段もあるので、あまり顔を合わせなくてすむみたいだ。

「まだ仲悪いの?」
「向こうが俺を嫌ってる。俺も正直、あまり好きじゃない。エリオットは昔から弱いものに冷たい」
「違う学校にしたらよかったのに」
「王族が通える学校はここしかないからな。父や長兄も通った伝統的な学園らしいし」

 話しているうちにヒースの部屋の前に到着した。

「俺の部屋はここ。一度来たことがあるから覚えてるだろ。お前の部屋はこっち。少し狭いけどな」

 付き人用の部屋はヒースの部屋より狭かったけど、小さいベッドや衣装箱、机や椅子、隣にはトイレと小さなお風呂もついていた。大部屋で何十人かと共同生活していた俺には十分な広さだ。それに個室だからうっかり竜に戻っても誰にも見つからない。

「掃除させてないから埃っぽいな」
「掃除ならやるよ」
「それに制服も必要か」
「服なら二枚持ってるよ」
「いや、付き人の制服を用意するのは学生の役目だから俺が準備する。他にもいろいろ揃えないとな」
「やったぁ!」
「そんなに嬉しいのか?」
「ヒースに貰えるものはなんでも嬉しい。俺、付き人の仕事頑張るよ」
「ほどほどに期待しとく。明日友人の付き人を紹介するから、そいつから仕事をならってくれ」
「うん」

 こうして俺の夢みたいな生活が始まった。



 

 




 
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