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旅行編 お墓参り〜赤砂の街
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危害は加えられそうにないし、売られる事もなさそうだから、しばらくスグリのテントに居座る事にした。
諦めの境地ってやつかもしれない。
スグリは黙々と、でもなんとなく楽しそうに作業をしていて、俺はそれをテントの中に寝そべって眺めていた。
中はちょっと独特の匂いがするし、埃っぽいけど暑さも砂埃も遮られて快適だ。開いた入り口からはスグリが歩き回っているのが見える。おそらく火を起こしているんだと思う。
「魚とってくる」
そう言い残して消えたと思うと、三十分後くらいには「取れた」と嬉しそうに戻って来た。それからずっと作業をしてる。
……アニキ、どうしてるかな。
テントの中でぼんやりと天井の模様を眺めながらそんな事を考える。
アニキと別れたら一生誰とも付き合えない気がする。
アニキには酷い目にたくさんあわされたけど、心の中にはそれを喜んでる俺が確かに存在してた。それに、アニキは鬼みたいな性格にみえるけど、本当は時々優しい。言葉はきついし、言って欲しい言葉は何一つ言ってくれないけど、たまにすごく心配そうな顔で俺を見ている時がある。だから……きっと言われてないだけで本当は好かれてるんだと都合よく解釈してた。
身体に入れられた悪魔の刻印はもちろんだけど、心もアニキ以外に触れられるのを嫌がってるから、アニキと別れたら一生一人で生きていかなきゃいけないのか。
……それは辛いな。
滲む涙をごしごし拭いていると、スグリが俺を呼びに来た。
「食べ物出来たぞ」
スグリが作っていたのは、魚を煮た料理と干し肉のスープ、赤砂の街でよく売られている硬いパンにソースを塗った物だった。
無言で口をつけたけど、想像以上に美味しかった。小さなキャンプファイヤーには鍋がかけられていて、干し肉スープのおかわりも出来そうだ。
「旨いか?」
『美味しいです』
「良かった」
スグリは自分は食べずにじっと俺の様子を見ている。
『食べないんですか?』
「食べる。でも、お前が先。お前はアニキのペットなのに痩せっぽちで倒れそうだ。お前が倒れたらアニキが泣く」
確かにここ一年で前より痩せたとは思う。体重を計ったことがないからわからないけど。でも、そんなに酷いかな。
「俺はお前をもう少し太らせて、アニキに安心してもらう。だからたくさん食え」
変わった人だな。きっとアニキの事が大好きだったんだろうな。
『わかりました』
お言葉に甘えてたくさん食べる事にした。
お金や食料を気にせずに食べられる事は滅多にない。食べるだけ食べて、片付けも何もかもスグリに任せて寝る事にした。
こんなに楽なのは久しぶりだ。
お金の心配も、寝床の心配もしなくていい。身体も楽だし。気持ちはちょっと辛いけど、それは時間が経てばもう少しマシになると思う。身体が元気になったらこの先の事を考えよう。
翌日も似たような一日だった。
スグリの手伝いを少しだけして、あとは用意されたご飯を三食食べて、のんびりして眠る。テントの周辺を散歩しては景色を眺め、遠くにいる動物を観察したりした。
スグリはいい人なんじゃないかと思えて来た。本当に俺の面倒を見る事を使命だと思っているらしい。本当なら別の街に移動して働かなきゃいけないけど、このままスグリと過ごしていたら、過酷な労働からも、知らない人しかいない孤独からも、この先のあてもない人生からも逃がれられる気がして動けなかった。
だけど次の日の夜、早めに寝付いた俺は明け方に物音で目を覚ました。
「え?」
テントの中には入って来なかったはずのクロがいる。
「クロ……?」
クロは大きかった。
今まで大型犬くらいの大きさだったのに、トラと同じくらいの大きさになってる。
『お前、なんで大きく……』
そこまで言って、屋外から物音が聞こえてくるのに気づく。誰かが戦っているような音。
もしかして、盗賊か? または街の警備兵かもしれない。そう思うと恐怖がぞわりと襲って来た。警備兵ならスグリは捕まって島送りだし、盗賊なら俺も殺される可能性大だ。
こっそりテントから顔を出すと、月明かりの下、地面に伸びているスグリが見えた。顔に殴られた跡がある。
足音がした方を見上げると、大型の獣程度なら捻り殺しそうな顔のアニキが立っていた。
諦めの境地ってやつかもしれない。
スグリは黙々と、でもなんとなく楽しそうに作業をしていて、俺はそれをテントの中に寝そべって眺めていた。
中はちょっと独特の匂いがするし、埃っぽいけど暑さも砂埃も遮られて快適だ。開いた入り口からはスグリが歩き回っているのが見える。おそらく火を起こしているんだと思う。
「魚とってくる」
そう言い残して消えたと思うと、三十分後くらいには「取れた」と嬉しそうに戻って来た。それからずっと作業をしてる。
……アニキ、どうしてるかな。
テントの中でぼんやりと天井の模様を眺めながらそんな事を考える。
アニキと別れたら一生誰とも付き合えない気がする。
アニキには酷い目にたくさんあわされたけど、心の中にはそれを喜んでる俺が確かに存在してた。それに、アニキは鬼みたいな性格にみえるけど、本当は時々優しい。言葉はきついし、言って欲しい言葉は何一つ言ってくれないけど、たまにすごく心配そうな顔で俺を見ている時がある。だから……きっと言われてないだけで本当は好かれてるんだと都合よく解釈してた。
身体に入れられた悪魔の刻印はもちろんだけど、心もアニキ以外に触れられるのを嫌がってるから、アニキと別れたら一生一人で生きていかなきゃいけないのか。
……それは辛いな。
滲む涙をごしごし拭いていると、スグリが俺を呼びに来た。
「食べ物出来たぞ」
スグリが作っていたのは、魚を煮た料理と干し肉のスープ、赤砂の街でよく売られている硬いパンにソースを塗った物だった。
無言で口をつけたけど、想像以上に美味しかった。小さなキャンプファイヤーには鍋がかけられていて、干し肉スープのおかわりも出来そうだ。
「旨いか?」
『美味しいです』
「良かった」
スグリは自分は食べずにじっと俺の様子を見ている。
『食べないんですか?』
「食べる。でも、お前が先。お前はアニキのペットなのに痩せっぽちで倒れそうだ。お前が倒れたらアニキが泣く」
確かにここ一年で前より痩せたとは思う。体重を計ったことがないからわからないけど。でも、そんなに酷いかな。
「俺はお前をもう少し太らせて、アニキに安心してもらう。だからたくさん食え」
変わった人だな。きっとアニキの事が大好きだったんだろうな。
『わかりました』
お言葉に甘えてたくさん食べる事にした。
お金や食料を気にせずに食べられる事は滅多にない。食べるだけ食べて、片付けも何もかもスグリに任せて寝る事にした。
こんなに楽なのは久しぶりだ。
お金の心配も、寝床の心配もしなくていい。身体も楽だし。気持ちはちょっと辛いけど、それは時間が経てばもう少しマシになると思う。身体が元気になったらこの先の事を考えよう。
翌日も似たような一日だった。
スグリの手伝いを少しだけして、あとは用意されたご飯を三食食べて、のんびりして眠る。テントの周辺を散歩しては景色を眺め、遠くにいる動物を観察したりした。
スグリはいい人なんじゃないかと思えて来た。本当に俺の面倒を見る事を使命だと思っているらしい。本当なら別の街に移動して働かなきゃいけないけど、このままスグリと過ごしていたら、過酷な労働からも、知らない人しかいない孤独からも、この先のあてもない人生からも逃がれられる気がして動けなかった。
だけど次の日の夜、早めに寝付いた俺は明け方に物音で目を覚ました。
「え?」
テントの中には入って来なかったはずのクロがいる。
「クロ……?」
クロは大きかった。
今まで大型犬くらいの大きさだったのに、トラと同じくらいの大きさになってる。
『お前、なんで大きく……』
そこまで言って、屋外から物音が聞こえてくるのに気づく。誰かが戦っているような音。
もしかして、盗賊か? または街の警備兵かもしれない。そう思うと恐怖がぞわりと襲って来た。警備兵ならスグリは捕まって島送りだし、盗賊なら俺も殺される可能性大だ。
こっそりテントから顔を出すと、月明かりの下、地面に伸びているスグリが見えた。顔に殴られた跡がある。
足音がした方を見上げると、大型の獣程度なら捻り殺しそうな顔のアニキが立っていた。
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