61 / 65
旅行編 お墓参り〜赤砂の街
33
しおりを挟む
異世界に来て数ヶ月の間に、仕事やこっちの言葉を習い、ルーシェンとも何度か会ってご飯を食べた。
もう遠い昔の出来事みたいだ。ルーシェンは俺とずっと一緒にいたいと言ってくれたのに、隣国のお姫様との婚約話や身分の違いに気後れして、結局友達のままでいようと断った。だけど今となっては友達としてすらなんの力にもなれなかったと思う。
「あ、アニキ帰ってきた」
王宮での暮らしを思い出していると、アニキが牛と呼ぶには凶暴すぎる外見の動物を引いて戻ってきた。牛もどきの背中には大量の荷物が乗せられてる。
『すごい動物ですね……』
「肉食じゃないないから安心しろ」
蹴られただけで大怪我しそうですけど……。
アニキは俺の見ていた婚約セールの広告を取り上げて、ちらりと俺を見た。
「王都に戻りたいのか?」
戻りたいって言ったら戻してくれるんだろうか。俺の返事は決まってるけど。
『戻らなくて大丈夫です。パレードとか、あるならお祭りみたいで楽しそうだって思っただけで……』
「パレードなら王都じゃなくてもある。婚約旅行で三都市くらいまわるらしいからな」
『え? じゃあ赤砂の街にも来ますか?』
もしルーシェンに会えるのなら、遠くからでいいから少しだけ姿を見たい。もしかしたら如月にも会えるかもしれないし、異世界担当課のみんなにも。ルーシェンの幸せを遠くから願うくらいならアニキも許してくれると思う。
「こんな地方の都市に用もないのに来るわけないだろうが」
なんだ……。やっぱり赤砂の街には来ないのか。
「隣国に行けばパレードが見られるかもな」
『え⁉︎ 見たいです。隣国行きたいです』
アニキが俺の首に腕を回す。
「いいぜ。お前が逃げなかったらな」
『逃げません。あの時はルイーズさんの事で怒ってただけです』
ふてくされてそう言うと、アニキが口付けを落としてきた。
「いいなぁ」っていうスグリさんのぼやきが聞こえる。
「アニキ、俺も、俺も」
『出発するぞ』
目を閉じたスグリさんを無視して、アニキは荷物を荷台に乗せる。
「アニキ冷たい」
『蹴られたくなかったらさっさとしろ』
「蹴られたい。イテッ。アニキー! もっと!」
『スグリさん、かわりに俺がキスしましょうか?』
「ミサキ、殺すぞ」
『俺のこと好きなくせに』
「仲良しだなー。いいなぁ」
嫉妬深いところも鬼畜で変態っぽいところもエロいところも含めてアニキなんだよな。そんなアニキが好きなんだから、もうしょうがない。少しくらい胸が切なくても、好きだって言ってもらえなくてもアニキを信じてついて行くしかないんだ。
それに辛い事ばかりでもなくて、楽しかったり嬉しかったりする事もたくさんある。
『さよなら、赤砂の街』
心の中でルイーズさんと、それからルーシェンやみんなに別れを告げて、俺たちは赤砂の街を出発した。
赤砂編おわり
もう遠い昔の出来事みたいだ。ルーシェンは俺とずっと一緒にいたいと言ってくれたのに、隣国のお姫様との婚約話や身分の違いに気後れして、結局友達のままでいようと断った。だけど今となっては友達としてすらなんの力にもなれなかったと思う。
「あ、アニキ帰ってきた」
王宮での暮らしを思い出していると、アニキが牛と呼ぶには凶暴すぎる外見の動物を引いて戻ってきた。牛もどきの背中には大量の荷物が乗せられてる。
『すごい動物ですね……』
「肉食じゃないないから安心しろ」
蹴られただけで大怪我しそうですけど……。
アニキは俺の見ていた婚約セールの広告を取り上げて、ちらりと俺を見た。
「王都に戻りたいのか?」
戻りたいって言ったら戻してくれるんだろうか。俺の返事は決まってるけど。
『戻らなくて大丈夫です。パレードとか、あるならお祭りみたいで楽しそうだって思っただけで……』
「パレードなら王都じゃなくてもある。婚約旅行で三都市くらいまわるらしいからな」
『え? じゃあ赤砂の街にも来ますか?』
もしルーシェンに会えるのなら、遠くからでいいから少しだけ姿を見たい。もしかしたら如月にも会えるかもしれないし、異世界担当課のみんなにも。ルーシェンの幸せを遠くから願うくらいならアニキも許してくれると思う。
「こんな地方の都市に用もないのに来るわけないだろうが」
なんだ……。やっぱり赤砂の街には来ないのか。
「隣国に行けばパレードが見られるかもな」
『え⁉︎ 見たいです。隣国行きたいです』
アニキが俺の首に腕を回す。
「いいぜ。お前が逃げなかったらな」
『逃げません。あの時はルイーズさんの事で怒ってただけです』
ふてくされてそう言うと、アニキが口付けを落としてきた。
「いいなぁ」っていうスグリさんのぼやきが聞こえる。
「アニキ、俺も、俺も」
『出発するぞ』
目を閉じたスグリさんを無視して、アニキは荷物を荷台に乗せる。
「アニキ冷たい」
『蹴られたくなかったらさっさとしろ』
「蹴られたい。イテッ。アニキー! もっと!」
『スグリさん、かわりに俺がキスしましょうか?』
「ミサキ、殺すぞ」
『俺のこと好きなくせに』
「仲良しだなー。いいなぁ」
嫉妬深いところも鬼畜で変態っぽいところもエロいところも含めてアニキなんだよな。そんなアニキが好きなんだから、もうしょうがない。少しくらい胸が切なくても、好きだって言ってもらえなくてもアニキを信じてついて行くしかないんだ。
それに辛い事ばかりでもなくて、楽しかったり嬉しかったりする事もたくさんある。
『さよなら、赤砂の街』
心の中でルイーズさんと、それからルーシェンやみんなに別れを告げて、俺たちは赤砂の街を出発した。
赤砂編おわり
11
お気に入りに追加
108
あなたにおすすめの小説
大親友に監禁される話
だいたい石田
BL
孝之が大親友の正人の家にお泊りにいくことになった。
目覚めるとそこは大型犬用の檻だった。
R描写はありません。
トイレでないところで小用をするシーンがあります。
※この作品はピクシブにて別名義にて投稿した小説を手直ししたものです。
名軍師様の尿道プレイ
Ruon
BL
北条家の軍師様が自分の首を狙いに来た忍に尿道プレイを仕込まれるお話。
攻:揚篠鴉(アゲシノカラス) 三好衆頭領。過去の実験で半鬼になった。遠流とはかつて親友だった。
受:鈴佐遠流(リンサトオル) 北条家の軍師。非道な実験を試みた松永家の跡取り。本人は松永の名を捨てて北条家に仕えているがその呪縛から逃れられない。
23.8.22 不定期に続編追加します。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる