盗賊とペット(レヴィン編)

カム

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旅行編 お墓参り〜赤砂の街

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『あのー……人間のペットはいなかったんですか?』

 もう知り合いじゃないフリするの疲れたから気にせず聞いてみる。

「いない」
『ペットじゃなくて恋人はいなかったんですか? 美人でセクシーな宿のお姉さんとか』
「いない。アニキは嘘つきだから、大勢騙して貢がせてた。でも人間がキライだから恋人いなかった」

 そういうと、スグリはじっと俺の顔を見た。この人の目は、なんだかいろいろな物を見透かしてそうな気がして落ち着かない。

「お前は可愛がられてる気がする。トカゲと同じ」

 そんな事言われても……喜んでいいのかどうなのか分からない。

『私は全然愛されてないペットです。都合が良くて離れられないから、アニキに利用されてるだけなんです』

 言っているうちに泣けてきた。
 なんでよく知らない盗賊相手にこんな事を話してるんだろう。馬鹿みたいだし自分が情けない。もう放っておいてもらおうと、ベンチから立ち上がって歩き始める。

 スグリは何故か後をついてきた。涙を拭って振り返る。

『ついてこないでください。アニキならどこかの宿にいます。あとは自分で探してください』

 そう言ったのに、スグリの荷車を引きずる音がずっと聞こえてくる。面倒くさいから振り返らずに進むけど、疲れ切った俺よりスグリの方が体力があって振り切るのは無理みたいだった。

『ついて来るなって言ってるのに、なんなんですか?』
「お前、アニキのペットなら俺より上。お世話しないと殴られる。ご飯用意するから俺の家に来い」

 馬鹿なのかよ。
 家にいくわけないだろ。盗賊の家なんかに。売られて奴隷になるのはもううんざりだ。

 走って逃げようとしたら、いきなり目の前に何かが立ち塞がった。真っ黒い犬、いや、悪魔の契約の獣だ。突然現れたからすごくびっくりした。

『クロ……ついて来たのか。なんで……』

 飛びかかってきたクロを避けきれなくて、ぶつかってよろけた俺をスグリが荷物みたいに抱え上げる。

『うわっ、離せよ!!』
「うちに来てご飯食ってけ」
『何するんですか!』

 荷車に荷物と一緒に乗せられて、何故かその上にクロが飛び乗ってくる。重くて動けない。
 こういう時、異世界の街の人間は見て見ぬフリだ。警察なんてものはないし、通報する人もいない。関わるのが嫌だからさっさとその場から離れるだけだ。

「クロ、何するんだよ……酷いじゃないか」

 初めて会った時はスフィンクスみたいな大きさで食われるかと思ったけど、最近のクロは大型犬くらいだったし、オヤツをあげたりして仲良くやってると思ってたのに。
 相変わらず置物のような顔で何を考えてるか分からない。もとから悪魔の使い魔なんだから期待するだけ無駄かな。それとも俺について来たんだろうか。

 諦めて荷車にゆられて空をみていた。売られる仔牛ってこんな気分なのかな。スグリは盗賊だからなのか、細身だけど、力は俺よりずっと強いみたいで、俺とクロが乗っていても平気で荷車を引いて進んでいった。

***

『これが家ですか?』

 赤砂の街の外にポツンと立っているテントがあった。大きさは大人が数人寝られる程度。モンゴルの遊牧民が使うテントみたいな住居に似ているけど、あれよりずっと小さい。
 周りは数本の木と岩場と小さな水辺。オアシスというほど緑は多くない。砂嵐が吹き荒れる場所なのに、まさかのテント暮らしなんだろうか。想像と違ってた。

『ここに住んでるんですか? 砂嵐は?』

「俺、嵐が来るの分かる。来る前に移動する。おいしい水も、食べ物のある場所も分かる。魚がたくさん取れる所も知ってる」

 スグリがにかっと笑って得意げに胸を張った。この人、俺よりずっと年上っぽいけど無邪気だな。盗賊なのに無邪気って変な表現だけど。

『スグリは本当に盗賊なんですか?』

 荷物を下ろしてテントの周囲に並べているスグリに聞いてみると、そうだと頷いた。

「役立たずだから砂漠に捨てられて、盗賊に捕まった。アニキが、俺は使えるからって子分にしてくれた」

 ヘビーな過去をなんでもない事みたいにサラッと言ったな。

「盗賊の仲間がみんな捕まって、アニキもいなくなって困ってた。でも良かった。アニキのペットに会えて。またアニキにも会える」

『私はアニキの所から逃げ出したんですけど』

「大丈夫。アニキは絶対にペットを探しに来る」

 そう言ってスグリは笑った。
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