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旅行編 お墓参り〜赤砂の街
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「あら、出かけるの?」
部屋を出ようとした時に廊下でルイーズさんに出会った。
アニキは相変わらずの素っ気なさで、ろくにルイーズさんに目もくれず先に歩いて行ってしまった。それで俺がかわりに夕食を食べに行くことと、お菓子のお礼を言う。
「そう。ちょうど良かったわ。屋根裏部屋の鍵を渡しておくわね」
渡されたのは金属製の鍵で、丸い穴に紐が通されてた。屋根裏部屋にも鍵があるのか。
『ありがとうございます』
お礼を言って鍵をかけているあいだ、ルイーズさんがじっと俺を見ている事に気付いた。
何だろう……どこか変な所あるかな。さっきと服装が違うからかな。
まさかと思うけど、さっきまでアニキと部屋でイチャイチャしてた事気づかれてるんだろうか。異世界の宿って壁薄そうだし。でも宿屋で働いている人は恋人同士慣れしてると思うから、あまり気にする事ないかな。
『あの、行ってきます』
「そう。気をつけてね」
挨拶すると、ルイーズさんはにっこり笑ってくれた。
外はすっかり日が暮れていた。
街に灯りが灯されていて、洞窟ハウスにいた俺としては久々に目にする都会の風景だった。もちろん石造りの頑丈な建物や、道に置かれている看板の模様にいたるまで日本の風景とは全く違うけど。
でも、灯りっていいよな。沢山あると人々の生活を感じて孤独が紛れるし。それに、誰かに行ってきますって言えるのが嬉しい。悪魔の契約のせいで知り合いの記憶から忘れ去られた俺だけど、新たに知り合った人の記憶からは削除されないらしい。
「なに笑ってる」
横を歩いていたアニキが、俺の顔を見て呆れたように尋ねる。
『旅行、楽しいですね』
「お前は単純だな」
『アニキは楽しくないんですか?』
「……そうだな。これから酒が飲めるからな」
『飲み過ぎたら駄目ですよ!』
「うるせぇな」
なんだかんだ言いつつアニキも楽しそうだ。いつも一人で出かけているらしい飲み屋に、今日は俺も連れて行ってくれるから、飲みすぎないように隣で監視しよう。そう思っていたけど、考えが甘かった。
宿屋を出て、屋台がずらりと並んでいる市場を通り過ぎる。
夜は夜で活気がありそうだ。いろいろな食べ物の匂いが混ざり合って独特の空気を作り出している。アニキが作っていたような木彫りの楽器や置物を売っているお店もある。串で丸焼きにされた砂ワニを売っている店もあった。全部の店を覗いてみたいけど、お金もないし無理かな。
「おい、先に行くぞ」
何に使うかよく分からないお面や、装飾品を眺めているうちに、アニキが先に行ってしまった。
『あっ、待ってください』
人混みにアニキを見失わないように、追いかけようとして誰かとぶつかってしまった。
『すみません』
相手は大きな荷物を背負った細い男の人だ。
ん? どこかであったような気がする。
若いけど灰色に近い髪の毛、垂れ目でなんとなく悪党には見えない顔。こいつ、誰だっけ?
不思議なことに相手も俺をじろじろと眺めた。だけど、悪魔の契約のせいで誰も知り合いがいない俺だから、その人も特に何も言わずに立ち去ってしまった。
誰だっただろう。
どこであったんだっけ? 砦? 石工の街? それとも王都かな。
確かに見覚えがあるのに、名前が思い出せない。そもそも名前を聞いたことのない相手だったかも。
立ち止まって考えていると、戻ってきたアニキに腕をぐいと引かれた。
「遅い。何してる、行くぞ」
部屋を出ようとした時に廊下でルイーズさんに出会った。
アニキは相変わらずの素っ気なさで、ろくにルイーズさんに目もくれず先に歩いて行ってしまった。それで俺がかわりに夕食を食べに行くことと、お菓子のお礼を言う。
「そう。ちょうど良かったわ。屋根裏部屋の鍵を渡しておくわね」
渡されたのは金属製の鍵で、丸い穴に紐が通されてた。屋根裏部屋にも鍵があるのか。
『ありがとうございます』
お礼を言って鍵をかけているあいだ、ルイーズさんがじっと俺を見ている事に気付いた。
何だろう……どこか変な所あるかな。さっきと服装が違うからかな。
まさかと思うけど、さっきまでアニキと部屋でイチャイチャしてた事気づかれてるんだろうか。異世界の宿って壁薄そうだし。でも宿屋で働いている人は恋人同士慣れしてると思うから、あまり気にする事ないかな。
『あの、行ってきます』
「そう。気をつけてね」
挨拶すると、ルイーズさんはにっこり笑ってくれた。
外はすっかり日が暮れていた。
街に灯りが灯されていて、洞窟ハウスにいた俺としては久々に目にする都会の風景だった。もちろん石造りの頑丈な建物や、道に置かれている看板の模様にいたるまで日本の風景とは全く違うけど。
でも、灯りっていいよな。沢山あると人々の生活を感じて孤独が紛れるし。それに、誰かに行ってきますって言えるのが嬉しい。悪魔の契約のせいで知り合いの記憶から忘れ去られた俺だけど、新たに知り合った人の記憶からは削除されないらしい。
「なに笑ってる」
横を歩いていたアニキが、俺の顔を見て呆れたように尋ねる。
『旅行、楽しいですね』
「お前は単純だな」
『アニキは楽しくないんですか?』
「……そうだな。これから酒が飲めるからな」
『飲み過ぎたら駄目ですよ!』
「うるせぇな」
なんだかんだ言いつつアニキも楽しそうだ。いつも一人で出かけているらしい飲み屋に、今日は俺も連れて行ってくれるから、飲みすぎないように隣で監視しよう。そう思っていたけど、考えが甘かった。
宿屋を出て、屋台がずらりと並んでいる市場を通り過ぎる。
夜は夜で活気がありそうだ。いろいろな食べ物の匂いが混ざり合って独特の空気を作り出している。アニキが作っていたような木彫りの楽器や置物を売っているお店もある。串で丸焼きにされた砂ワニを売っている店もあった。全部の店を覗いてみたいけど、お金もないし無理かな。
「おい、先に行くぞ」
何に使うかよく分からないお面や、装飾品を眺めているうちに、アニキが先に行ってしまった。
『あっ、待ってください』
人混みにアニキを見失わないように、追いかけようとして誰かとぶつかってしまった。
『すみません』
相手は大きな荷物を背負った細い男の人だ。
ん? どこかであったような気がする。
若いけど灰色に近い髪の毛、垂れ目でなんとなく悪党には見えない顔。こいつ、誰だっけ?
不思議なことに相手も俺をじろじろと眺めた。だけど、悪魔の契約のせいで誰も知り合いがいない俺だから、その人も特に何も言わずに立ち去ってしまった。
誰だっただろう。
どこであったんだっけ? 砦? 石工の街? それとも王都かな。
確かに見覚えがあるのに、名前が思い出せない。そもそも名前を聞いたことのない相手だったかも。
立ち止まって考えていると、戻ってきたアニキに腕をぐいと引かれた。
「遅い。何してる、行くぞ」
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