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旅行編 お墓参り〜赤砂の街
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『そんな事言って、この先愛する人が出来たらどうするんですか?』
しつこく聞いてみると、アニキはその場に刺してあった串焼きの肉を俺に手渡した。
「食うか?」
『いただきます。これ、何の肉ですか?』
「それは俺が飼っていたペットのトカゲの肉だ」
頬張ろうとしてやめた。びっくりしてアニキの顔を見る。
「盗賊の頭が、俺のいない隙に殺して丸焼きにしやがった」
アニキは自嘲気味に笑う。
「頭は、俺の事を愛してるらしいぜ。あまりしつこく迫ってくるから刺してやったら、報復に俺のペットを殺しやがった。こいつを俺に食えってな」
『……ごめんなさい。埋めてあげますか……』
食べられなくなって串を眺めると、アニキはそれを取り上げた。
「いや、お前が食わないなら俺が食う。食って血肉にする」
『でも』
「子供や他人を犠牲にして、自分だけが助かりたいと思うのが愛ってやつか? 愛する人間のペットを殺してそいつに食わせるのは? そしてそれを食って血肉にすることが愛だと思うか? 俺の世界には愛なんてものは存在しない。この先も」
吐き捨てるように言うレヴィンに、胸が痛んだ。
『でも……レヴィンはずっと母親のイヤリングをしてます。それに、優しいところもたくさんあります。俺のことだって、助けようとしてくれました』
半分は自分に言い聞かせている気がした。少しくらい愛されてると実感したい。手を伸ばすと、逆に腕を掴まれた。レヴィンの目が炎に照らされてギラリと光る。
「いつか殺すかもしれないが、俺専属の奴隷になるか?」
『奴隷じゃ嫌です。レヴィンの事が好きです。一緒に幸せになりたいのに……少しでいいから俺のこと好きだって言ってください』
「変わったガキだな。そうだな、お前の事はーー」
アニキはそこで言葉に詰まり、少しだけ不思議そうな顔をした。
『どうしたんですか?』
「いや」
レヴィンは急に俺の腕を離し、視線を落とした。
『レヴィン?』
「もういい。向こうへ行け」
人を拒絶するような姿が悲しくて、その場から離れられずにずっとアニキの隣に座っていた。
***
意識が戻った時、アニキの腕の中にいた。
目の前にあるのは見慣れた悪魔の刺青だ。その契約の模様は見慣れすぎていて、どの場所にどんな模様が存在するのかほとんど理解している。アニキは嫌いだと思うけど、俺はアニキの肩にある鳥のような形の模様も、胸にある傷痕も、クロによく似た獅子の顔も好きだった。
腕が自由になっていたので指先で刺青にそっと触れる。腕の中から顔を見上げると、アニキはまだ眠ってた。
夢の中のレヴィンよりずっと大人だ。髪が少しだけ伸びてるけど、日に焼けた肌や目を閉じていても機嫌の悪そうな所は同じ。この角度からアニキの顔を見上げられる人間はそんなにいないんじゃないかと思う。
喉元にすり寄ると、乾いた砂と汗とこの地方特有の香辛料や香料を混ぜたような匂いがしてくんくん鼻をならした。毎日嗅いでたアニキの匂いだ。ドキドキするし安心もする大好きな匂い。
刺青にキスをして、眠ってるアニキに寄り添う。
あのペットの肉は食べたんだろうか。そしてアニキの血肉として身体の中にわずかでも存在してるのかな。
それはきっと愛情だと思う。アニキは愛し方が下手なだけで……きっと俺への愛情だって存在してる。こうして抱きしめてくれているし。
(アニキはミサキの事好き。言えないだけ)
スグリさんもそんな事言ってたから、そう思いたい。
そしてふと、夢の中で言葉に詰まっていたレヴィンを思い出す。
あの時何を言おうとしたんだろう。
もしかして、言えないだけっていうのは、アニキがシャイだからとか人間不信だからとかじゃなく、本当に言えないのだろうか。
(死ぬ前になったら言ってやるよ)
アニキがいつか言ってた言葉だ。
もしかしたら本当に、死ぬ前にしか言えないのかもしれない。分からないけど。
まあ、どっちでもいいか。
『レヴィン……大好きです』
そう言って再び腕の中で眠ることにした。
しつこく聞いてみると、アニキはその場に刺してあった串焼きの肉を俺に手渡した。
「食うか?」
『いただきます。これ、何の肉ですか?』
「それは俺が飼っていたペットのトカゲの肉だ」
頬張ろうとしてやめた。びっくりしてアニキの顔を見る。
「盗賊の頭が、俺のいない隙に殺して丸焼きにしやがった」
アニキは自嘲気味に笑う。
「頭は、俺の事を愛してるらしいぜ。あまりしつこく迫ってくるから刺してやったら、報復に俺のペットを殺しやがった。こいつを俺に食えってな」
『……ごめんなさい。埋めてあげますか……』
食べられなくなって串を眺めると、アニキはそれを取り上げた。
「いや、お前が食わないなら俺が食う。食って血肉にする」
『でも』
「子供や他人を犠牲にして、自分だけが助かりたいと思うのが愛ってやつか? 愛する人間のペットを殺してそいつに食わせるのは? そしてそれを食って血肉にすることが愛だと思うか? 俺の世界には愛なんてものは存在しない。この先も」
吐き捨てるように言うレヴィンに、胸が痛んだ。
『でも……レヴィンはずっと母親のイヤリングをしてます。それに、優しいところもたくさんあります。俺のことだって、助けようとしてくれました』
半分は自分に言い聞かせている気がした。少しくらい愛されてると実感したい。手を伸ばすと、逆に腕を掴まれた。レヴィンの目が炎に照らされてギラリと光る。
「いつか殺すかもしれないが、俺専属の奴隷になるか?」
『奴隷じゃ嫌です。レヴィンの事が好きです。一緒に幸せになりたいのに……少しでいいから俺のこと好きだって言ってください』
「変わったガキだな。そうだな、お前の事はーー」
アニキはそこで言葉に詰まり、少しだけ不思議そうな顔をした。
『どうしたんですか?』
「いや」
レヴィンは急に俺の腕を離し、視線を落とした。
『レヴィン?』
「もういい。向こうへ行け」
人を拒絶するような姿が悲しくて、その場から離れられずにずっとアニキの隣に座っていた。
***
意識が戻った時、アニキの腕の中にいた。
目の前にあるのは見慣れた悪魔の刺青だ。その契約の模様は見慣れすぎていて、どの場所にどんな模様が存在するのかほとんど理解している。アニキは嫌いだと思うけど、俺はアニキの肩にある鳥のような形の模様も、胸にある傷痕も、クロによく似た獅子の顔も好きだった。
腕が自由になっていたので指先で刺青にそっと触れる。腕の中から顔を見上げると、アニキはまだ眠ってた。
夢の中のレヴィンよりずっと大人だ。髪が少しだけ伸びてるけど、日に焼けた肌や目を閉じていても機嫌の悪そうな所は同じ。この角度からアニキの顔を見上げられる人間はそんなにいないんじゃないかと思う。
喉元にすり寄ると、乾いた砂と汗とこの地方特有の香辛料や香料を混ぜたような匂いがしてくんくん鼻をならした。毎日嗅いでたアニキの匂いだ。ドキドキするし安心もする大好きな匂い。
刺青にキスをして、眠ってるアニキに寄り添う。
あのペットの肉は食べたんだろうか。そしてアニキの血肉として身体の中にわずかでも存在してるのかな。
それはきっと愛情だと思う。アニキは愛し方が下手なだけで……きっと俺への愛情だって存在してる。こうして抱きしめてくれているし。
(アニキはミサキの事好き。言えないだけ)
スグリさんもそんな事言ってたから、そう思いたい。
そしてふと、夢の中で言葉に詰まっていたレヴィンを思い出す。
あの時何を言おうとしたんだろう。
もしかして、言えないだけっていうのは、アニキがシャイだからとか人間不信だからとかじゃなく、本当に言えないのだろうか。
(死ぬ前になったら言ってやるよ)
アニキがいつか言ってた言葉だ。
もしかしたら本当に、死ぬ前にしか言えないのかもしれない。分からないけど。
まあ、どっちでもいいか。
『レヴィン……大好きです』
そう言って再び腕の中で眠ることにした。
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