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成長

6 ささやかな報復

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「なんだよ、ただの冗談だろ。死ななかったんだから文句言うなよ。袋しか破らなかったんだからさ」

 いやいや、俺が防御魔法使ったから死ななかっただけだろ。口では強がってるけど、袋しか破れなかったからエリオットが青い顔してる。

 ヒースは俺を抱えたままエリオットを睨んでた。

「たかがペットじゃないの。また飼えばいいでしょう。それより、兄にたいしてその態度はなに? エリオットはあなたのために魔法を使ったのよ」

 ターニャはエリオットによく似た髪の女の人だった。ごちゃごちゃと着飾ってる。やっぱりというべきか、顔立ちは悪くないけど見ただけでキツそうな性格なのが分かるな。嫌な気分になるから話しかけられたくないタイプだ。

「魔法は教えてもらわなくても構いません。先生がいるので。もうお帰りください」

「まあっ、なんて失礼な子なの。国王陛下に伝えますからね」

 エリオット母が怒って立ち上がった。俺も帰れ帰れと心の中で思う。

「来月の祭典で恥をかくのはお前だからな。どんな魔法使うのか楽しみにしてるぜ」

 エリオットも捨て台詞みたいな言葉を吐いて、ターニャのあとを追う。その後ろ姿を眺めながら、頭の中である魔法を思い浮かべる。初めてだけど、出来るかな。
 口を少しだけあけて魔力を息に込めると、エリオットの後ろ頭から一筋の煙が立ちのぼった。火傷をおわせる気はないのですぐに魔法を止める。一瞬だったから誰にも気付かれなかったかな、そう思ったけどジェイソンがこっちを見た。
 
 ジェイソンと従者は二人のあとを追いかけて客間を出て行った。

「……あんな奴ら、大っ嫌いだ。魔法なんてうまく使えなくても、お前がいて、ジェイソンがいて、母上と暮らしたこの城に住めればそれでいいのに……」

「キュー」

 慰めようと思ってヒースの手をペロペロ舐める。十歳なのにいろいろ抱えてるんだな。

 ジェイソンが戻ってきたので、ヒースは頭を下げた。

「ごめん。我慢できなくて……」

「仕方がありません。まさかエリオット様があのような事をするとは思っていませんでした。私も内心は憤りを感じていましたよ」

「俺の代わりにジェイソンが怒られたらごめんなさい」

「いいのです。しかし、ターニャ様が何か国王陛下に進言されるとやっかいな事になるかもしれませんね」

「厄介なこと?」

「私の思い過ごしならいいのですが……」

 ジェイソンは言葉を濁しながら俺の顔を見た。ん? 俺? 俺もけっこう我慢したぞ。殺されそうになった割にはささやかな報復だと思うんだけど。

「エリオット様の後頭部の髪の毛が一部分だけ燃えてなくなっていました。これは、ヒース様ではありませんよね」

「えっ、知らない」

「そうですよね。誰も魔法を唱えた者はいませんでしたし、この部屋には燃えるようなものはありません……となると」

「キュイ?」

「カルは何もしてないよ。ずっと俺が抱っこしてたんだから」

 ジェイソンはふうっと息を吐いた。

「そうですね。意地の悪い子供へ天がささやかな罰を与えたのかもしれません」

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