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学園潜入

10 懐かしい匂い

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 トムも帰って作業場には誰もいなくなった。もう少ししたら消灯時間かな。監督官に言われたところまでは終わったけど、もう少しやろうか悩む。
 灯りをもらってないから消灯になったら真っ暗だけど、俺は竜だし、目を閉じた方が周りがよく見えるという特技もあるから困ることもない。石を並べるのは下手だけど。
 それともこっそり小型の竜になって建物に侵入するとか。いやいや、ジークの教えをいきなり破るのも弟子としてどうなんだ。

「うーん……」

 目を閉じて悩んでいると、一つの光が近づいて来た。監督官かな? それとも見回りの警備兵?

「やっぱりお前か」
「ヒ……ヒース?」

 灯りを持って立っていたのはヒースだった。あれ? もしかしてこれ夢かな。なんで王子様がここに? もうすぐ消灯時間だけど。

「まだ一人で作業してる従業員がいるって聞いたから、なんとなくお前じゃないかと思った。上官に怒られたんだろう。それで作業させられてるのか?」

「うん」

「庭園の改装はわがままな貴族が勝手に言い出したことだから、夜中までやる必要はない。お前ももう戻って寝ろ。上官には俺が伝えておく」

「ありがとう」

 初めて会った庶民のために、わざわざ寝る前の自由時間を使ってくれるなんて、やっぱりヒースは優しいな。でも帰って寝るのはおしい。せっかくヒースに会えたのに。

「ほら、灯りをやるから持っていけ」
「暗くても見えるから大丈夫だ」
「暗くても見える?」

 しまった。つい本音が。

「ええと、山育ちで……暗いのには慣れていて、その」

 焦ってると、お腹がぐうっと鳴った。干し肉一つじゃちょっと物足りなかったな。

「もしかして食事も抜きなのか」
「大丈夫。干し肉を一つ食べたから。お腹がすいたら庭園の雑草とか鉱石を……」

 ヒースはため息をついて手招きした。

「何か食べさせてやるからついてこい」

***

 夢じゃないだろうか。
 俺はヒースにくっついて、宮殿みたいな建物の上階にやって来ていた。宮殿の一つは学校で、もう一つが生徒達の寮になってることを中に入って初めて知った。二階部分までは廊下で繋がってる。宮殿の中は豪華で、広い廊下に広い階段。絨毯なんかも敷かれていて、従業員の建物とは別世界だ。それでもヒースに案内された部屋は、広さはあったけど中はそこまで豪華じゃなかった。

「ここは俺の部屋だ。食堂で何か作ってもらうからそのあたりに座って待ってろ」

 ヒースはそう言い残して部屋を出て行った。座ってろって言われたけど、俺の服は汚れてるし、綺麗なソファーに座るのは気が引ける。

 でも、なんだか懐かしいな。
 ここは昔一緒に住んでいたヒースの部屋によく似てる。ヒースは豪華な装飾があまり好きじゃなかった。それにきちんとしているように見えて案外雑なところも昔と同じだ。勉強用の机には本が乱雑に積み上げられている。
 部屋は二つ続いていて、奥の部屋は寝室みたいだ。入ったら怒られるかな。少しの間だけ、竜の姿になってベッドに潜り込みたい。いやだめだ。ジークの教えを破ったら。でも匂いを嗅ぐくらいならいいかな。

 あれ? なんだかヒースの匂いとは別の、よく知っているような匂いが一つ混ざってる。ジェイソンでもない。衣装箱の近くからわずかにその匂いがする。

 衣装箱に近づくと、上に小さな木の箱が置いてあった。匂いのもとはこれだ。ダメだと思いながらも抑えきれなくて箱を開ける。

 中から出て来たのは小さな服だった。俺が生まれたばかりの頃、世話係のおばちゃんに縫ってもらったエプロンみたいな服。これ、ずっと大事にしてたのに、魔物と戦う時に落としたんだ。お墓の中には入ってなかったから捨てられたんだと思っていたけど、ずっとヒースが大事にもっていてくれたんだな。


 






 
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