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学園潜入
1 旅立ち
しおりを挟む「忘れ物はないな」
「うん。大丈夫だよ」
今日は山小屋を出る日だ。ここ数ヶ月ですっかり心配症になったジークさんに、お別れを言う日。
初めて人の姿でペシルの町に泊まってから何十日も過ぎ、暖かい季節になって山には雪が降らなくなった。あれから俺は何度かペシルの町へ行き、簡単な仕事もしたし、ジークさんと小さな依頼を受けて冒険家の見習いみたいな事もやった。
人の姿に変身するのも上手くなって、少しくらいの動揺なら変身が解ける事もない(人間と一緒にお風呂は自信ないけど)
仕事で貯めたお金をジークさんに渡していたのに、おじさんはそれを使わずに、俺の旅の資金にまわしてくれた。
「ジーク、本当にありがとう」
「何かあったら、すぐに帰ってこい。ここをお前の家だと思ってな」
ジークさんがそんな事をいうから、視界が少しだけ滲んだ。ドラゴンの時は涙なんて滅多に出ないのに、人間の姿をしていると何故か涙腺が緩みやすい。
「時々は帰ってくるよ。お酒をたくさん買って。だからジークも元気でね」
背伸びをして腕をまわして、ジークさんのがっしりした身体を抱きしめた。
「地竜だから頑丈にできてる。俺のことは心配せず、自分のことをしっかりやれ」
「うん」
「でも酒は期待してるぞ」
「分かった」
町まで送るというジークさんの誘いを断って歩き出す。何度か振り返って小さくなる山小屋とジークさんに手を振った。寂しいけど、帰る家があるっていいな。
ジークさんは俺にとって師匠であり、お父さんみたいな、にいちゃんみたいな存在だった。
***
歌いながら山を歩き、人目につかない間は変身して崖や峡谷を飛び越え、途中の湖で水浴びをして遊び、夜は野宿をして、ようやく王都の西側にある大きな町へたどり着いた。
町をぐるりと囲んでいる外壁がまず大きい。ここは地図によると『ケセルジュ』という町で、その中心には複数の宮殿、魔法研究所や市場、それに王族や貴族の通う有名な学校がある。
そう、俺の目的はここの学校に入っているヒースに会うこと。
この大きな町のどこかにヒースがいると思うだけでキラキラ輝いて見える。
「こんにちは」
得意になった言葉と笑顔で門番に挨拶をし、城門をくぐろうとすると止められた。
「年齢と出身地を言え。この町に来た目的は? それと荷物を見せろ」
厳しいな。偉い人がたくさん住んでいるからかな。
「俺はカル。いい名前だろ? 年は十五歳でここには仕事を探しに来た。出身はペシルの町近くの山だ」
うんうん。俺も人間らしくなれたな。秘密を守るための嘘が上手くなった。本当は一歳半で大人だけど、俺は人間だとこのくらいの年に見えるらしい。不本意だけどヒースと同い年なら良しとする。それに年が若い方が警戒されないとジークが言ってた。
「よし、通れ」
ジークの言った通り、俺の背負った荷物をちらっと見ただけで門番たちは俺に通行の許可を出した。町は楽勝だ。この調子で学校にもなんとか潜り込みたい。早くヒースに会いたいな。
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