ちびドラゴンは王子様に恋をする

カム

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学園潜入

6 お風呂

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 従業員達の仕事が終わるのは、だいたい日没頃。もちろん仕事によって時間差はあるけど。仕事の後はご飯かお風呂だから、お風呂場が混むのは日没から消灯までの間だ。
 トムに誘われてお風呂場に来たけど、大勢の人間たちを見てやっぱり断れば良かったと思った。ここでドラゴンになっちゃったらどうしよう。牢屋から脱出した時を思い出してネズミみたいに小さくなって逃げるべきかな。

 おそるおそる服を脱いで、帽子がわりに頭にタオルを巻く。大丈夫かな、変じゃないかな。尻尾もでてないし、肌も人間と変わらないはずなんだけど。
 裸の人間の男が大勢いてドキドキする。じろじろ見たけど、俺と作りは同じだ。ジークさんほどゴツい人はなかなかいないな。でも俺ほどつるんとしてる人も少ない。俺は髪の毛も短いせいか、あちこちの毛も薄くてそんなに生えていない。魔力が上がれば毛むくじゃらになれるのかな。それもなんとなく嫌だけど。

「カル、お前もしかして」
「えっ?」

 トムが桶を持ったまま、俺をじっと見てる。もしかして竜だとバレたのか?

「南方の出身なのか? 肌の色が少し違うし、髪も赤茶色だし」
「へ、変かな?」
「いや、珍しいと思ってさ」

 竜だとバレたんじゃなかった。
 ほっとしていると、トムがニヤニヤしながら続けた。

「それにお前まだ子供だろ」
「子供? いや一応一人前だけど」
「いやいや、そういう意味じゃなくてさ。経験したことないだろ」
「何を?」

 聞いてもトムは教えてくれなかった。やっぱりなとか言いながら笑ってる。竜の俺には分からない話なのかな。子供扱いされてなんとなくムッとする。角だって短いけど生えてるし、竜は生後一年たてば大人なんだぞ。

 でも、こんなやりとりを前世でもしたような気がするな。前世では人間だったし、いろいろ経験したはずなのに、生まれ変わるたびにあれこれ忘れてしまうってどうにかならないかな。

 ここのお風呂はサウナみたいで、お湯のはられた浴槽は小さく、それに対して利用する人数は多い。だからみんな桶に少しのお湯をもらってそれぞれの場所で洗ってるだけみたいだ。俺もお風呂の隅にいってさっさと洗ってしまおう。

 お風呂が終わると寝る時の服に着替えて、今日着ていた服はお風呂場の外で洗濯させてもらった。洗濯物は決められた場所に出しておけば担当の人が洗ってくれるみたいだけど、傷んだり無くなったりする事も多いから、大事な服は自分で洗った方がいいとトムが教えてくれた。俺のはジークさんと買いに行った大事な服だから自分で手洗いする。かなり汚れたから明日は支給された作業服を着て働こう。

 寝室に戻ると、部屋のみんながトムの二段ベッドの上を俺用にあけてくれた。みんな新入りの俺に優しいな。
 そこから消灯時間までの間が少ない自由時間だ。みんなベッドの上や廊下や外で好きなように過ごしてる。
 俺は小屋から背負ってきた布製の丈夫な鞄をベッドの端に置いて、中から瓶入りの飴玉とヒースのマントで作った枕カバーを取り出した。この二つが俺の宝物。

 瓶の中のたくさんの飴玉はジークさんが作ってくれたものだ。花の蜜と砂糖と薬草、それにほんの少しのアルコールを足した体力も魔力も回復する特別製の飴玉。くんくん匂いを嗅いで、金色に輝く一粒をぺろっと口に含む。大事に食べようと思ってたけど、初日だからいいよな。口の中に広がる甘さとほんの少しのお酒の味。とても美味しくてしびれる。

 少しずつ飴をなめながら、枕カバーに突っ伏してヒースの事を考えた。会えないけどすぐ近くにいる。明日は会えるかな。早く会いたいな。


 
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