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山小屋の主

2 箱の中

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 真っ暗だ。
 身体が石みたいに固くなって冷え切ってる。どこか動かせるところはないか探ってみるけど、狭くてうまく動かない。
 息を吐いて回復魔法を使う。魔力はほんのわずかしかなかった。その少しを身体に行き渡らせる。幸い毒はもう身体からなくなっている気がした。誰かが毒を消してくれたんだろうか。何も分からない。ここがどこかも。でも身体を動かすのにエネルギーが足りない。お腹が空いてるから、何か食べないと力が出ない。

 目を閉じてじっとして、魔力が少し溜まったら息を吐いて身体を回復させた。
 身体の感覚が徐々に戻ってくる。まず俺は何か布に包まれている事が分かったし、嗅覚が少し戻ったので、その布からヒースの匂いがすることに気づいた。

 これ、多分ヒースの着ていた服かマントだ。あと、それに混ざって俺の大好きな干し肉の匂いもする。顔を動かして干し肉を探し、口の中に入れた。かなり湿っていてあまり美味しくない。カビの生えたような変な味がする。それでも貴重なエネルギーだ。お腹の中に何か入れると、魔力がかなり復活した。目を閉じたままでも周囲の様子がモノクロで見えるあの能力が戻ってきた。これで真っ暗闇じゃなくなった。

 まず俺はヒースの服に包まれて、それから使っていたかごの中に入っている。愛用のクッションもある。その外には、四角い箱がある。だけど何故か、俺が入った箱があるのはヒースの部屋でも城の中でもなかった。
 周りには何もない。時々光の反応があるけど、それは人の大きさではなく、虫や小動物だ。反応も少ない。
 道もないし、建物もない。近くに森があって、沢山の木々がある。

 と、いうよりも……どう考えても俺は地下にいるような気がする。ここ、地面の中なんじゃないのか?

 箱には探した感じ出口がない。
地面から箱の位置までは俺の身長三つ分ほどの深さがある。その上に、石で何か蓋みたいな物が置いてある。何だろう、これ。

 どうやって外に出ようか。ここを突破するのは今の俺にはかなりきつい。だけど、少ないエネルギーでも頑張らないと、そのうち息をするのが苦しくなりそうだ。

 頭の中に最適な魔法を思い浮かべる。やっぱり爆発だな。俺自身を燃やすことのない炎の魔法。ヒースの服やかごを燃やしてしまうかもしれないからやりたくないけど、ほかに思い浮かばない。ここから出られないと、多分すぐに雲の中に戻って、あの白い建物に入らないといけなくなる。出来るだけ真上に向かって魔法を放出しよう。

 よし、やるぞ。
 俺は箱の中で上を向き、力を込めて息を吐いた。
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