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学園潜入

3 職業斡旋所

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 ケセルジュの職業斡旋所は広かった。木製のカウンターには受付の人が何人かいて、壁の掲示板には募集の張り紙がたくさん。ペシルの町の斡旋所とは全然違う。
 ここで少しお金を払えばいろいろな仕事を紹介してもらえる。
 
「魔法学園の仕事ありますか?」

 受付のお兄さんに聞くと、たくさんの紙の束からいくつか出してくれた。

「君いくつ? 学園の仕事の募集は常にあるけど、おすすめしないよ。どれもこれも体力や忍耐力が必要な物ばかりだし、給料もそれほど高くない。住み込みだから衣食住には困らないけど、休みも少ないし皆すぐに辞めるんだ。宮殿の掃除や市場の荷物運びの方が給料もいいし楽だと思うけど。何か得意なことがあれば、もっといい職業も紹介できる。読み書きができるとか、魔法が使えるとか」

「学園がいい。十五歳だけど、体力には自信あるよ」

「それほど言うなら止めないけど。今ある仕事の募集はこの三つかな」

 お兄さんに手渡された紙に目を通す。一つは学園内の庭園の修復作業、もう一つは学園内の掃除、最後の一つは学生の付き人だった。

「学生の付き人って?」
「それはね、ここだけの話、高貴な方の学園内の世話係だよ。学園には実家からの召使いを連れて入れないから、学園に在籍している間だけ専属で雇うんだ」
「高貴な方って、王子様とか……?」

 もしかしたらヒースの世話係になれるかも。そうなれたら最高に嬉しい。

「そうかもしれないけど、それは一番お勧めしない。前回紹介した子は、大怪我をして医療所に送られた」
「え? 何で?」
「分からないが、高貴な方々の世界は私たちが思っている以上にドロドロしているらしい」

 ドロドロ? 泥?

 「まあ、紹介状を渡すから、学園に行って選ぶといい」

 お兄さんに紹介状をもらった。もう宿を決めるのも面倒だから、即学園に持っていこう。

***

「またお前か。牢に入れるぞ」
「違うよ。働こうと思って来たんだ」

 守衛のおじさんに紹介状を振ってみせて、ようやく学園の門は開かれた。

 「まっすぐ行って左の建物だ。紹介状を見せれば仕事を貰えるだろう」

 中は広かった。門の先には一直線に広い石畳みの道が続いている。左右には植物園のような庭や池や遊歩道があって、奥の方には宮殿みたいな美しさの建物がいくつか並んでいた。

 今は勉強時間じゃないのかも。庭園では高価な衣装を着た女の人が数人固まって話していた。多分学生だよな。

 まっすぐ歩いて左に見えた建物に向かう。正面と右の宮殿に比べると見劣りがする。色の地味な建築物だ。

 久々にやるか。
 仕事に就く前に目を閉じて、周囲の建物をモノクロで捉える。建物の中には大勢の人々が歩いたり、移動したり、一箇所に留まったりしている。
 魔法のかけられたエリアが数カ所。それに今、攻撃的な魔法を使用している人がいるみたいだ。授業でならうのかな。氷の魔法じゃなくて、風の魔法だからヒースじゃないな。範囲が広すぎてヒースの気配は掴めない。もう少し建物を移動してヒースを探そう。



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