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学園潜入
7 石運び
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新しい朝が来た。昨日の夜、こっそり偵察に出かけようと思ってたのに熟睡してしまった。人間社会に紛れ込んで緊張してたのかな。
「おはよう、トム」
「はよー……」
トムは寝起きが悪いみたいだ。痩せてるし体力なさそうだから力仕事がキツいんだろうな。身体が痛いとぶつぶつ言ってる。
「ご飯食べに行こう。今日は何の仕事かな」
「あーキツイ……」
トムを引きずるようにして食堂に行き、ご飯をたくさん食べて監督官のもとに集合。今日は昨日とは別の場所で石を運ぶみたいだ。現場に行って気分が上がる。今日働くのは宮殿みたいな学生用の建物の横だ。渡り廊下とか、勉強している部屋の一階部分なら中を見る事も出来そう。今日は力を抑えて、出来るだけこの現場に長時間いるようにしよう。
学生が歩く庭は石畳になっていて、今回はその石畳の石を敷き詰めるのが仕事。俺は力はあるけどあまり器用じゃないので石の運搬ばかりすることにした。ついでに教室の方をちらちら見るけど、ヒースの姿は見えなかった。一階にはいないのかな。力仕事は平気だけど、掃除係になって建物を掃除した方が会える確率があがるかもな。
お昼前に荷車で石を運んでいると、近くの大きな池の中に人が立っているのが見えた。
白い雪の月は終わったけど、まだ人間には寒い季節だ。池で水浴びなんて珍しいな。
石を運んでもう一度戻って来た時にもその人は池の中に立っていた。腰まで水に浸かっていて、よく見れば着ている服もびしょ濡れで震えている。遊んでるわけじゃなさそう。
「何してるんだ?」
池のそばには監督官がいないので、気になって声をかける。池の中に立っていた若いお兄さんは俺を見てビクッと震えた。でも、無言のままうつむく。
「そんなところにいると風邪ひいちゃうぞ」
声をかけても返事はない。
気になったから、戻って石を並べていたトムに聞くことにする。同じ人間なら理由が分かるかも。
「ああ、どうせ偉い学生の付き人かなんかだろ」
「付き人?」
「何かやらかして罰を受けてるんだよ。関わると面倒だから放っておいた方がいい」
「風邪引くかも」
「さすがに命までは取らないから大丈夫だろ。よくある事さ。立場の強いやつが弱いやつをいじめ、さらにいじめられたやつがもっと下の立場の人間をいじめるってやつだ」
そんなものなのか。人間は頭が良くて高度な文化を持っているし、文字や言語も発達してるからお互いに意思疎通が出来る。でも頭がいいせいで潰し合いのバリエーションも他の種族より複雑なんだな。
「ちょっと見てくる」
「おい、カル! 関わらない方がいいぞ」
近づくとまだお兄さんは池の中に立っていた。顔色は真っ青だ。寒そう。
口を開いて魔力を息に乗せる。軽い魔法ならきっと誰にも気づかれないはず。とりあえず乾いた暖かい風を送ってお兄さんの服を乾かす。力の調整が難しい。自然に乾燥したように見えないと不自然だから集中力が必要だ。それから回復魔法を送ればいいかな。
「何してる」
しまった。仕事をサボっているのがバレたかな。それとも魔法がバレた? ちょっと集中していたから人が近くにいるのに気づかなかった。監督官だと思って焦って振り向いたら違ってた。
「……」
渡り廊下からこっちを見ていたのは、高そうな服を着た学生だった。
背が高くて、端正な顔立ち。想像より低い声。そしてその人の髪は、白と銀と灰色をほどよく混ぜたような、忘れられない色だった。
「おはよう、トム」
「はよー……」
トムは寝起きが悪いみたいだ。痩せてるし体力なさそうだから力仕事がキツいんだろうな。身体が痛いとぶつぶつ言ってる。
「ご飯食べに行こう。今日は何の仕事かな」
「あーキツイ……」
トムを引きずるようにして食堂に行き、ご飯をたくさん食べて監督官のもとに集合。今日は昨日とは別の場所で石を運ぶみたいだ。現場に行って気分が上がる。今日働くのは宮殿みたいな学生用の建物の横だ。渡り廊下とか、勉強している部屋の一階部分なら中を見る事も出来そう。今日は力を抑えて、出来るだけこの現場に長時間いるようにしよう。
学生が歩く庭は石畳になっていて、今回はその石畳の石を敷き詰めるのが仕事。俺は力はあるけどあまり器用じゃないので石の運搬ばかりすることにした。ついでに教室の方をちらちら見るけど、ヒースの姿は見えなかった。一階にはいないのかな。力仕事は平気だけど、掃除係になって建物を掃除した方が会える確率があがるかもな。
お昼前に荷車で石を運んでいると、近くの大きな池の中に人が立っているのが見えた。
白い雪の月は終わったけど、まだ人間には寒い季節だ。池で水浴びなんて珍しいな。
石を運んでもう一度戻って来た時にもその人は池の中に立っていた。腰まで水に浸かっていて、よく見れば着ている服もびしょ濡れで震えている。遊んでるわけじゃなさそう。
「何してるんだ?」
池のそばには監督官がいないので、気になって声をかける。池の中に立っていた若いお兄さんは俺を見てビクッと震えた。でも、無言のままうつむく。
「そんなところにいると風邪ひいちゃうぞ」
声をかけても返事はない。
気になったから、戻って石を並べていたトムに聞くことにする。同じ人間なら理由が分かるかも。
「ああ、どうせ偉い学生の付き人かなんかだろ」
「付き人?」
「何かやらかして罰を受けてるんだよ。関わると面倒だから放っておいた方がいい」
「風邪引くかも」
「さすがに命までは取らないから大丈夫だろ。よくある事さ。立場の強いやつが弱いやつをいじめ、さらにいじめられたやつがもっと下の立場の人間をいじめるってやつだ」
そんなものなのか。人間は頭が良くて高度な文化を持っているし、文字や言語も発達してるからお互いに意思疎通が出来る。でも頭がいいせいで潰し合いのバリエーションも他の種族より複雑なんだな。
「ちょっと見てくる」
「おい、カル! 関わらない方がいいぞ」
近づくとまだお兄さんは池の中に立っていた。顔色は真っ青だ。寒そう。
口を開いて魔力を息に乗せる。軽い魔法ならきっと誰にも気づかれないはず。とりあえず乾いた暖かい風を送ってお兄さんの服を乾かす。力の調整が難しい。自然に乾燥したように見えないと不自然だから集中力が必要だ。それから回復魔法を送ればいいかな。
「何してる」
しまった。仕事をサボっているのがバレたかな。それとも魔法がバレた? ちょっと集中していたから人が近くにいるのに気づかなかった。監督官だと思って焦って振り向いたら違ってた。
「……」
渡り廊下からこっちを見ていたのは、高そうな服を着た学生だった。
背が高くて、端正な顔立ち。想像より低い声。そしてその人の髪は、白と銀と灰色をほどよく混ぜたような、忘れられない色だった。
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