49 / 129
学園潜入
5 食堂
しおりを挟む
学園で働いている一般の人たちは、学生とは衣食住が完全に分けられているみたいだった。あの宮殿みたいなキラキラした建物が王族や貴族用で、ちょっと地味な建造物が一般庶民の従業員用。教師と学生の付き人はもう少し待遇がいいらしい。
「食堂と寝る場所はこっち」
トムに教えられて地味な従業員用の建物に連れていかれる。案内された寝室は二段ベットがたくさん並ぶ大部屋で、お風呂もトイレも共同。お風呂が共同って、ちょっと不安だな。
食堂は広くて、テーブルと椅子がたくさん並んでる。おばちゃんたちが大皿に料理を盛り付けてくれるけど、無くなったら終了だから争奪戦になるらしい。仕事が長引いて食べ損ねる人たちもいるとか。もちろん学生とは食事内容が別。
「今日はお前のおかげで食事にありつけたぜ」
「料理の種類も豊富だ」
「明日も頼むよ」
一緒に働いていた人たちから、頭をぐりぐり撫でられた。ちょっとだけヒヤリとする。俺の額には角があって、普段は帽子と魔法で隠してるけど、気を抜くとたまに出てる時があるから。
並んで料理を受け取ると、トムの隣に座る。お腹が空いているから、大皿いっぱいの料理でもすぐに無くなりそうだ。野菜がメインでお肉は少しだけど味は悪くない。
「お前なんであんなに力強いの? びっくりしたぜ」
「うん。そういう家系だからかな……みんな力持ちなんだ」
適当に誤魔化したけど、トムは納得してくれた。
「まるで魔法を見てるみたいだった。実は魔法を使えるとか? そんなわけないか。それならもっといい仕事につけるもんな」
「魔法じゃないよ」
魔法も使えるけど、仕事は身体を使った方が楽しいから何もしていない。
「これでしばらく暇ならいいけど、どうせまたすぐに呼ばれるんだろうな」
「何で庭があんなに壊れてたの?」
素直な疑問を口にすると、みんなが意味深な視線を投げかけて来た。トムが小声で教えてくれる。
「新入りは知らないと思うけどさ、学生の偉い方の中に癇癪をお持ちの凶暴なお方がいてさ……」
「凶暴?」
「その方は気に入らない事があると魔法をぶっ放すんだ。学園内では有名で、付き人も何人も医療所送りにしてる。でも身分の高い方だから教師も逆らえない。唯一、兄弟と妹だけが口を挟めるらしいけど」
「大変なんだな」
「そう。だから今日庭を綺麗にしても、明日にはまたどこかが壊れている可能性があるのさ。やってられないけど、その方の付き人よりはマシかな」
それで何人も辞めちゃうのか。
「カルも気をつけろよ。学園内で見かけても、頭を下げて見ないように、視界に入らないようにするんだ」
「なんていう人?」
ここでトムは一段と声量を落とした。
「エリオット様っていうんだけど」
ん? なんだか聞いたことのある名前だな。
「この国の第二王子なんだ。淡い茶髪で、目の色は青。高そうな衣装を着て、偉そうな態度で取り巻きを連れているからすぐに分かるよ」
思い出した。あのエリオットか。何故かすっかり忘れていた。あの意地悪な性格は五年経っても治ってなかったんだな。それもそうか。俺が作ったちっちゃいハゲ、まだあるのかな。見てみたい。
「お前、何にやついてんの?」
ハゲを思い出していると、トムに不思議がられた。
「食堂と寝る場所はこっち」
トムに教えられて地味な従業員用の建物に連れていかれる。案内された寝室は二段ベットがたくさん並ぶ大部屋で、お風呂もトイレも共同。お風呂が共同って、ちょっと不安だな。
食堂は広くて、テーブルと椅子がたくさん並んでる。おばちゃんたちが大皿に料理を盛り付けてくれるけど、無くなったら終了だから争奪戦になるらしい。仕事が長引いて食べ損ねる人たちもいるとか。もちろん学生とは食事内容が別。
「今日はお前のおかげで食事にありつけたぜ」
「料理の種類も豊富だ」
「明日も頼むよ」
一緒に働いていた人たちから、頭をぐりぐり撫でられた。ちょっとだけヒヤリとする。俺の額には角があって、普段は帽子と魔法で隠してるけど、気を抜くとたまに出てる時があるから。
並んで料理を受け取ると、トムの隣に座る。お腹が空いているから、大皿いっぱいの料理でもすぐに無くなりそうだ。野菜がメインでお肉は少しだけど味は悪くない。
「お前なんであんなに力強いの? びっくりしたぜ」
「うん。そういう家系だからかな……みんな力持ちなんだ」
適当に誤魔化したけど、トムは納得してくれた。
「まるで魔法を見てるみたいだった。実は魔法を使えるとか? そんなわけないか。それならもっといい仕事につけるもんな」
「魔法じゃないよ」
魔法も使えるけど、仕事は身体を使った方が楽しいから何もしていない。
「これでしばらく暇ならいいけど、どうせまたすぐに呼ばれるんだろうな」
「何で庭があんなに壊れてたの?」
素直な疑問を口にすると、みんなが意味深な視線を投げかけて来た。トムが小声で教えてくれる。
「新入りは知らないと思うけどさ、学生の偉い方の中に癇癪をお持ちの凶暴なお方がいてさ……」
「凶暴?」
「その方は気に入らない事があると魔法をぶっ放すんだ。学園内では有名で、付き人も何人も医療所送りにしてる。でも身分の高い方だから教師も逆らえない。唯一、兄弟と妹だけが口を挟めるらしいけど」
「大変なんだな」
「そう。だから今日庭を綺麗にしても、明日にはまたどこかが壊れている可能性があるのさ。やってられないけど、その方の付き人よりはマシかな」
それで何人も辞めちゃうのか。
「カルも気をつけろよ。学園内で見かけても、頭を下げて見ないように、視界に入らないようにするんだ」
「なんていう人?」
ここでトムは一段と声量を落とした。
「エリオット様っていうんだけど」
ん? なんだか聞いたことのある名前だな。
「この国の第二王子なんだ。淡い茶髪で、目の色は青。高そうな衣装を着て、偉そうな態度で取り巻きを連れているからすぐに分かるよ」
思い出した。あのエリオットか。何故かすっかり忘れていた。あの意地悪な性格は五年経っても治ってなかったんだな。それもそうか。俺が作ったちっちゃいハゲ、まだあるのかな。見てみたい。
「お前、何にやついてんの?」
ハゲを思い出していると、トムに不思議がられた。
12
お気に入りに追加
832
あなたにおすすめの小説
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
寡黙な男はモテるのだ!……多分
しょうわな人
ファンタジー
俺の名前は磯貝澄也(いそがいとうや)。年齢は四十五歳で、ある会社で課長職についていた。
俺は子供の頃から人と喋るのが苦手で、大人になってからもそれは変わることが無かった。
そんな俺が何故か課長という役職についているのは、部下になってくれた若者たちがとても優秀だったからだと今でも思っている。
俺の手振り、目線で俺が何をどうすれば良いかと察してくれる優秀な部下たち。俺が居なくなってもきっと会社に多大な貢献をしてくれている事だろう。
そして今の俺は目の前に神と自称する存在と対話している。と言ってももっぱら喋っているのは自称神の方なのだが……
某国の皇子、冒険者となる
くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。
転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。
俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために……
異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。
主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。
※ BL要素は控えめです。
2020年1月30日(木)完結しました。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。
みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。
男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。
メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。
奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。
pixivでは既に最終回まで投稿しています。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる